最近、教育における「縦糸・横糸理論」が広がりつつあります。
教育における縦糸とは教師と子どもの関係づくりで、横糸とは子ども同士の関係づくりを指しています。この縦糸と横糸がバランスよく張ることができないと、指導がうまくいかなかったり、学級崩壊を起こしてしまったりします。また、子どもが思うように成長しない原因にもなります。
学年末を前に、そして新学期を控えたこの時期に、もう一度、教育の縦糸と横糸を考えてみたいと思います。
まず、縦糸を張る=教師と子どもとの関係づくりですることは、どんなことでしょうか。一言で言えば、「信頼関係づくり」です。それをどうやって築いていくかが、問題です。 それは、『教師の姿勢』にかかっていると考えてます。その姿勢とは、教師として次のような指導をしているかということです。
(1)挨拶、返事、敬語といった言葉遣いをきちんとさせる。(もちろん、教師が率先してすることが大事)
(2)学校での躾をきちんと身に付けさせる。(やるべきことをする指導)
(3)ルールをきちんと作る指導をする。(子どもたちに作らせる)
ただ、そのための指導法は様々あると考えています。今の子どもたちは、教師の直球指導ばかりでは受け入れられない場合がありますから、変化球や抜いた球も必要となってくると思います。
また、教師が子どもに感謝する姿勢を見せることが大切です。子どもに寄り添い、一緒に感動したり笑ったりすることも必要でしょう。教えるべきは教えて、任せる姿勢も重要です。こうした教師の姿勢や態度が、子どもとの信頼関係を築き強めることになります。つまり、強固な縦糸を張ることになるのです。
一方、横糸を張る=子ども同士の関係づくりをするとは、どんなことでしょうか。一言で言えば、「関係づくりができる環境づくり」だと考えています。
そのためには、様々な『意図的な仕掛け』を用意することです。偶然を装いながら、必然的な出会いや成功体験をさせることです。子ども同士の出会いだけでなく、子どもと活動の出会わせ方を工夫するのです。ちょうど、単元や題材の導入に似た仕掛けを行うということです。
たとえば、あるグループ活動が成功するような段取りをしておいて、成功したことをそのグループの協力や努力、アイディアなどによるものとして評価することです。
また、構成的グループエンカウンターやライフスキルトレーニングを取り入れ、子ども同士の関わる機会と関係性向上の機会をつくることも大切です。
さらに、子どもの背景となっている家庭も、子どもの関係づくりを進める環境として大切です。学校での活動の様子を包み隠さず報告し、学級通信や保護者会などを通して、保護者同士の関係づくりまで配慮できるとよいでしょう。
こうした子ども同士の関係づくりの場をつくり、意図的な仕掛けでよりよい関係性を築くことが、強固な横糸を張ることになるのです。
教育を織物の縦糸と横糸に例えると、わかりやすいことは教師には容易に理解できると思います。しかし、実際に織物を体験してみると、実に深いものがあります。
私は足利市にある「まちなか遊学館」に行った時に、手織り体験をしました。同館には、足利銘仙の織物資料や撚糸機・織機なども展示されていました。特に、八丁撚糸機の大きさには驚かされました。
そこでは、裂き織りでコースターづくりができました(写真)。確かに、まず縦糸が張られ、横糸を左右に運びながら織っていきます。まずは、しっかりと縦糸を張ることが大切なのです。そして、横糸を織り成して一つの作品を作っていきます。
その作業は、両手両足、頭・目を使い、全神経を集中させないと、美しい織物とはならないのです。この作業過程は、教育における「指導法研究」や「教材研究」などと同じだと感じました。
ところで、縦糸と横糸の話は、ビジネス界でも重要だと言われています。この場合、不変の縦糸(縦軸)と可変の横糸(横軸)とされ、そのバランスが重要視されるそうです。また、縦糸とは、時が経っても「変わらないもの」「変えてはいけないもの」で、創業の精神や理念、または伝統や価値観などです。横糸とは、時代に合わせて「変えていくもの」「変えなければいけないもの」で、テーマを変えながら様々な分野にチャレンジしていくというものです。
教育に置き換えると、「不易の縦糸」と「流行の横糸」とも言うことができるでしょう。「教育の縦糸・横糸理論」は、掘り下げられると実に深いと思いました。
江戸時代の禅僧・沢庵和尚は、「正は横、直は縦を表す言葉である。縦にも横にも偏ることのない心を正直というのである」と言っています。
私も縦糸と横糸のバランスを取りながら、正直な心で「子どもと子どもたち」を見つめ、学年の仕上げと次年度に向けて全力を尽くしたいと思っています。
大谷 雅昭(おおたに まさあき)
群馬県藤岡市立鬼石小学校 教諭
子どもと子どもたち、つまり個と集団を相乗効果で育てる独自の「まるごと教育」を進化させると共に、「教育の高速化運動」を推進しています。子ども自身が成長を実感し、自ら伸びていく様子もつれづれに綴っていきます。
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