2010.09.06
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習うより慣れろ

横浜市立中田中学校 英語科 教諭   石山 等

 私の住んでいる茅ヶ崎市は、サザンオールスターズ発祥の地です。私も含めてサザンのファンは圧倒的に多いはず。桑田佳祐さんが無事に病を克服してくれることも、多くの住民が願っています。私はよくサザンの曲をカーステでかけながら、通退勤していました。耳に心地よい彼らの曲ですが、自分で歌うとなると困難を極めます。だから、繰り返し繰り返し耳にしていないとなかなか覚えることができないのです。自分の好きな歌を覚えるときには、ほとんどの人が同じように何度も何度もその歌を耳から吸収して、自分の十八番にしていくのではないでしょうか。

 私はソフトボール部の顧問をして久しいのですが、中学生の女子に慣れないソフトボールを教えるときにも、理屈だけが先行するとろくなことはありません。なぜなら、頭では理解したつもりでいても、からだがなかなか思うように動いてくれないからです。ゴロを捕って投げるという単純な動作にしても、右足、左足の順番に足を出して、捕球してからまた右足、左足の順番にステップを踏むんだよと丁寧に教えても、なかなかその通りにできるものではりません。やり方を解説した後は、100回、200回と、同じ動作を繰り返す練習をするのです。これは実に単純な作業のように思えますが、一つの技術を身に付けるときには非常に大切な訓練です。毎日、繰り返し同じ作業を練習しているうちに、動きは次第になめらかになり、やがては一人前の選手へと成長していくのです。その成長の過程は、絵に描いたように鮮やかです。

 子供たちが学習するときにも、同じ事が言えるのではないでしょうか。もちろん、教科によって訓練よりも理解や理屈が先行しなければならないものもあるはずです。ところが、私が担当している英語のような教科では、明らかに訓練が大切になってきます。よく、語学は「習うより慣れろ」が大切だと言われますが、まさにその通りです。英文法や文章の構造を頭で理解できたとしても、大切な文をすらすら言えるまで何度も訓練しなければ、言葉としての英語はまず身に付くことはありません。日本人が4年生大学卒業まで10年間も英語を勉強して、ほとんど英会話ができないという理由はそこにあるのです。単語や熟語や英文法を覚えることに心血を注いで、英文をすらすら言えるようにする訓練を怠ってきたからです。
 ある日、英語が苦手なある生徒が、私の所に質問にやってきました。実際に問題集で基礎的な問題を解いてもらうと、文法の理解が足りない部分が実に多い。そこで、丁寧に文法を説明して答え合わせをすると、その子はすぐに次のページに行こうとしました。私はその子に英文をすらすら読むことの大切さを教えて、最初のページにあった全ての文をすらすら読めるまで練習させました。何度やっても失敗しますが、練習を繰り返すうちに驚くほど上手に読めるようになったではありませんか。本人も驚いていましたが、これこそが「習うより慣れろ」の実践です。

 中学生の頃、私はきれいにノートをまとめるタイプで、私の弟は繰り返し教科書や地図帳に目を通すタイプでした。皮肉なことに、こつこつ緻密な作業をしていた私の方が能率が悪く、ベッドに横たわって同じページを何度も目で追っていた弟の方がテストに強かったのです。現代っ子たちのノートを見ても、授業中に先生が板書した内容を驚くほど美しく整理している生徒が目立ちます。まるで美術の作品のようです。ところが、その子たちがテストで高得点を取るかと言うと、必ずしもそうとは限らないから更に驚きです。英語のノートをきれいに作っていたある生徒に訊きましたら、内容はまったく理解していないとのことでした。恐らくは、まとめたノートを何度も見直す家庭学習があれば、「美術的ノート」も決して無駄にはならなかったでしょう。一度ノートを整理してそれで終わりになってしまうからいけないのですね。

 スポーツや音楽に親しむ子供たちが多い時代。中学時代の技術の上達ぶりには目を見張るものがあります。自分たちが繰り返し練習を重ねて難しい技術を身に付けた素晴らしい経験を、ぜひ学習にも活かして欲しいと思います。

石山 等(いしやま ひとし)

横浜市立中田中学校 英語科 教諭
52歳。4年半のブランクを経て、教育界に復帰しました。最初に担任したのが3年生の素晴らしい子どもたちで、昔の元気一杯だった自分を思い出させてくれて、心から感謝しています。

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