2010.11.30
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友達と一緒にいることが心地よい

特定非営利活動法人TISEC 理事 荒畑 美貴子

 私たちが子供の頃は、近所の友達と遊ぶことが日常化しており、異年齢集団による遊びが成立していました。幼なじみがいて、近所のおじさんやおばさんに、面倒を見てもらって育ちました。
 
 小学校に入ってからも、放課後になると決まって校庭に集まり、鬼ごっこをしたり、陣取りをしたり、道具を使わずに遊んだものです。
 
 そこには、子供だけの集団があり、家族とは違った社会が存在しました。年齢の大きな子供たちは、小さな子供たちを守ってくれました。小さな子供たちは守られた中で遊びを覚え、大きくなった後には、さらに小さな子供たちの面倒を見ることを夢見ながら育ちました。
 
 しかし、1980年代以降、家庭の中にゲーム機が入り始めた頃から、子供たちの遊びは一変してしまいました。
 
 ゲーム機の出現と平行して、子どもたちの遊び場が狭い公園に限られるようになってきてしまったことも、遊びの変化に影響していると思います。さらに、習い事が増え、塾通い等が盛んになって、子供たちの放課後の時間は、非常に限られたものになりました。曜日限定で遊び相手を探さなくてはならない状況が、定着していきました。
 
 さて、こういった社会環境の変化の中で、子供たちは、友達の家で一緒にテレビゲームを始めるようになりました。携帯型のゲーム機が登場すると、今度はそれを持って公園に集まり、ひたすらゲーム機と向き合うことになっていったのです。
 
 当然の結果として、異年齢集団での遊びは消滅していきました。また、遊びの集団も縮小され、二人で遊ぶ姿も目立つようになっていきました。そして、ゲーム機を通じての遊びには、会話がほとんど存在しないという問題点が浮かび上がってきました。
 
 ですから、最近の子供たちのコミュニケーション能力は、著しく低下したように思います。また、自分自身の感情や思いを、言語化する能力も弱くなってきたように感じます。
遊びの変化によって、「友達と一緒にいることが心地よい」経験が減少したことにより、子供たちの情緒の不安定さや、不登校の問題が浮き彫りになってきたようにも思えるのです。
ところで、私のクラスでも、1学期の頃はコミュニケーションの取り方が未熟なため、グループでの活動が円滑に進まず、達成感を十分に味わえていないのではないかという姿が気になりました。

 そこで、2学期に入ってから、グループでのゲームを取り入れました。例えば、ブロック組み立てゲームといったレクリエーション的なものから漢字しりとりを競うゲームなど、子供たちの好奇心や競争心を満足させるものを選んで行いました。

 また、体育では、ソフトボールに取り組み、十分に作戦を立てさせてから試合をしました。家庭科でも、協力して料理を作って食べたり、やり方を教え合いながら裁縫を行ったりという経験を重ねてきました。子供たちがコミュニケーションを駆使しなければならない状況を、意図的に作り出したのです。

 日常的な学校生活や授業全般を通して、コミュニケーション能力やソーシャルスキルの向上を図った結果、最近ではクラスの雰囲気が非常に穏やかなものに変化しました。「友達と一緒にいることが心地よい」集団ができあがってきたのです。

 先日も、学活の時間に、他愛もないゲームをしていました。様子を見ていますと、全員が笑い転げているのです。実に楽しそうな雰囲気で、明るいエネルギーが教室に満ちあふれているのを感じました。

 私もベテランと言われる世代に入りましたが、いい集団作りをしようと思えば、その時々の試行錯誤が必要だということを改めて学んだように思います。同じ子供は、どこにもいないからです。

 このように、教師が明確なクラス像をもち、それに向かって努力を続けていれば、子供たちは期待以上の成果をもたらしてくれます。子供は、いつの時代にも変わらぬエネルギーと叡智をもっています。

荒畑 美貴子(あらはた みきこ)

特定非営利活動法人TISEC 理事
NPO法人を立ち上げ、若手教師の育成と、発達障害などを抱えている子どもたちの支援を行っています。http://www.tisec-yunagi.com

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