2010.05.17
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常識を知らない世代

横浜市立中田中学校 英語科 教諭 石山 等

 混み合った電車の中に一団の学生が乗り込んできました。元気のいい女子高生のようです。ところが、元気が良すぎておしゃべりが止まらない。周囲の人たちが迷惑そうな顔をしているにもかかわらず、彼女たちのおしゃべりは延々と続き、やがては大きな笑い声へと変貌しました。さすがに、自分たちの非常識な笑い声には気付いたようで、一瞬しゃべり声は小さくなりましたが、皆さんの想像の通り、すぐにまた大声のおしゃべりが始まったのです。公の場所では決して大きな声を出さないという社会ルールは、彼女たちには通じません。一体、どこで、いつ、誰が彼女たちにそのような常識を教えてこなければならなかったのでしょうか。親の責任だと言えば簡単なのですが、共働きの親が多くなり、子供たちが接する大人たちは親以外の人間であることも多くなりつつあることを考えると、事はそんなに単純ではなさそうです。
 
 こんな例も最近ではよく見かけます。特に中高生の女の子が歩きながら、あるいは地べたに腰を下ろして、大きな櫛で堂々と髪の毛をとかしているわけですね。本来はあまり目立たないところですべき行為なのですが、それがおかしいと思う子供たちはあまりいないようです。こういう礼儀作法についても、本来は私たち大人が子供の頃から教えてきてあげなければならなかったことなのでしょう。男女に限らず、教室の中で、あるいはグラウンドで平気で制汗スプレーを使っている姿も、あまり格好のいいものではありません。子供なんだからそのくらいは、そいう考え方もあるかも知れませんが、社会に出たら絶対に許されないことで、そのときになって恥をかくのは子供たちです。

 私の家の近くにはコンビニがいくつもあるのですが、そのうちの一つに素敵なテラス状の空間が設置されている場所があるのです。冷たいものやお菓子を買ったときに、そこで食べることができるよう配慮されたものでしょう。ところが、最近ではそこには近くの高校生がアザラシのように何人も寝そべっている。寝そべって宿題をやっているようです。宿題なら誰かの家か図書館にでも行けばいい。そんなところに寝そべったって頭は回転しないでしょう。中程度の進学校と言われるその学校の生徒ですらそのレベルの道徳意識しか持っていないのですから、ちょっとあきれてしまいます。彼らがその場所を占領していることで、店本来の目的は達成されていないわけだから、これは明らかな営業妨害なのですが、その四字熟語知っていますかね。

最近はバイクの騒音もひどくなりました。エンジンの音は昔からうるさかったのですが、近頃はバイクに積んだステレオのボリュームを最大限に上げているのです。うるさいなんてもんじゃない。私の住んでいるマンションのすぐそばが幹線道路になっているので、夜中はもうカラオケボックスの中で眠っているような状態です。なぜ、ヘッドフォンで自分だけの音楽を楽しむことができないのでしょう。なぜ、無理矢理他人にまでうるさい音楽を押しつけるのでしょう。常識を知らないにも程があります。でも、中にはいい年齢のおっさんが同じようなことをやっている。もしかして、「常識を知らない世代」は「常識を知っているはずの世代」によって産み出されてしまった存在なのでしょうか。

 私は英語の教師なので、授業への行き帰りはいつもちょっと重いCDプレーヤーを持ち運んでいます。すると、ある日のこと、後ろから女の子が笑顔でやってきて私に言うのです。「先生、重そう。私、持ちましょうか?」うれしい一言でした。「常識を知らない世代」なんて十把一絡げにしてはいけないのですよね。

石山 等(いしやま ひとし)

横浜市立中田中学校 英語科 教諭
52歳。4年半のブランクを経て、教育界に復帰しました。最初に担任したのが3年生の素晴らしい子どもたちで、昔の元気一杯だった自分を思い出させてくれて、心から感謝しています。

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