「鯛せんべい」って、知っていますか。私は、かなりむかし、子どもの頃に食べた記憶があるような気がします。それは、クラシックな形と味で、いつの時代なのかわかりませんが、何か懐かしさを感じさせてくれるといったイメージがあるものです。
この夏、比較的近くでありながら、行ったことのなかった房総半島を、ふと、鉄道で一回りすることにしました。
その日も暑く、猛暑日となった日でした。千葉駅で内房線に乗り換え、のんびりと沿線風景を眺めながら、各駅停車の旅を楽しんでいました。しばらくは都会の中を走るものと思っていましたが、予想に反してローカルな風景が続き、まもなくすると東京湾が見えてきました。また、房総半島特有の谷津や小山の中を走るようになり、地形だけでなく、生物学的にも興味深いものを感じられました。事実、ある種の陸生ホタルの分布において、おもしろい変異が報告されています。
そんな勝手な想像もしながら、内房線の一方の終着駅である安房鴨川駅(写真 上)に到着しました。千葉行きの外房線の出発時間まで1時間余りありました。有名な水族館に行く時間はありませんので、駅周辺を散策することにしました。海までは少し距離がありそうなので、駅北側にあるショッピングセンターでお土産でも買おうと思い向かいました。
思った通り、1階には房総のお土産を売るお店が何軒かありました。千葉と言えば落花生しか知りませんでしたが、枇杷も有名なようで、枇杷を使ったお菓子やデザートがありました。あるお店で、足を止めて品物を眺めていると、
「今は、この枇杷を使ったこのお菓子がよく出ていますよ。」
と声をかけられました。枇杷のお菓子というのは、ちょっと珍しいと思い、一つ買うことにしました。税込み525円です。お金を払って商品を受け取ろうとすると、
「どちらからですか。」
と聞かれました。
「群馬県からです。」
と答えると、
「それじゃあ、これを持っていって。電車の中で食べて。」
と言って、小袋にあふれんばかりの鯛せんべいを詰め込んで渡してくれました。
「ありがとうございます。」
「ありがとうございました。」
そんなやりとりをして、鴨川駅に戻りました。商品を選ぶ前に味見をさせて、その商品をセールスするのが普通です。ところが、今回のお店の方の対応には、旅行者への心遣いを感じました。鴨川から群馬までは、電車で5時間以上かかりますから。
そう考えると、無性にうれしくてしかたありませんでした。駅構内で発車を待つ外房線に乗り(写真 中)、早速、鯛せんべい(写真 下)を食べてみました。思わず「おいし~い!」と声を出したくなるぐらいでした。そして、「鯛せんべいって、こんなにおいしかったっけ?」と、自問自答してしまいました。
確かに、鯛せんべい自体もおいしくできていると思います。しかし、それ以上に、あのお店の方の『旅行者への心遣い』が、そのおいしさを増幅させたからだと思いました。
房総半島一周の旅は、久しぶりに鉄道の旅のよさを思い起こさせるものとなりました。
帰宅してから、「鯛せんべいが、なぜ、房総土産なのか」を調べてみました。
房総半島の小湊片海が、日蓮宗の開祖である日蓮聖人の生誕の地であり、不思議な「三奇端」というものが伝えられているそうです。また、当地では鯛を日蓮聖人の生き姿と考えて信仰し、殺傷禁断の聖地とし、数百年間餌を供して守護し続けてきたそうです。現在では、国の特別天然記念物に指定されています。
その鯛に因み、大正時代に町内の「鈴木屋洋物店」店主が、観光地にふさわしい銘菓をと提案し、天津の「廣木堂」で「小湊名物 元祖 鯛焼煎餅」として作られたのが鯛せんべいの始まりだそうです。
現在では、鯛せんべいを製造しているメーカーは、数社あるようです。驚くことに、その鯛せんべいは、今でも「手作り」なのです。鯛せんべいは、柔らかめの種を図柄入りの銅型に薄く流し入れて焼き上げます。その際、裏面が白くなるように、下火をほとんど使わず、ほぼ上火のみを用いるため、型にくっついてしまい、手作業以外ではきれいに剥がす事ができないのだそうです。だから、手作りとなるわけです。職人さんが、オーブンの温度が約250℃、真夏には40℃にせまる室温の中で、1日に約2500枚も焼いているそうです。相当過酷な作業と言うことができます。
今回、いただいた鯛せんべいのメーカーでは、「元祖・廣木堂から受け継いだ技術を守り、伝えていく事を使命と考え、手作業にこだわっていきたい」と考えているそうです。また、「手から手へ、人から人へと、真心をお客様へ届けたい」とも付け加えています。
そうしたメーカーの考え方と姿勢は、教育へもつながるものを感じました。そして、房総半島への旅を、実に思い出深いものにしてくれた、あのショッピングセンターの土産物店の方への感謝も忘れられないものになりました。
それにしても、心残りは、「鯛せんべい」を土産に買ってこなかったことです。
この夏、比較的近くでありながら、行ったことのなかった房総半島を、ふと、鉄道で一回りすることにしました。
