2011.11.14
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わが故郷、福島を想う

特定非営利活動法人TISEC 理事 荒畑 美貴子

  私は福島市の出身です。大学卒業後に東京で就職し、住み着いてしまいました。

 震災後、母が亡くなったので、家という形は残っているものの、帰る場所はなくなってしまいました。

 自宅の窓からビルの立ち並ぶ様子や、四角に切り取られた空を見る度に、遠くふるさとの景色を思い出します。

 

 実家の窓から見ると、遠くには吾妻連峰が屏風のようにそびえ立ち、左に視線を動かせば安達太良山を確認することができました。昼には真っ青な空、夜には真っ暗な空がありました。そして、夏の天気のいい日には、吾妻山の山頂に降るような星空がありました。

 街を横切るように阿武隈川が流れ、豊かな水がきらきらと光を反射しています。冬になると、その阿武隈川には白鳥が訪れます。私が小学校の頃、初めて渡来したときには、餌をやるために多くの人が協力しました。

 市内には花の美しい公園が点在しています。特産品のも数多く、梨や桃は私の最も身近な食べ物でした。フルーツラインに沿って桃畑が広がり、夏にはたくさんの観光客が訪れていました。

 

 そんな福島が、見えない怪物のごとき放射能で覆われ、多くの仲間が大変な生活を強いられていることを、悔しく思います。

 子どもたちが、不安の中での生活を余儀なくされていることに、涙がこぼれます。

 

 ところで、福島には「ほんとの空」があります。それは、高村光太郎の「智恵子抄」の一節に由来します。

 「本当の空」とはニュアンスが違った「ほんとの空」

 どこまでも広がる青い空や、豊かな自然を想像するにあまりある「ほんとの空」は、地元の人々にとっては、ごく当たり前の表現であると思います。

 世界中の人々と共に、一日も早い事故の収束と、被災地の復興を心より願っています。

 きっと光太郎も知恵も、「ほんとの空」が戻ってくるのを、楽しみにしているに違いありません。

 

「あどけない話」

 智恵子は東京に空が無いといふ、

 ほんとの空が見たいといふ。

 私は驚いて空を見る。

 桜若葉の間に在るのは、

 切つても切れない

 むかしなじみのきれいな空だ。

 どんよりけむる地平のぼかしは  

 うすもも色の朝のしめりだ。

 智恵子は遠くを見ながら言ふ。

 阿多多羅山の山の上に

 毎日出てゐる青い空が

 智恵子のほんとの空だといふ。

 あどけない空の話である。

 

   昭和3年5月  高村光太郎 「智恵子抄」より

荒畑 美貴子(あらはた みきこ)

特定非営利活動法人TISEC 理事
NPO法人を立ち上げ、若手教師の育成と、発達障害などを抱えている子どもたちの支援を行っています。http://www.tisec-yunagi.com

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