2010.11.18
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「空の袋に何を入れるか」

横浜市立永田台小学校 校長 ESD横浜代表 住田 昌治

知り合いの書道家が次のようなことを言っておられました。
 「『空の袋はまっすぐに立たない』という格言を知っていますか。『知識のない人は正しく成長しない』ということです。目まぐるしく変わる現代社会に生きる大人たちは今から65年前、大きな戦争に負け、アメリカ軍の支配下でいろいろなことを変えられてしまいました。そのために、日本の風俗、習慣の中で悪いことは取り除かれてよかったのですが、その他に日本に伝わる良いことまでが打ち砕かれてしまったのです。日本人のほとんどが『空の袋』になってしまいました。年が進むにつれ文化、教育も進み、人々は『空の袋』に少しずつ何かをつめこんだのです。しかし、袋の中に、間違ったものをつめました。考えてごらんなさい。袋の中に水を入れたら、袋は倒れ、水は流れ出してしまいます。自己中心的な考え、安易におぼれ、虚栄をはりあう。こんなことが、新聞をにぎわす暴力、殺人、心中につながるような気がします。苦しんでいる人を目前に、コソコソ逃げ出す人は、立派なのでしょうか。人は誰も原点に立って精神統一を計り常識を学ばなくてはなりません。長く続けて一つの物を形作る『道』の世界は、根性と度胸と正義感を養う場であると思います。書、茶、華、剣、柔、いずれも・・・・・・・」

 では、子どもたちの成長と幸せのために、何を「空の袋」につめこんだらよいのでしょうか。私は次のように考えます。
 一つめ・・・他人への思いやりの心や規範意識などの豊かな心
「江戸しぐさ」の代表的な【こぶし腰うかせ】などもつめこみたい。これは、乗り物で後から入ってきた客のために、こぶし分だけ腰を浮かせて席を詰めることです。
 二つめ・・・感謝する心
 お互いに感謝しあって生きていけたら、こんな幸せな社会はないと思います。家族はお互いのために働き、社会の人々はお互いのために働くことでしょう。食事をつくってくれる、掃除や洗濯してくれる、部屋を整えてくれる、ごみの始末をしてくれる、花を飾り綺麗にしてくれる、みんな意識していないだろうが、働いてくださっているのです。友だちと仲良く勉強してくれてありがとう。 
 三つめ・・・情緒の豊かさ
 心を込めて育てた米や野菜の収穫を喜び、友だちの涙を見て黙ってハンカチを差し出し、夕日を見てなんともいえない不思議な気持ちになり、コンクリートの裂け目に芽吹く雑草に感動し、お寺の鐘の音に心が揺れ動き、貝殻を見て潮騒の音を想像する…………   
 四つめ・・・忍耐力
 人間は苦労を乗り越えていくところに成長があり、人間味も出てきます。物が豊かでなかった時、家が貧しかった時、機械化されていなかった時、ゲーム機などなかった時、必然的に、我慢する、辛抱するなどの体験をすることが多かったのですが、現在のように便利で豊かな社会ではその機会が少なくなりました。子どもたちも快楽と安易さを求めて行動するようになりました。だから、子どもたちに我慢すること、耐えること、待つことを教えてやり、忍耐・苦労の後の喜び、冬を耐えて春を迎える喜びを袋につめてあげたいのです。
 最後に・・・自分のことが好きだと言える
 自分のことが好きな子は、人に優しくできます。自分を大切にする子は、人を大切にします。自分に自信がある子は、自己肯定感をもって行動します。子どもの頃に身につけたこの感覚は大人になって働くときに大きく影響します。

住田 昌治(すみだ まさはる)

横浜市立永田台小学校 校長 ESD横浜代表
学校の持続可能性を求めて、日々挑戦しています。これから日本版ESDスクールのデザインを描き、実現していきます。皆さん一緒に考えていきましょう。

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