その日も暑く、猛暑日となった日でした。千葉駅で内房線に乗り換え、のんびりと沿線風景を眺めながら、各駅停車の旅を楽しんでいました。しばらくは都会の中を走るものと思っていましたが、予想に反してローカルな風景が続き、まもなくすると東京湾が見えてきました。また、房総半島特有の谷津や小山の中を走るようになり、地形だけでなく、生物学的にも興味深いものを感じられました。事実、ある種の陸生ホタルの分布において、おもしろい変異が報告されています。
そんな勝手な想像もしながら、内房線の一方の終着駅である安房鴨川駅(写真 上)に到着しました。千葉行きの外房線の出発時間まで1時間余りありました。有名な水族館に行く時間はありませんので、駅周辺を散策することにしました。海までは少し距離がありそうなので、駅北側にあるショッピングセンターでお土産でも買おうと思い向かいました。
思った通り、1階には房総のお土産を売るお店が何軒かありました。千葉と言えば落花生しか知りませんでしたが、枇杷も有名なようで、枇杷を使ったお菓子やデザートがありました。あるお店で、足を止めて品物を眺めていると、
「今は、この枇杷を使ったこのお菓子がよく出ていますよ。」
と声をかけられました。枇杷のお菓子というのは、ちょっと珍しいと思い、一つ買うことにしました。税込み525円です。お金を払って商品を受け取ろうとすると、
「どちらからですか。」
と聞かれました。
「群馬県からです。」
と答えると、
「それじゃあ、これを持っていって。電車の中で食べて。」
と言って、小袋にあふれんばかりの鯛せんべいを詰め込んで渡してくれました。
「ありがとうございます。」
「ありがとうございました。」
そんなやりとりをして、鴨川駅に戻りました。商品を選ぶ前に味見をさせて、その商品をセールスするのが普通です。ところが、今回のお店の方の対応には、旅行者への心遣いを感じました。鴨川から群馬までは、電車で5時間以上かかりますから。
そう考えると、無性にうれしくてしかたありませんでした。駅構内で発車を待つ外房線に乗り(写真 中)、早速、鯛せんべい(写真 下)を食べてみました。思わず「おいし~い!」と声を出したくなるぐらいでした。そして、「鯛せんべいって、こんなにおいしかったっけ?」と、自問自答してしまいました。
確かに、鯛せんべい自体もおいしくできていると思います。しかし、それ以上に、あのお店の方の『旅行者への心遣い』が、そのおいしさを増幅させたからだと思いました。
房総半島一周の旅は、久しぶりに鉄道の旅のよさを思い起こさせるものとなりました。
帰宅してから、「鯛せんべいが、なぜ、房総土産なのか」を調べてみました。
房総半島の小湊片海が、日蓮宗の開祖である日蓮聖人の生誕の地であり、不思議な「三奇端」というものが伝えられているそうです。また、当地では鯛を日蓮聖人の生き姿と考えて信仰し、殺傷禁断の聖地とし、数百年間餌を供して守護し続けてきたそうです。現在では、国の特別天然記念物に指定されています。
その鯛に因み、大正時代に町内の「鈴木屋洋物店」店主が、観光地にふさわしい銘菓をと提案し、天津の「廣木堂」で「小湊名物 元祖 鯛焼煎餅」として作られたのが鯛せんべいの始まりだそうです。
現在では、鯛せんべいを製造しているメーカーは、数社あるようです。驚くことに、その鯛せんべいは、今でも「手作り」なのです。鯛せんべいは、柔らかめの種を図柄入りの銅型に薄く流し入れて焼き上げます。その際、裏面が白くなるように、下火をほとんど使わず、ほぼ上火のみを用いるため、型にくっついてしまい、手作業以外ではきれいに剥がす事ができないのだそうです。だから、手作りとなるわけです。職人さんが、オーブンの温度が約250℃、真夏には40℃にせまる室温の中で、1日に約2500枚も焼いているそうです。相当過酷な作業と言うことができます。
今回、いただいた鯛せんべいのメーカーでは、「元祖・廣木堂から受け継いだ技術を守り、伝えていく事を使命と考え、手作業にこだわっていきたい」と考えているそうです。また、「手から手へ、人から人へと、真心をお客様へ届けたい」とも付け加えています。
そうしたメーカーの考え方と姿勢は、教育へもつながるものを感じました。そして、房総半島への旅を、実に思い出深いものにしてくれた、あのショッピングセンターの土産物店の方への感謝も忘れられないものになりました。
それにしても、心残りは、「鯛せんべい」を土産に買ってこなかったことです。
大谷 雅昭(おおたに まさあき)
群馬県藤岡市立鬼石小学校 教諭
子どもと子どもたち、つまり個と集団を相乗効果で育てる独自の「まるごと教育」を進化させると共に、「教育の高速化運動」を推進しています。子ども自身が成長を実感し、自ら伸びていく様子もつれづれに綴っていきます。
同じテーマの執筆者
ご意見・ご要望、お待ちしています!
この記事に対する皆様のご意見、ご要望をお寄せください。今後の記事制作の参考にさせていただきます。(なお個別・個人的なご質問・ご相談等に関してはお受けいたしかねます。)