2012.01.12
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「スキー」・「思い出」・「一つの願い」

北海道札幌養護学校 教諭 青木 一真

 みなさん、あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願い致します。
今回も特別支援教育からは離れた話題ですが、ウインタースポーツの話からスタートさせていただきます。
こちらは、まだ冬休み後半。僕も年末から正月休みにかけて息子のスキー教室の合間に久しぶりのスノーボードを楽しみました。こちらでは小学校の体育の時間にスキーがあります。スキーデビューの小1の息子を滑れるようにしておこうという妻への良い口実もできました。スノーボードは学生時代から始めたのでもう20年近くの趣味になります。僕自身、スキーも滑れるのですが、自分自身の楽しみとして選択することはありませんでした。僕にとってスキーは「学校でするもの」なので。

北海道では冬期間、授業としてスキーかスケートが体育の時間に扱われます。北海道と言ってもみんながスキーというわけではなく道東から太平洋沿岸にかけての雪の少ない地域ではスケートが扱われる事が多いようです。特別支援学校の中でも初任校ではスキー、前任校はクロスカントリースキーを冬の体育の学習で行っていました。前任校は雪の少ない地域から来ていたお子さんも多かったので、スケートは滑れるがスキーは学校が初体験という事も。スキーの用具は学校で用意してありましたが、通常の小学校等では家庭で揃えることが一般的です。体育でスキーといっても僕の時代より機会は少ないようで、授業として扱われる回数は4~5回です。ウエアから板や靴など用具に4~5万円かけてしまえば授業1回につき1万円といったところでしょうか。お金に余裕があれば10万円程をかけることもできますし、大手スポーツ用品店の格安おすすめ品で全て新調すれば3万円弱。中古やおさがりなど節約の工夫もできます。ただ、中古品でサイズが無かったり、おさがりのツテが無ければ出費は覚悟しなければいけません。我が家も札幌市で行っている中古用品配布の抽選にもれたので結局は新調です。子どもってすぐ大きくなりますよね…。

30年以上昔の自分の子どもの頃、スキー学習はクラス内での経済的なヒエラルキーを子どもたちに自覚させるのに十分な機会でした。ブランド信仰が子どもたちにも波及していた時代。有名メーカーの新品を自慢げにみせる友達。体に合わないおさがりの板に時代遅れの金具の友達。市内でもスキー場からは離れた地域でしたので余裕のある家庭の子はスキー場に行く機会も多く技術的にも差がつく要素となります。僕は家族で休日にスキーに出かける機会も少なく、スキーは「学校でする物」でした。
学校でのスキー授業は近くの公園の築山でスキーを履いて登り短い距離を滑り降りる物。登る時間の苦労に比べ滑り降りる時間は本当に一瞬です。スキー学習は「履いて登る学習」がほとんどでした。途中で転ぶことは流れを妨げたり順番を乱すことにもなりますので子どもながらプレッシャーも感じました。年に1度あったスキー遠足はスキー場に行きました。上手な子のグループはリフトで長い距離を滑るのですが、基礎練習が必要な子のグループは、まずスキーで登り短い距離を滑る練習から始まります。「遠足」であっても、もちろん遊ぶだけではありません。終わりの方でようやくご褒美としてリフトで上がり長い距離を滑ることができます。背中にびっしょり汗をかいて、冷え切ったお弁当を食べる思い出。しかし、あれだけの汗がかける機会はなかなか冬にはありませんのでスキーは「冬場の体力づくり」として役に立っていたのでしょうね。学習としてスキーをしなくなってからは、僕にとってスキーはやはり「学校でする物」になっていました。
実はかなり昔に読んでいたスノーボードの雑誌にプロのライダーの方が僕と同じような思い出をコラム記事に寄稿されていました。スノーボードに自由を感じのめり込んでいった話も親近感を持って読ませてもらいました。僕はスノーボードを始めた頃は転ぶ事さえ楽しめました。乗り方のクセさえも「ライディングスタイル」ですので。体が空くとスキー場へ出かけ11月から5月まではゴーグル痕の日焼けが顔に残っていました。「楽しい」物は自分から機会や時間をつくるものですよね。

僕が前任校で教えていたスキー学習は「体力づくり」にしかならなかったかも知れません。体力や技術の向上ははっきりとした「目標」として設定しやすいですし、目に見えない「楽しい」は評価しづらい物です。意欲や興味関心として表される部分は評価されますが情動である「楽しい」とはまた違ったものです。学習者を主体とした授業づくりにしろ、教授型の授業づくりにしろ「楽しい」こと自体を目標とする事は無いでしょう。授業は楽しいだけで終わるのではなくそこに学びがあるかどうかが問われますので。スキー学習はスキー自体を教える事よりもスキーを通して学んでもらう事に苦心しました。ただ、スキーを楽しみにしてくれている子の表情は僕に安心感を与えてくれる物でした。
息子は今シーズンから3度ほど連れて行ったスキーが「楽しい」ようです。ある程度、自分の思い通りに板をコントロールできるようになり短いコースながら上から下まで滑り降りることができるようになりました。現在、小学校でのスキー学習がどのような形で行われているのかは詳しくはわかりませんが、きっと小学校の先生方が上手に教えてくれる物と思います。「できるようになる」事も「楽しい」と思える重要な要素ですよね。

ただ、最後に一つ願いがあります。「ああ、どうかスノーボードだけは学校の授業で扱われませんように。」 

青木 一真(あおき かずま)

北海道札幌養護学校 教諭
前任校では特別支援教育コーディネーターを3年間務めさせていただきました。昨年度、異動と共に久しぶりの学級担任に戻り右往左往。良い教育を迷いつつ模索する日々です。

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