2011.01.28
  • twitter
  • facebook
  • はてなブックマーク
  • 印刷

群馬発のちょっといい話

群馬県藤岡市立鬼石小学校 教諭 大谷 雅昭

 「伊達直人」と言う名前を知っていますか。今、世の中をいい意味で賑わわせている人?です。
 「伊達直人」とは、約40年ほど前に雑誌連載やテレビアニメで放映されたプロレス漫画「タイガーマスク」の主人公の名前です。その名前が、年末から年始にかけて、クローズアップされているのです。こんなにブームと言えるまでになるとは、思ってもいませんでした。ご存知とは思いますが、おさらいしてみたいと思います。

 その発端は、群馬県前橋市の中央児童相談所で起こりました。昨年の12月25日のクリスマスに、ラッピングした箱入りのランドセル10個が「子どもたちのために使ってください」と記したカードとともに、正面玄関に置かれてたことに始まります。そのカードには、「伊達直人」と署名がありましたが、当初はその意味には気づかず、後日、「タイガーマスク」の主人公と同じ名前であることがわかったそうです。
 ランドセルは計約30万円相当で、児相は前橋東警察署とも相談の上で寄付として受け入れました。児相の職員は「クリスマスプレゼントでは。こういう気持ちを持ってくれる方がいるのは本当にうれしい。」と話し、来春に小学校に入る児童養護施設の子どもたちに使ってもらうことを決めたそうです。

 なぜ、ランドセルのプレゼントの送り主が、「伊達直人」なのでしょうか。「タイガーマスク」というプロレス漫画のストーリーを調べてみました。概略は以下の通りです。

 孤児院ちびっこハウスの伊達直人は、動物園の虎の檻の前で喧嘩をしたのがきっかけで、悪役レスラー養成機関「虎の穴」にスカウトされる。虎の穴での殺人トレーニングをこなす日々の中で、自分と同じような生い立ちを持つ孤児たちに、同じような苦しみを味わわせたくないという想いを抱くようになり、虎の穴を卒業。「タイガーマスク」としてプロレスデビューをしてからは、収入の一部を孤児院へ寄付するようになった。当初は虎の穴へのファイトマネーの半額という上納金を支払った上で、自分の手取り分の範囲内での援助を考えていたが、自分の出身施設である孤児院「ちびっこハウス」の窮状を知り、虎の穴へ納める分まで寄付せざるを得なくなる。虎の穴はタイガーマスクを裏切り者とみなし、タイガーを倒すための刺客を次々と送って来る。

 「施設の子のために寄付をする」というタイガーマスクに、共感したのでしょうか。いずれにしても、いい話だと感激するとともに、こうした動きが広がるといいなと思っていました。
 すると、年明けの1月1日に神奈川県小田原児童相談所に、ランドセル6個の入った箱が見つかりました。箱には「お年玉です 伊達直人」と、やはりタイガーマスクの主人公と同じ名前が書かれた紙が貼り付けられていました。添えられた手紙には、「群馬の件に感銘を受けた。タイガーマスク運動が続くとよいですね。」などと書かれていたそうです。
 このニュースを聞いて、世の中には、同じ考えを持ち、実行できる人がいたことに、再び感激しました。そして、今、「続くとよいですね。」が現実となっているのです。

 1月7日 長野県長野市中央児童相談所 ランドセル6個(伊達直人)
 1月7日 沖縄県南城市児童養護施設  ランドセル3個(遅れてきたサンタクロース)
 1月7日 静岡県静岡市児童養護施設  現金10万円(伊達直人)
 1月8日 岐阜県岐阜市児童養護施設  ランドセル5個(伊達直人)
 1月8日 静岡県静岡市児童養護施設  ランドセル6個(伊達直人)
 1月9日 神奈川県厚木市児童相談所  玩具(伊達直人)
 1月9日 長崎県長崎市障害者支援センター ランドセル7個(伊達直人)
 1月9日 岩手県花巻市スーパー投書箱 現金10万円(伊達直人)
 1月9日 宮崎県都城市児童養護施設  文房具(伊達直人)
 1月10日 4件(福島県、横浜市、鳥取市、下関市)
 1月11日以後は、全国47都道府県に拡がりを見せています。

 こうした動きは、「タイガーマスク運動」などと言われ、一つのブームのようになり、便乗した動きもあり、賛否両論があることも事実です。
 ただ、いろいろな意味で厳しく辛い時代に、ホッとする明るい話題が続くことは、本当に嬉しいことだと思います。世の中に恩返しをしたいとは、多くの人が思うことですが、なかなか実行できません。しかし、今回の小さな出来事が、心ある人々が行動するきっかけになったのは事実です。こうした本名を名乗らず、さり気ない善意を形にする行為は、日本人のよさの一つではないでしょうか。
 このような動きが、少しずつ確実に広がるような世の中であってほしいと思っています。そして、私も微力ですが、教育現場で実践していきたいと思っています。
 
 また、今回のことで、私は『ランドセルは海を越えて』というキャンペーンがあることを知り、自身の知見を広げることができました。
 このキャンペーンは、国際協力NGOであるジョイセフ(財団法人 家族計画国際協力財団)が主催するものです。 2004年からスタートし、今年で8回目になるそうです。
 日本の初等教育において欠かせないランドセルは、小学校を卒業すると、想い出がたくさん詰まっているために、処分もできず倉庫や押入れ等で保管されているケースがほとんどです。そこで、6年間の想い出がたくさん詰まった使用済みランドセルに、ノートやえんぴつ、クレヨン等の文具を詰めて、世界でもっとも物資が不足している国の中の一つであるアフガニスタンとモンゴルの子どもたちにプレゼントしようとする活動が『ランドセルは海を越えて』キャンペーンなのです。
 6年間の想い出がたっぷりと詰まったランドセルが、海を渡って第2の人生を歩みはじめるのです。何とも素敵な運動ではないかと思いました。

 「教育の国際的なつながり」というものを感じさせられました。群馬発の善意が、海を越えた想いまで達したことは、意義深いことだと思っています。そして、自分なりの行動を何か起こしてみたいと考えています。

大谷 雅昭(おおたに まさあき)

群馬県藤岡市立鬼石小学校 教諭
子どもと子どもたち、つまり個と集団を相乗効果で育てる独自の「まるごと教育」を進化させると共に、「教育の高速化運動」を推進しています。子ども自身が成長を実感し、自ら伸びていく様子もつれづれに綴っていきます。

同じテーマの執筆者
  • 安居 長敏

    滋賀学園中学高等学校 校長・学校法人滋賀学園 理事・法人本部事務局 総合企画部長

  • 樋口 万太郎

    京都教育大学付属桃山小学校

  • 川村幸久

    大阪市立堀江小学校 主幹教諭
    (大阪教育大学大学院 教育学研究科 保健体育 修士課程 2年)

ご意見・ご要望、お待ちしています!

この記事に対する皆様のご意見、ご要望をお寄せください。今後の記事制作の参考にさせていただきます。(なお個別・個人的なご質問・ご相談等に関してはお受けいたしかねます。)

pagetop