2011.09.27
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フェードアウト

神戸市立兵庫商業高等学校 教諭 特別支援Co 田杼 弘行

9月半ばから就職試験を迎えるにあたって、本校では3年生の就職希望の生徒が、自主的に教員をつかまえて面接練習に励んでいます。指導の中で、具体的な指示を出さないで、指導する場面を見かけました。叱咤激励をするのはわかりますが、声が小さい、笑顔がない、明るさがない、緊張しないとか、できていないことを指摘しても、生徒は委縮するばかりで、何も参考になることはないと思います。もっと具体的なイメージがわきやすい説明と指示がなければ、なかなか本人にはすっと入ってこないのではないでしょうか。

中でも気になるのは、覇気がないとか明るさがないといった、本人の性格や気質による面を指摘されても、これまで育ててきたものや付き合ってきたものなので、急には変えにくいものです。だからそのことには、あえて触れないでとは、言いませんが、本人の持っている長所やネガティブな表現ではなくてアクティブな表現で、自分自身をとらえさせるような指導や指摘をお願いします、といった、こうしたことに限らず、職員会議で研修資料として説明しても、多くの教員は、自分の指導は完成度が高いと思っているところが、なかなか指導の改善につながらないのが現状です。

9月下旬には各企業から就職試験の結果連絡が入り、クラスの中は、順調組と不調組とに分かれます。この二つが拮抗するならまだしも、順調組の数が圧倒的に多いと、クラスの雰囲気は、一気に陽気になる半面、少数の不調組が、追い込まれた形になり、ケアが必要になってきます。

私が3年の担任だった時は、第1希望の就職先に内定をもらったからといっても、職場で自分のしたいことができるか、人間関係はどうかわからない、媚を売るのではなく、いかにかわいがってもらえる存在になるかが大事であり、毎年、何名かが1年持たずに離職するケースを話します。第1希望であっても1年以内に離職することもあるということです。逆に、不調を経験していることは、今は辛いけど、言い換えれば、悔しさや人の痛みが分かるための貴重な経験をさせてもらっているととらえて、次回にさらに磨きをかけてチャレンジすることが大事で、そうした生徒のほうが長続きしていることもある。ということを伝えています。ともあれ、朗報を待つのみです。

さて、4月から始まったこの連載も早いもので、今回が最終回となります。拙文にお付き合いいただきありがとうございました。

高校での特別支援教育の推進の課題は、これまでの実践を通じて私見を述べさせていただきました。特別支援教育の理念は、平たく言えば、すべての幼児、児童、生徒に対してより丁寧な教育をするということになります。このことは、正論であり、当然のことだと思います。

しかし、高校での特別支援教育は、幼稚園や義務教育とは違った側面を持っているのではないかと、最近、感じることが多くなりました。それは、手とり足とりで、次のステージに送り出すことではなく、いかに社会的な自立する力を育成することではないかということです。

 

数年前、定時制の担任をしていたころ、授業はつぶす、校内であばれるといった生徒がいました。

5月中旬に家庭訪問もしましたが、壁は穴だらけ、万年床で炬燵に袢纏といったいでたちで、面談をしました。開口一番、他の生徒を怪我させても、学校の施設を壊しても、お金がありませんということをはっきりいう方でした。

さらに中学校時代にどんな学校生活を送っていたのかを聞き取りに行きました。母子家庭であり、ネグレクトであり、食べるものも十分食べていない、着るものの不衛生であったようで、見かねた副担任の家庭科の教員が、彼のお弁当を、3年間作ったという話を聞きました。

たしかにあの母親では、弁当は作ってくれないだろうと想像はできますが、だからといって弁当を3年間作るということは、美談で語られましたが、本人をどれだけ依存させているかということに中学校では気づいていないのが悲しい実態でした。

高校に入っても、周囲がなんとかしてくれるという依存が高く、こまったら大暴れをするのが日課でした。今から思えば、特別な教育的ニーズの高い生徒で、支援方法を考えて組織的な対応をしていく必要がありました。大暴れを解決の手段に使い、周囲が彼の要求を結果的には認める形は、「テロに屈した政治」のような、対処療法的な感覚で、学校は何をすべきところだろう、もっと違ったアプローチはないのだろうかということで、私が特別支援教育についてかかわることになった事例です。

学校で丁寧に接することと、かかわりすぎる事とは、根本的に違うこと、次に生かすためのフェードアウトをしていくことが、大事であり、難しいことだと思います。

手とり足とりしていて、フェードアウトしていると、手を抜いていると、何もしていないようにも見えるし、立ち位置の理解も得られなければならないし、高校の特別支援教育Coは、専門性も求められるうえ、そうした困難さをもとめられるのだと改めて思いました。

 

田杼 弘行(たどち ひろゆき)

神戸市立兵庫商業高等学校 教諭 特別支援Co
すべての学校に特別支援教育をという文科省通達から5年目。しかし高校現場でのギャップ。一教師として、できることを探りながら、様々な「話題提供を」と、思っています。

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