2012.02.15
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すべての子どもたちは「善く」なろうとしている

滋賀学園中学高等学校 校長・学校法人滋賀学園 理事・法人本部事務局 総合企画部長 安居 長敏

今年度の高校生徒募集も2月2・3日の入学試験、7日の合格発表を終え、ようやく一息ついた感があります。

学校改革プロジェクトの名の下に教育内容を一新し、やらされるのではなく自分から進んでやる勉強へと、学びの体系そのものが大きく変貌する来年度・・・。それに呼応するかのように、大きな期待を持って本校の門を叩いてくれた受験生が増えたことは、とてもありがたいことです。

現段階で入学が確定しているのは専願(地域によっては単願と呼ぶのでしょうか)合格者ですが、この後、公立(県立)高校の入試を経て、3月14日に最終併願入学者が確定し、新一年生の全貌が見えてきます。

募集の最前線に立ってきた側から言えば、これからがほんとうの勝負。入学してきてくれた子どもたちが、期待どおりの、あるいは期待を上回る満足感を得られるような学校生活でなければなりません。プロジェクトリーダーとしても、形を整えることから中身を充実させることへと、改革のステージを移していかなければならないと、日々言い続けているところです。

そんな中、しばしば校長先生と教育について意見を交わすことがあります。県立高校の出身で、県教委でも大活躍され、県立高校の校長として各校で改革の道筋を築いてこられたトップです。行動力がすばらしく、本来、私学に公立出身の校長を置くのはどうかと思いますが、それを覆すに充分な「私学人的要素」を持っておられます。

極めて話が早く、合意形成も楽で、改革がテンポよく進みます。これまでの経験を踏まえ「何をなすべきか」という方向性が明確で、まったくブレないところが、すごくいいです。

先日も、「子どもをどうとらえるか」という話になったとき、慶応大学名誉教授の村井実先生の著書『善さの構造』の一文を引き合いに出し、こんなことを話してくださいました。

*人間は「善さ」ということについて自覚でき、「善く」行きようとする存在。
*「善さ菌」は人間であるかぎり、生まれついて、だれもが持っている。

・・・ということで、「教育=子どもの持つ力(善さ)を信じて教え育てる営み」であると。

村井実先生のこの考え方は、『新・教育学のすすめ』(1978:小学館)でもわかりやすく述べられています。

『私の理論の根本は、「すべての子どもたちは”善く”なろうとしている」という子ども観です。これに対して、現代の学校というのは、明らかにこれと異なった子ども観、つまり、「すべての子どもたちはカリキュラムどおりに学ばなければならない-そうでなければ本来ダメなもの、それが子どもというものである」という、いわば子ども不信の子ども観の上に成り立っているといえます。』

その、「子ども不信の子ども観」の表れとして村井先生が指摘しているのが「症状主義」で、人が本来「善くなろうとする」という性質(「善さ菌」)を持っていることを無視して、それとは無関係に「善さ」の諸症状(指導要領に列挙されているような事柄)を引き起こそうとしているのが、現在の教育であるといいます。

そして、さらに続けて、こうも述べられています。

『その「善さ」はけっしてはじめから子どもの中にあるわけではありません。(中略)子どもはただ「善く」なろうとしているだけです。それを「善さ」に変えるために「教科」が使われます。「文化」というのは、「善く」なろうとする人間がつくり出したものであり、その意味で「善いもの」といえます。子どもたちもいずれこの「文化」をつくり出していくのですが、まず過去に作られた文化を手がかりにする必要があります。だから、それを「教科」として、それをもって先生が子どもに働きかけることになるのです。』

まとめると、「学校というところは、子どもの”善くなろう”としている構造を確かに把えておいて、その成長にいちばんふさわしい文化をぶつけ、それに出会わせてやるところだ」、となるでしょうか。

考え出すと、なかなか難しいことかもしれませんが、何よりも校長先生が《教育の大前提》として、この話をしてくださったことはうれしかったです。

大いに共感でき、明日への希望が湧いてくるような気がしました。

安居 長敏(やすい ながとし)

滋賀学園中学高等学校 校長・学校法人滋賀学園 理事・法人本部事務局 総合企画部長
私立高校で20年間教員を務めた後、コミュニティFMを2局設立、同時にパソコンサポート事業を起業。再び学校現場に戻り、21世紀型教育のモデルとなる実践をダイナミックに推進中。

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