2011.04.18
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相手を思いやること

特定非営利活動法人TISEC 理事 荒畑 美貴子

 震災以来、「思いやり」について話題になることが増えました。私には「思いやり」に関して、忘れられない思い出があります。

 私は若い頃、ある新聞社の方と知り合うことができました。彼は大学卒業したての私に、こんな質問をしてくれました。

「美貴子さん、本当に頭がいいということは、どういうことだと思いますか?」

 成績がいいことや学歴のあることだとは思いませんでしたが、当時の私は答えを持ち合わせていませんでした。

 私は共通一次世代の一期生でしたし、受験戦争と言われた時代に育ちました。両親は私に大きな期待をかけ、勉強さえしていれば満足そうでした。手伝いをしなくても、庭の花が咲いたのに気付かなくても、意に介さないという感じでした。

 学校でお世話になった先生たちも、テストの点数や進学先には関心が高かったようですが、本当の意味での人間の価値に言及した方はいませんでした。

 戸惑っている私に、人生の大先輩である彼は、心に残る言葉を贈ってくれました。

「頭がいいということは、どれだけ相手の立場になれるかということだと、僕は思いますよ」

 

 さて、「思いやり」を広辞苑で調べてみると、「相手の立場や気持ちを理解しようとする心」「想像」などとあります。この意味からも、「思いやり」をもつためには、相手を慮ることができるだけの経験と想像力が大事であるということがわかります。

 しかし、どちらも意図的に教育されなければ、なかなか身につかないのが現状ではないでしょうか。

 恵まれた時代に生活している子供たちにとって、相手の立場が理解できるほどの経験を積む機会は、非常に少なくなっています。活字離れと言われてから久しくなり、本の世界から得られる疑似体験の場さえも減少してしまったのです。

 また、想像力を培う機会も激減しています。知識の伝達に偏った教育では、想像力を育てることができません。また、テレビやゲームの映像を一方的に受け取っている生活では、自分自身の力で何かを創り出すことや他人とかかわる機会なども奪われているような気がします。

 「思いやり」をもつ子供を育てようと目標に掲げることは簡単ですが、その実現のためには、意識的・計画的な教育が必要だということをおわかりいただけると思います。

 できるだけ多くの体験を通じて学習させることと、想像力を育てるための授業を行っていくことが、とても重要です。

 

 ところで、東日本大震災により、多くの余震が続いたり、計画停電が実施されたりするなど、東京も大きな影響を受けました。震災による被害には子供たちも心を痛めていますし、率先して節電を心がけてくれる姿も見られます。

 ただ残念なことに、その経験は被災地の方々の苦労から見たらとても小さいものです。

 地震直後、毎日の悲しい報道によって子供たちの心が必要以上に苦しめられるのを恐れ、学校では明るい話題で過ごさせるようにしてきました。

 でも、これからは方針を少しずつ変えていこうと思っています。

 今を生きる仲間が、大きな苦しみを背負っています。子供たちにも、そのことから目を背けずにいてほしいと願うからです。

 これからの未来を担う子供たちには、今こそ「思いやり」の心を育てていってほしいのです。

 被災地と同じ経験をもつことはできませんが、できることを頑張るという姿勢を忘れずに、子供たちと共に努力を重ねていきたいと思っています。

 

荒畑 美貴子(あらはた みきこ)

特定非営利活動法人TISEC 理事
NPO法人を立ち上げ、若手教師の育成と、発達障害などを抱えている子どもたちの支援を行っています。http://www.tisec-yunagi.com

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