2010.08.26
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デジタル教科書について考える 幸せ度70%

栃木県河内郡上三川町立明治小学校 教諭 鷺嶋 優一

★★★デジタル教科書協議会発足★★★
 去る7月27日、デジタル教科書教材協議会なるものが発足しました。
発起人の一人である陰山英男氏の発言です。
「日本の教育は遅れている。情報化を急速に進め、今までの日本の教育手法と民間のICT技術を融合させ、世界に冠たる新しいデジタル教育システムを構築すべき」
 ここで言う「新しい教育システム」とは、「iPad(アイパッド)」のような手元の電子機器を操作して創造性のある新しいパソコンの使用方法を生み出すことも意味しているようです。
パソコンの父と呼ばれているアメリカのアラン・ケイ氏は協議会のHPでこう述べています。
「今までのパソコンは、既存のメディアを簡素化するために使われているだけだ。」
 どういうことかと言うと、例えば、作文を鉛筆と紙で書く代わりにワープロソフトを使ったり、静止画や動画をフィルムに写す代わりにデジタル化してパソコン上で編集したりしてきたことです。「これからのパソコン利用はもっと創造的に使うべきで、そのことは我々の未来の文明を転換させることになる。」とも述べています。

★★★ねらいは国際競争力★★★
 デジタル教科書の推進については日本の教育が遅れているからという理由だけでなく、『国際競争力をつける』というねらいもあるようです。
 国際競争力をつけることは日本の経済にとって喫緊の課題かもしれません。
 経済の中心はこれからアジアに移ります。ASEAN自由貿易協定により労働力や工場だけでなく、資本や技術力まで国外に流出していく様子はNHKスペシャル「灼熱アジア」を視聴すると大変よくわかります。
 しかしデジタル教科書を一人1台配付するだけでは何も変わらない。学校教育の根本的な転換が必要です。学校教育の枠組み自体が変わることになるかもしれません。

★★★問題はないのか★★★
 デジタル教科書を取り入れると、学校での学びのほとんどがデジタル化されていくでしょう。そうなると、人間関係は大丈夫か?思いやりを身につける機会はどうなるのか?顔を突き合わせて言葉を交わすコミュニケーション能力が本来の生きる力であるべき等々の問題点を指摘する声も少なくありません。
 我々教師の立場で考えると、「あまりにも速い展開で戸惑う」との声が聞こえます。昨年度の補正予算で導入した大型デジタルテレビや電子黒板をどう使いこなすか、普及していくかということを考え始めているこの時期にもう次世代のデジタル教科書の話ですから。
 また膨大な情報を批判的に分析し、評価し、発信する能力。いわゆるメディアリテラシーを育む部分も未だ系統的に確立されていません。

★★★何のために?★★★
 デジタル教科書の導入は、時代の流れ、世界的な流れなのでしょうから、その方向でいくことになるのでしょう。
 ただ何のために取り入れるのか?
 本当に国際競争力をつけることが最大の目標でよいのか?
 私は少々飛躍するかもしれませんが、

☆☆☆「人類あるいは地球全体が豊かになるための道具とすべき」☆☆☆

だと思います。あるいは別のキーワード「共存」や「平和」「幸福」でもいい。経済面を最優先するのではなく、資源の乏しい日本、唯一の被爆国である日本の子どもたちには投げかけをそのような部分にもっていくべきなのではないかと考えます。
 デジタル教科書について知れば知るほど、私たちは今、情報革命の真っただ中にいることを実感させられます。次の世代は、この機械を新しい使い方でごく当たり前に使いこなしていくのでしょう。であれば「知」だけでなく、「体」や「心」も育つような使い方を現在の大人の責任として考えておくべきではないかと思いました。
 幸せ度は70%。100%の可能性を秘めている中で、不安要素は30%に抑え、ちょっと期待度を高くしてみました。今後、皆さんで大いに議論を深めていく必要がありますね。

鷺嶋 優一(さぎしま ゆういち)

栃木県河内郡上三川町立明治小学校 教諭
この春、勤務校が変わりました。異動したての新鮮な気持ちをダイレクトにつづりたいと思います。そして「ICTと幸せ」についても小学校教育の視点から考えます。

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