2010.05.31
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しつけの問題を考える

横浜市立中田中学校 英語科 教諭 石山 等

 前回、「常識を知らない世代」と題して、現代の特に中学生の非常識ぶりを具体的に紹介しましたが、それでは一体誰がどこで彼らをしつけることができるのでしょうか。もはや親だけを頼りにすることはできませんし、かといって「もう手遅れだ」と彼らを放任することもできないでしょう。

 私は英語科教員として採用されましたが、新採用の頃からずっと運動部の顧問を任されてきました。私が教員人生をスタートした当時は、部活動に求められる教育力というものが非常に大きかったように思います。先輩たちは部活動を通じて、生徒たちに礼儀作法を厳しく教え込んでおりました。もちろん全ての教師が同じ方向を向いていた訳ではありませんし、中には部活動を生徒指導の中心として位置づけることに反対する先輩たちもいて、彼らは反主流として隅に追いやられていました。

 私自身は、「部活動で生徒指導ができないダメ教師」というレッテルを貼られるのが嫌で、無理をしていくつもの運動部の顧問を歴任しました。「生徒指導の基本は授業だ」という最も大切な真実に気付いていなかった訳ではないのですが、負けず嫌いの性分がそうさせてしまったのでしょう。でも、最後に顧問を務めたソフトボール部では、肩肘を張らずに自分流の部活経営ができたと思います。現在の学校でもソフトボール部を任されていますが、今まで担当したチームは例外なく立派なチームに成長してくれました。多くの人々は、部活では技術指導が大きな部分を占めると思っていることでしょうが、実際には精神指導つまり「しつけ」の部分が大きいはずです。「学校で見かける大人は全て先生だと思い、しっかりと挨拶をすること」「人の目の前を横切るときには必ず『失礼します』と声をかけること」「誰のお陰で部活動ができるのかよく考えること」などなど、機会あるごとに部員たちに伝えていきます。顧問が多大な時間を費やして、奉仕活動的な部活運営をしていることを知っている部員たちは、教室で見せる顔とは全く異なった素直な表情で顧問の話に耳を傾けるものです。でも、それで安心することはできません。顧問の前ではいい子を演じていても、教室に戻った途端に全くの別人に戻ってしまう場合もあるからです。

 先ほど、「生徒指導の基本は授業だ」という言葉を書きましたが、それはわかりやすい授業をすることに最大限の努力をすることで、生徒たちが大きな信頼を寄せてくれるようになるという意味です。信頼される教師の言葉は真っ直ぐ生徒の心に入っていきますし、影響を受ける生徒の数も部活よりはるかに多いことになります。しかしながら、そういう教師が何名か存在したとしても、その学校の生徒がよりよくしつけられるということにはならないかも知れません。恐らくは信頼できる教師の前でだけいい子になって素顔を見せるのが精一杯なのではないでしょうか。もちろん、そういう機会が皆無であるよりはずっとましではあるのですが。

部活動の状況も昔と今とでは大きく異なってきています。教員の高齢化が進み、部活動の顧問を進んで引き受ける教員が少なくなって来たのです。また、同時に顧問に求められる指導力も昔ほどではなくなってきました。部活動でしっかりと生徒指導をしなければならないなどという厳しい要求をしたら、特に運動部の持ち手はいなくなってしまうでしょう。大きな声を出して叱りとばしただけで、「もっと子供たちの人権を尊重した優しい指導ができないのか」などと保護者から苦情を言われてしまうかも知れませんしね。また、生徒指導の基本である「授業」の方は、昔よりずっと研究が進んでいます。ところが、「学力の低下」が叫ばれて、再び詰め込み教育が始まろうとしている今、どれほどの期待ができるのでしょう。「学力の低下」=「授業数の減少」という方程式と「学力の低下」=「国語力の低下」という方程式のどちらが正しいのかしっかりと見極めなければなりません。暇さえあれば携帯の画面かゲームの画面を見つめている子供文化を容認しておいて、学校教育に特別な成果を求めても無理だと私は思います。

 常識を知らないまま中学生になってしまった子供たちを「再教育」する効果的な方法はどこかにあるのでしょうか。「家庭」「地域」「授業」「部活動」「委員会活動」「学級」など、子供たちを取り巻くあらゆる状況が、うまく機能し合うためにはどうしたらいいのか、これからも試行錯誤が続きます。

石山 等(いしやま ひとし)

横浜市立中田中学校 英語科 教諭
52歳。4年半のブランクを経て、教育界に復帰しました。最初に担任したのが3年生の素晴らしい子どもたちで、昔の元気一杯だった自分を思い出させてくれて、心から感謝しています。

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