前回は僕が学級を運営するに当たっての基本的な考えを書かせて頂きました。
しかし、僕は組織内の人間です。個人の考えのみで動いているわけではありません。本校の教育目標や教育課程に基づいて学習活動を進めていくことになります。
僕の所属する「北海道札幌養護学校」には「自閉症等への対応ガイドライン」という物があります。自閉症を持つお子さんに対する本校の考え方が記載されています。直接読んで頂いた方が解りやすいかと思いますので、本校HP(下記リンク)をご参照下さい。僕の昨年度の実践も「実践例」の中に一部載っています。
http://www.sapporoyougo.hokkaido-c.ed.jp/
教育は社会に定義される物ですので、時代背景、その時々の文化や価値観に合った物を提供しなければいけません。
日本国憲法→教育基本法等の法規→学習指導要領→自治体ごとの教育理念や教育目標→学校の教育目標→学級の目標→個人の目標と本来であれば上から下への順で「目標」はたてられていきます。
しかし、「あるべき姿」と実際の子ども達の間に乖離があるならば、あるべき姿に至る「ステップ」を「目標」として修正しなければ、日々の教育活動は成り立たなくなります。その修正が「個に合わせる」ことと理解しています。
自閉症児の教育についてご存じの方は、絵カードや写真を並べた日課表(スケジュール)を用いる事例を目にしたことがあるかと思います。通常学級で日課表と言えば黒板の横に一週間の時間割が貼られているものを想像すると思います。
ここでいう「スケジュール」とは、「時間割」だけでは自分の身に何が起きるのか解らない子ども達にとって、時間や順序といった抽象的な概念を理解しやすいよう具体的に整理し、どこで何をするのかを伝えるためのものです。自閉症のお子さんが多く抱える困難さのバリアを下げる物ですが、何をどのように提示するかは、これもまた個々に合わせなければなりません。
お子さんを支援するためのツールは、眼鏡や杖の様な物です。お子さんがより活動しやすくする物でなければなりません。度が強すぎたり弱すぎる眼鏡や、体に合わない杖は逆に活動の邪魔になるかも知れません。不便な道具はそのうち使われなくなるでしょう。
自閉症のお子さんのために視覚的に提示する方法が浸透をし始めた頃は、とにかくどのお子さんにも似たような「スケジュール」が用意されていたように思います。
極端な話では「自閉症」=「絵カードでの教育」であるから用意した「スケジュール」を理解できるよう教えていこうというような事もあったかと思います。正直、僕自身も始めのうちはそう捉えていました。しかし、「度の合わない眼鏡で黒板の字を見る訓練をしながら授業を受ける」ようなものかなと今は思っています。
また、そのような支援ツール的な物は就労先など社会に出た後は誰も用意してくれないので始めから使わない方が良いのではという意見も聞いたことがあります。その通り、障害も社会から定義されますから、障害は障害として残ることになりますね。
僕が考えたのは、もし、学校でしか車いすが使えないという社会があるなら、始めからずり這いで学校生活を送った方が良いかということ。教えるべき物は教えるべき物で存在しています。どうしたら教えやすく学びやすいか。先の意見に対しては「教育者としては教育の目標を達成するための有効な手段は使うのが当然ではないか」というスタンスでいました。でも実際はお子さんの特性に合わせて支援を考えてくれるところが増えてきているなと思っています。
話を僕の学級に戻します。日課表=「スケジュール」に関してもそのお子さんにとってわかりやすいものを用意しているつもりです。
さて、今回載せた3つの写真は全く違うように見えて、同じ目的のために用意したものです。
A君にとっての絵カードはツルツルの感触が楽しいおもちゃです。水に濡らせばもっと最高。また薄いカードには思わずかじってみたくなる誘惑が伴います。上から下にとか左から右にといった世間一般的な「並び順」という暗黙のルールが有ることもいまいちピンと来ていないようです。順序も次に起こる事以上の先の事は、それが目に入ると「すぐなのか、まだ先なのか」で混乱してしまいます。
しかしA君は同じ色の物、同じ形の物を合わせるのが得意です。これなら自信を持ってできます。僕がA君の為に用意した「スケジュール」はカードを並べた物ではなく、三角や丸の型はめ板です。色も付いています。次にするべき活動場所に持って行きカチッとはめる事で、手を引っ張られなくても自分で移動できます。自分で判断できる事は自立への一歩です。
B君の物は絵カードを並べた物です。ひらがなは読めますが自信が有るわけではありません。たまに間違う事もあります。読めるけども本人にとってまだ不便な物である以上、字は入れていません。文字は便利な伝達道具ですので、文字が得意になった時点で使ってもらおうと考えています。B君は10以上の計数概念を持っています。何がどの順番でどのくらい後なのかを解ってもらうためにその日一日の活動を並べています。休み時間と言われても何をどうすれば休みなのかがわかりません。自由な時間という抽象的な物を自分が選択できる具体的な活動として写真を提示し、自分で決めてスケジュールに入れてもらいます。将来の自立に向け「自分で決める事」の練習になります。
自分で自分の事を決められない状況は「自立」とは言えませんよね。余暇を選ぶ事も大事な自立への学びです。
さて、今回はここら辺で。また次回につづきのお話を書かせて頂きますね。
青木 一真(あおき かずま)
北海道札幌養護学校 教諭
前任校では特別支援教育コーディネーターを3年間務めさせていただきました。昨年度、異動と共に久しぶりの学級担任に戻り右往左往。良い教育を迷いつつ模索する日々です。
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