2011.09.01
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本の紹介『自閉症だったわたしへ』

栃木県河内郡上三川町立明治小学校 教諭 鷺嶋 優一

夕されば 門田の稲葉 おとづれて 芦のまろやに 秋風ぞ吹く

(百人一首 大納言経信)

 まだまだ暑い毎日ですが、そんな中でも時折涼しい秋の風を感じるようになりました。

 夏休みも終わり、子どもたちの元気な声が学校に戻ってきましたね。とはいえ子どもたちの気持ちの中は、「あーあ。夏休みが終わっちゃった。」という落胆の気持ちが大きいことでしょう。また生活習慣が取り戻せない中での疲れもあります。加えて9月は運動会など大きな行事を控えている学校も多くいきなり慌ただしい日々の連続。

教師も子どももストレスを感じてのスタートです。不登校やいじめ、最近増加傾向の暴力行為等トラブルはできるだけ起こさせたくないですね。一番大切なことの一つは「子どもたちの声なき声に耳を澄ますこと」ではないかと思います。集団での行動や人とのコミュニケーションが苦手な児童ほど悩みを抱えているに違いありません。そこで児童を理解する際に大変参考になる本にこの夏出会いました。タイトルは『自閉症だった私へ』です。

どのページを開いても、心の叫びが聞こえる

作者はドナ・ウィリアムズ。

 オーストラリアで生まれた彼女は幼い頃から、周囲の誰ともうまく付き合うことが出来ず、いじめられ続けてきました。家庭での虐待も受け、何度も転校したり、深夜徘徊をしたり、部屋に閉じこもったり、更には自分自身を別の人間に置き換えてみたり。いろいろ試してみてもうまく関われないつらさ。どのページを開いても、ドナの心の叫びが聞こえてきます。

 この本のすごいところは、それら自閉症を抱えている子どもの気持ちを自分自身の感情として本人が書いているところです。本書の序章にも書いてありますが、「子どもの発達相談、障害児の治療教育といった専門的な観点から、さまざまなヒントに満ちた専門書」として読むこともできます。

すべての人間に当てはまる不完全さ

 人間はだれもが完全ではありません。とすれば不完全な部分、未熟な部分を誰もが持ち合わせているはずです。本書の中に書かれているドナの感情は自閉症の子どもだけでなくあらゆる子ども、更にすべての人間にあてはまる部分があると感じさせてくれます。私は読み進みながら度々立ち止まり、自分のクラスの子どもを思い浮かべたり、自分の子ども時代を振り返ったりしています。

 忙しい毎日ですが、教師の仕事に児童理解は不可欠です。深い洞察力をもった教師として成長していくためにも本書はお勧めの一冊です。機会があればぜひご一読ください。

鷺嶋 優一(さぎしま ゆういち)

栃木県河内郡上三川町立明治小学校 教諭
この春、勤務校が変わりました。異動したての新鮮な気持ちをダイレクトにつづりたいと思います。そして「ICTと幸せ」についても小学校教育の視点から考えます。

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