今秋、映画が公開されるというので、本屋さんで見かけた本書を読んでみることにしました。
私は一時期、抑うつ的な症状で苦しんだ経験があります。この本を読んでいると、自分にも思い当たることがあり、皆さん同じような悩みをもっていらっしゃるのだと思いました。
うつ状態になると、テレビや好きな音楽を聴くのさえ避けたくなることや、料理ができなくなるということも、なかなか理解されないことですが、私が最も困ったのは本を全く読めなくなったことでした。
私は、母が薦めてくれた本をきっかけとして、思春期の頃から本が大好きになりました。結婚して子育てが始まると、読書の時間が取れなくなったので、実家に帰ると母に子どもを預けて読みふけりました。
子どもが成長すると、一緒に図書館に通い、新刊本を手当たり次第に読みました。「ハリー・ポッターシリーズ」は、登場人物たちの台詞を暗記してしまうほど繰り返し読みましたし、「ロード・オブ・ザ・リング」も一気に読み通しました。
毎晩、私にとっての睡眠薬は、大好きな本だったのです。ですから、読書ができなくなったのは、寂しいものでしたし、眠るきっかけすら失ってしまいました。
しばらくして、そんな状態は改善されてきたものの、今度は更年期がやってきました。急に暑くなったと思うと寒気がする、視力が悪くなるなどの身体の不調が起きるようになりました。
体力がなくなったと感じたり、むくみやすいと感じたり。そんなことが、ますます自分自身を不安にしていきました。
ですが、うつ状態が理解されにくいのと同様、更年期の症状を理解してもらうのも難しいことです。これも個人差がありますし、見えにくいものだからです。
私は今、若手と一緒に仕事をしていますが、元気な彼らについていけないと焦ることがあったり、自分が満足にできないことを惨めに思ったりすることがたくさんあります。
家族でさえ、閉経に向かう女性の身体について説明しないとわからないのですから、経験のない若手の理解を求めようとするためには、きちんと説明をする必要があるのだと感じています。
この本に話を戻しますが、防衛医科大学精神科学教授の野村総一郎さんが解説を書いていらっしゃいます。
「うつ病に悩んだ人ご自身の手記というのも数多く出版されていて、それらも確かに役立つんですが、多くは『生々し過ぎる』と言うんでしょうか、やはり読んでいる方が多少苦しくなったり、大きく深呼吸して、思い切って読破する、といったある種の覚悟が必要な書物になりがちなのです。(中略)本書は、これらの『うつ病本』の欠点、ジレンマを一挙に解消した名作だと思います。」
うつ病や更年期の他にも、理解されにくいことはたくさんあります。
学校でも、子どもたちの個性や生きにくさといった部分では、説明に困ったり、個人情報を配慮して説明すらはばかられたりすることもあります。しかし、お互いを理解し認め合うためには、経験がないことも知識としてたくわえておく必要があるのです。
生きていく上で抱えがちな苦しさを、誤解なく楽しく理解できるような本書のようなものが、これからも数多く世の中に出ていってくれることを願っています。
※『ツレがうつになりまして。』 細川貂々著 幻冬舎刊

荒畑 美貴子(あらはた みきこ)
特定非営利活動法人TISEC 理事
NPO法人を立ち上げ、若手教師の育成と、発達障害などを抱えている子どもたちの支援を行っています。http://www.tisec-yunagi.com
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