2011.06.21
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発見!

神戸市立兵庫商業高等学校 教諭 特別支援Co 田杼 弘行

学校の中庭で、例年3月下旬には,鳴き方の下手な鶯が鳴いていましたが、今年は5月のGW過ぎても鳴かなかったので、いなくなったか去年のひながうまく育たなかったのかなと思っていました。しかし、この時期になって、鳴き方の上手な鶯がその歌声を披露してくれるようになりました。どこかで訓練してたのでしょうね。

今年は例年より早く梅雨入りしていますが、、梅雨明けまでまだまだって感じですね。梅雨明けすると蝉の声が聞こえてきます。蝉はクマゼミの鳴き声も聞こえますが、街中の学校でありながら、標高の高いところに多いミンミンゼミの鳴き声が聞こえるのが個人的には好きな環境です。

さて、7月を迎えるこの時期になるとふと思い出すことがあります。

定時制高校勤務で1年生の担任をしてクラスの生徒と放課後に面談して、発見したことがありました。

彼は児童福祉施設から通っている生徒で、生後3か月の時に併設する乳児院に預けられ、物心ついたころから施設の子どもとして生活していました。話の中で、施設についていろいろ聞いていくうちに勉強になりました。そこの施設のルールは基本的には、18歳になると施設を出なければならず、特例としては定時制高校卒業までで、留年や退学すると退寮となるようです。子どもたちはそれには、敏感に反応し、自分の生活の糧が奪われることに危機感を募らせていました。しかし、彼の学校生活では表面的には一生懸命とは映らなかったし、頑張っているようには見えませんでしたが、彼と面談を重ねていくうちに、わかってきたことがありました。

彼はADHD(注意欠陥/多動性症候群)でLD(学習障害)という診断を受けていたようです。彼は数人の仲間と一緒に行動をしていた時に、金はないが、エネルギーが余っている、どちらが強いとかのキーワードで、恨みつらみはないのでしょうが、だれかの発案で決闘になったようです。そこで相手の鼻の骨を折る大けがをさせてしまって、特別な指導が必要ということで、担任としていろいろ話す機会があり、彼のことが少しわかってきました。

大きな怒りもないのに、手加減なしで、煽られて行動してしまう。これまでに十分な社会性や公共性が培われてこなかったでしょう。施設で十分な愛着行動がとれなかったからだと、当時は思っていました。しかしこれは、施設の対応ではなくて、本人のADHDの特性の衝動性のほうが大きいのかも。と考えるようになったのは、発達障害について少し勉強した最近になってかなと思います。

大きな事件をおこしたことに反省をしていましが、その謹慎期間中でも自転車の寸借で補導されたりしたことがありました。これには、さすがに施設長も私もあきれました。その時、私たちは彼に、厳しい条件で臨むことを確認しました。その条件とは、寸借については不問にするが、次回はどんなことであっても、学校のルール、社会のルールが守れなかったら、退学・退寮ということを伝えることでした。

彼の反応は、こうでした。退学は受け入れられるが、退寮は回避してほしいというものでした。施設長と私とでゆっくり噛み砕いて説明したつもりでしたが、彼には退寮という音だけが頭に響いて、それ以降の文言は何も頭に残っていなかったようでした。順を追ってゆっくり話し、次回にもしあればということで、一安心したものの、何をしたら、退寮になるのかそればかり気にしていました。具体的に喫煙、飲酒、万引き、無免許運転、窃盗、暴力とひとつひとつわかっていると思っていることでも、確認する必要が彼にはありました。

そうならないように、学校と施設で協力して社会で生きていくスキルを身に着けることを応援し、あなたも努力をしなさいという施設長の言葉でようやく納得しました。

その後、彼は施設長に連れられ、1件の寿司屋にはいって、威勢や気風の良さの寿司職人に興味を持ちました。自分も施設を出るときは寿司職人を目指したい、一軒の店を持ちたいと思うようになっていました。どこで調べた知識かはしりませんが、飲食店で3年勤務をしていたら、調理師の免許が取れると聞いたので、飲食店のバイトを探してほしいと相談されました。何件か電話をかけて、1件のラーメン屋さんのアルバイトを紹介し、そこで卒業までお世話になりました。しかし調理師免許は、申請だけで許可されるものではなく、ペーパーテストが必要ということで、LDである彼は、卒業後3年かかってようやく調理師の資格を取ったようです。現在は寿司職人ではありませんが、旅館の住み込みで料理人の下働きとして働いているようで、特性を抱えているので生きづらさはあるでしょうが、頑張ってほしいと思いました。 

田杼 弘行(たどち ひろゆき)

神戸市立兵庫商業高等学校 教諭 特別支援Co
すべての学校に特別支援教育をという文科省通達から5年目。しかし高校現場でのギャップ。一教師として、できることを探りながら、様々な「話題提供を」と、思っています。

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