札幌も30℃を超える夏らしい日が続き、僕も少し早めのお盆休みをいただき、のんびりと夏の休日を楽しませてもらっています。さて、前回の続きを書かせて頂きます。
決して「障害」と言うものに対して理解があると言い切れない現在、理解の裾野を広げるために「交流学習」に対してはねばり強く取り組まねばならない使命感の様な物を感じます。ただ、普段交じり合わない者同士が年に数回会うだけでは埋まらない溝があるようにも感じてしまうのも一部本音です。地域の中で当たり前の生活をというノーマライゼーションの理念は僕が初任の頃からうたわれてきましたが、20年ほど前と一般の方の意識の上でどこが違うかと聞かれると答えに困ってしまいます。ただ、社会を取りまく状況としては着実に進歩しているようにも感じます。
国際的な人権意識の高まりから子どもの権利条約、障害者権利条約や前回触れさせて頂いた「ICF」の社会モデルからの障害観という流れ。必要な合理的配慮の下、共に同じ社会の中でで生きるというインクルーシブな社会や教育の理念。日常生活の中でも「ユニバーサルデザイン」という誰にでも使いやすく便利な技術や製品の登場。特にユニバーサルデザインは障害を持った方へという部分よりメジャーな問題である高齢化社会に対する意識の高まりのためか、ここ数年様々なツールやグッズを実際に目にするようになりました。やはり、心より物の方が目に付きやすいものですね。
前任校での交流の事前学習も上記の物に触れたものを行いたいと考えました。「お世話係や担当を決める」でも「障害を持つ子と接する上での注意事項」でもない事前学習を行いたかったので、障害理解の部分を少しでも入れたかったのです。相手校でも「車いす体験」といったものを授業で扱った事があったそうですが、「めずらしい乗り物に乗った」的な反応になり遊びのような雰囲気に終わってしまったとのこと。中学校でしたので意外でした。小学生なら立場を置き換えて考えるといったことも難しい段階であったり、とらえに個人差が大きかったりするかもと思っていたので。そこで授業の中にまず自分の立場から考えられるものを取り入れることにしました。
授業の展開は以下のようにしました。中学3年生が対象。事前学習として設けていただいた時数は2コマ。プレゼンソフトを使用。プリントを用意し思ったことも記入してもらいながら進めていきました。
・「障害ってなんだろう」~障害は活動や参加が恒久的に制限された「状態」を指すこと、個人の身体的欠損のみを指すのではなく環境から受ける要因で阻害されたり促進されたりすることがあることの説明。自分は近視だが眼鏡やコンタクトがあるため障害の状態にはないことなど、ICFの障害観をかなりかみ砕いた形で簡単に説明しました。
・「ユニバーサルデザインの考え方」~民間で公開しているユニバーサルデザイン普及のための教材を使用。ユニバーサルデザインに関して説明した後、イラスト中のユニバーサルデザイン製品を探すクイズ形式。時間制限を設け班毎に考えてもらいました。話の後の息抜き気分で楽しんでできたようです。
・「自分の中の得意不得意」~プリントに自分の苦手なこと(物)を挙げてもらい、どのような物や助けがあると改善できるかを想像し回答してもらう。発表の形式をとると自分の気持ちで書けない場合もあると思い、無記名で。「素敵な彼氏に助けてもらう」という回答もありましたが、それはそれで良いかなとも思いました。
・「支え合いで成り立つ社会」~身の回りの社会も補い合って成り立っている事を実例を挙げながら説明。蕪雑な製品を自ら作れなくとも購入できることなど実は一般的な自立も社会の中では支えがあっての自立である事が気づけるよう留意しました。ただ、どうしても不得意の分野が多く福祉的支援が必要な人が「障がい者」とよばれていることも説明。次のDVD視聴につなげました。生徒の中には学習上や学校生活上での上手くいかなさを抱えている子や複雑な家庭環境を抱えている子もいるとの ことで自分としては話の中で「あなたも『できない』のではなく、助けがあれば『できる』ようになる」「あなたも必要とされている」というメッセージも込め ながら話したつもりです。
・「障害を持つ人と養護学校の生徒について」~北海道保健福祉部作成DVD「わかってください手をかして下さい~障がい者からのメッセージ」および養護学校生徒の紹介VTR視聴。どうすれば養護学校の生徒とのコミュニケーションをとりやすいか等を説明。障害特性の説明に留めず、生徒のVTRでは性格や好きな物等の情報も入れました。
生徒のみなさんは真剣に話を聞いてくれました。 本当なら2コマに押し込めるには内容が多いと思いますし、分けておこなった方がより深く扱えたと思いま す。プリントに「授業の内容はわかりやすかったか」のアンケート項目も入れましたが7割ほどが理解できたとの回答を挙げてくれたのが救いでした。では、交流学習当日はというと僕は相談先への出張で様子を見ることはできませんでした。そこで同僚に交流の様子を聞いたのですが「今年の3年生は『あたり』だった。」との事。後日相手校の先生にお話しを聞く機会があり「やってもらって良かった」との評価をいただきました。生徒の感想として過去に町中で困っていた人に声をかけずにいたことを思い出し後悔したことや少し考え方やイメージが変わったというお話しも聞くことができました。
もちろんリップサービスも含まれている評価とも思います。翌年に向け授業の改善もしたかったのですが年が明けて転勤となり今の担任業務に。やりっぱなしの感もぬぐえません。ただ機会があれば、また考えていきたいと思っています。
青木 一真(あおき かずま)
北海道札幌養護学校 教諭
前任校では特別支援教育コーディネーターを3年間務めさせていただきました。昨年度、異動と共に久しぶりの学級担任に戻り右往左往。良い教育を迷いつつ模索する日々です。
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