2010.12.14
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学習に意味付けを行う

特定非営利活動法人TISEC 理事 荒畑 美貴子

 私たち教師は、毎日授業をしています。子供たちに時間割を示し、学習指導要領の標準時数と内容に合わせ、坦々と授業を進めていくことが第一の仕事です。
 
 授業の前には教材研究を行い、どのように授業を展開していけば、より良い授業になるのかを考えます。また、その授業を通して、子供たちをどのように評価していくのが良いのかも、常に視野に入れています。子供たちを評価することは、裏返せば自分自身の授業の質を評価することにもつながるからです。いい授業をするために、これらのことが最低限の前提となるのです。
 
 しかし、視点を子供たちに移すとどうでしょうか?
 毎日、規則正しい学校生活を強いられ、まるでベルトコンベアーにでも乗せられたかのように、次から次へと授業に参加させられます。高学年ともなると、授業のみならず、委員会活動や係活動も活発になりますから、子供たちのスケジュールは分刻みという過酷なものになっているのが実情です。
 
 低学年の子供たちには、授業内容にも多少の余裕がありますから、学校が楽しい、勉強が楽しいという動機付けでも十分かもしれません。ですが、高学年の子供たちには、なぜその学習をするのか、なぜその活動をしなければならないのかといった意味付けが、非常に大切になってくると考えます。

 なぜなら、明確な意味付けや動機付けがなければ、学習や活動が受け身になり、その結果、それらの学習や活動によって獲得される力が小さなものになってしまう恐れがあるからです。子供たちが学ぶ課程においては、それが能動的な動機から行われなければなりません。
 
 さて、10月から、うちのクラスでは、算数で分数の学習をしました。これまで5年生では、小数のかけ算やわり算、面積、単位当たりの量などの学習を進めてきたのですが、分数の学習はそれらの単元とは違い、一段と複雑な思考を要求されることに気付かされます。
 
 分数の意味の理解、仮分数から帯分数への変換、通分、約分と、単純な思考や計算ではすまされないからです。ですから、上手に指導をしないと、「算数」と聞いただけで学習に取り組むことそのものを諦めてしまうような気持ちが、子供たちの中に芽生えてしまわないとも限りません。
 
 そこで私は、分数の計算式の書き方を、丁寧に教えました。式が何段になったとしても、自分の考えた筋道を明確にするように指導したのです。
 分数を実生活で使うことは、そうあることではありませんが、筋道を立てて考える、順序よく考えるといった、思考の仕方を学ぶことが大事だということを、子供たちに知ってほしいと思いました。

 学習の意味付けを明確に示すことで、子供たちの意欲はとても高まっていきました。
 
 2学期の途中から、算数の授業では、席替えをしてもいいと話をしてきました。普段は後ろの席でも、算数が苦手と思う場合にはその時間だけ、前の席の友達に交渉をして、席を替わるのです。強制はしていないので、子供たちのその日の気分に任されています。最近は、数人の子供たちが席替えをして、最前列で学習をするようになりました。

 この、分数の学習は一例ですが、私はいろいろな教科や場面で、意味付けを行うようにしています。先日、ソーシャルスキル・トレーニングを行ったときにも、それが将来にどう結びついていくことなのかを話して聞かせました。

 子供たちは、私の意味付けの意図を100%理解している訳ではありません。ただ、社会と自分たちを橋渡ししている担任の私を信頼し、納得して学習に取り組んでいることに意味があると考えています。

 学習は、目の前の100点を取ることが目標ではなく、それが人生にとってどういう意味をもつのかをしっかり捉えさせることが大事なのです。

 最後に、私の好きな文章を引用します。
「いかなる学校も、人生という人間にとっての大きな学校に通じる、予備校でなければなりません。本当のところ学校では、何かができるようになるためにものを学ぶのではなく、人生から常に学び取ることができるようになることを、そこで学ばなければならないのです」(ルドルフ・シュタイナー著『教育の根底を支える精神的心意的な諸力』より)

荒畑 美貴子(あらはた みきこ)

特定非営利活動法人TISEC 理事
NPO法人を立ち上げ、若手教師の育成と、発達障害などを抱えている子どもたちの支援を行っています。http://www.tisec-yunagi.com

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