2011.08.16
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コンサルテーションから見えた新たな課題

神戸市立兵庫商業高等学校 教諭 特別支援Co 田杼 弘行

いよいよ夏休みも後半に突入して、夏休み! to be continue と願う生徒も多いのではないかと思います。

ところが、就職希望の多い本校では、3年生は、夏休み返上です。夏休みの前半は、企業への職場見学や企業研究をし、受験企業が決定するお盆過ぎごろから、履歴書を書き始め、多い生徒は3ケタくらいの枚数を書くこともあるようです。丁寧に仕上げることだけに集中するように指導をしているのはどこの学校でも同じだと思います。

以前勤務していた時に3年生を担任していた時に、押印が少し右に傾いていたことが理由で不採用になったケースがありました。その履歴書の押印は、少し傾いていましたが、人生を左右する採用試験の不採用の理由にはならないだろうと申し入れても、ハローワークからも厳重注意という程度でとくに企業に対して、ペナルティーもなかったように聞きました。バブルの時でしたから、その後本人も無事就職が決定したので、そのままスルーし、そんな事実があったことだけ覚えています。

今年の求人数は、リーマンショックからようやく立ち上がろうとした時の東日本の震災の影響で、昨年よりも確実に減少しています。さらに世界同時株安不況、加えて超円高であり、7月に求人をいただいた企業も、採用を自重するムードも出てくるのではないかと心配です。

 

先日、コンサルテーション会議を行いました。といってもDr.との懇談です。内容は学校から1学期の高校生活を振り返ってということと告知についてということです。本人はPDD(広汎性発達障害)の診断をうけていますが、このことは告げられておらず、高校まで過ごしてきました。

告知については専門家の間でも意見が分かれるところで、自分がこれまでうまくいかなかったのが障害のためだとわかった時に、初めて自分が受け入れられ、同時に障害についても理解ができたという事例が多く発表されています。

一方で、障害、とくに発達障害については周囲の誤解や偏見が多く残っており、欧米のように理解ある社会ではないので、カミングアウトできる環境はあまり多くなく、むしろグレーゾーンの方でも困り感と上手に付き合いながら、生活している方も多くいる。そうした現実があるなら、必要が生じたときでいいのではないかという意見です。これまでの発達過程で以前はできなかったことも、現在はキャッチアップしていることもあり、幼少の時よりも困り感は改善、解消されていることもある。周囲に不要な心配や疑心を与えるよりも、一つの個性として理解してもらえることのほうがいいのではないかという意見もあります。

 

数年前に本校を卒業して、大学進学した生徒のことを大学側にその旨を伝えに行ったことがあります。保護者と本人と担任と私と4名で。先方は特別チームを組んで体制を整え、学部長、学科長、チューター,SC、保健室、キャリアセンターの方等、そうそうたるメンバーで少し驚きました。大学にも現在、グレーの学生は数名認識しているが、本人や高校、保護者からのアプローチもないので、具体的な支援はできていないので、今回のように事前に情報提供があれば、可能な限り対応したいと答えていただきました。その時に、高校3年間を見る限りでは、大学では学生生活では大きなトラブルはないだろうと思うので、むしろ就職時に支援をとお願いしていました。実際に大学では、成績優秀で、ほとんどAであり、このことは十分予想できました。サークルでは軽音楽部に入り、バンド活動をしています。彼を知っている多くの教員は、クラブについては驚いています。今年に入って、大学での就職面談があるので、保護者の依頼を受け、大学側の就職支援体制をたずねましたが、具体的な準備はされていませんでした。 本人にも入学後に何かアプローチをしたかどうか尋ねたところ、担当教授にメールを2度送ったが、返信はなかったということでした。メールなのでマシントラブルや設定ミスも考えられるので一概には言えませんが、大学側から1年を振り返ってのヒアリング等があってもいいのではないかと感じました。

 

コンサルテーションで会ったDr.も困り感がなければ、スルーしてもいいのではないかという判断をしていました。私は当初、無責任だと思いました。しかし、卒業生の例もあるように、現在が大きな困り感もなく、体制準備も十分ではなければ、情報伝達する意味があるのかどうか疑問になりました。

ただ、 大学生の場合は、学生個人の自己責任で就活を行うので、個人レベルとなりますが、高校生の場合は、学校経由で行うので組織レベルという違いがあり、そこで高校と企業の信頼関係の尊重が問題となってくる側面をもっています。

 一方で企業側に情報提供をすることで、採用に不利に働く可能性も高く、個別に企業側の態度を図りながら、対応する柔軟性も必要であり、見極めが重要となってきます。しかし、企業側に情報提供をするとなれば、本人への告知の環境整備が必要となり、保護者や学校、企業だけで、本人のことを内密に事をすすめていくことには問題があるとも考えられます。

本人へ告知をする・しない、と企業への情報提供の有無。診断がありながら、困り感が見えにくい高校生が学校経由で就職する場合の新たな課題かもしれません。 

田杼 弘行(たどち ひろゆき)

神戸市立兵庫商業高等学校 教諭 特別支援Co
すべての学校に特別支援教育をという文科省通達から5年目。しかし高校現場でのギャップ。一教師として、できることを探りながら、様々な「話題提供を」と、思っています。

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