2010.11.16
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心を開く

特定非営利活動法人TISEC 理事 荒畑 美貴子

「教育を通して、子供たちの心を開かせる」という表現を耳にすることがありますが、それは具体的にどういう意味をもち、どのような必要性があるのでしょうか?
 
「心を開く」ということは、「自分自身をさらけ出す」ことを意味するのではないかと考えています。
 
 皆さんにもご経験があると思いますが、自分自身をさらけ出すには、かなり勇気が必要です。その場が、学校であれ職場であれ、あるいは家庭であれ、自分にとって「安心・安全」な場でなければ、さらけ出すことはできません。
 だから、子供たちに心を開かせるためには、学校が安心できる場であり、安全な場であることが前提となります。
 
 では、なぜ「心を開く」ことが大切なのでしょうか?
 
 まず、自分をさらけ出して生活することによって、相手に個性を理解してもらうことができます。その結果、相手が個性に合わせたつきあい方をしてくれるようになります。それは、人間関係を円滑なものにし、親密さを増すことにつながっていきます。
 
 人間関係が円滑な集団は、子供にとって居心地のよいものとなり、学校生活が楽しくなっていきます。その先にあるものは言わずと知れたことですが、意欲的な生活に結びついていくのです。学習にせよ、運動にせよ、さまざまな活動にせよ、意欲をもって取り組み、充実感を味わうことができるようになります。
 
 そして、学校での経験の積み重ねが、将来の社会生活を充実させたものにしていくと考えます。その充実した人生こそ、幸せの第一歩と言えるのではないでしょうか。
 
 さて、学校が「安心・安全」な場であることは、かつては当たり前のように思われていました。しかし残念なことに、現在は多くの課題を抱えています。それを克服するために、どうすればいいのかについて、数年前に、不登校の子供たちと一緒に学習した経験から、お話しさせていただきます。
 
 出会った頃の彼らは、学校に対しても、教師に対しても、大きな不信感をもっているように感じました。学校に行けなくなってしまった理由はそれぞれであったと思いますが、彼らにとって学校が「安心・安全」な場ではなかったのだろうと推察されます。
 
 ですから、私が第一に行ったことは、担任の私が安心できる人物であることを示すことであり、彼らと過ごす教室が、安心で安全な場であることを知らせていく仕事でした。
 
 私は、彼らに自分のことをよく話しました。健康のこと、悩んでいること、これまでの人生で学んだこと。私の頭に浮かんでくることは、何でも話しました。私自身が、さらけ出すことをしなければ、彼らが心を開くことはないと思ったからです。
 
 当時私は、自分自身がまるで丸裸になってしまったような感覚を味わったのを覚えています。さらけ出して、さらけ出して、それでもなおさらけ出して。誰にも見せたことのない自分を繰り返し見せることによって初めて、彼らに私の心が届いたようでした。
 
 時間はかかりましたが、彼らも少しずつ変わっていきました。自分たちも、自分らしい姿でいいのだ。それでも受け入れてくれる担任がいて、友達がいることに気付いていってくれたようでした。クラスという集団ができあがり、学校生活を楽しく送ってくれるようになりました。
 
 この時の壮絶な経験は、その後の私の価値観を大きく変えてくれました。今でも彼らには感謝しています。教師が変われば、子供も変わるのです。教師が心を開けば、子供たちも心を開いてくれるのです。
 
 今、担任している5年生の子供たちは、毎日楽しく過ごしてくれているようです。保護者の方から、「うちの子は、学校に行くのを楽しみにしています」と伺うと、本当に嬉しくなります。
 これからも、安心して過ごせるようなクラス作りを心がけ、安全な学校作りに努力していきたいと思います。

荒畑 美貴子(あらはた みきこ)

特定非営利活動法人TISEC 理事
NPO法人を立ち上げ、若手教師の育成と、発達障害などを抱えている子どもたちの支援を行っています。http://www.tisec-yunagi.com

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