2010.07.26
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仲むつまじいツバメの夫婦

横浜市立中田中学校 英語科 教諭   石山 等

 私たちの住むマンションに、ツバメが飛来するようになったのはいつ頃のことだったでしょう。どうやら、巣を作る場所を一生懸命にさがしているようなのです。でもマンションのどこに巣を?そうです、電灯の平らなカバーの上をねらっていたのです。ただ、電灯は夜の間はずっと点灯しっぱなしですから、まぶしいでしょうね。ああ、そうだったか、まぶしいのもあるけれど、暖かくもあるわけなんだ。ツバメもずいぶんと頭を使ったものです。

 ツバメが私たちのマンションに巣を作ることに決めたのを知った私たち夫婦は、管理人がどういう対応をするのか少々心配でした。もしかしたら、巣を作り出した瞬間に撤去されてしまうかも知れない。ところが、管理人夫婦はとても動物好きな優しい人で、巣を作り始めた電灯の下に、糞が落ちても大丈夫なように段ボールをしっかりと敷き詰めてくれて、その上で雛が生まれたら巣から落下しないように、落下防止の箱まで設置してくれたのです。

 ツバメの巣は、あっという間に出来上がっていきました。そしてある日を境に、雌の方だけが(雌だという確証はないのですが)巣に留まるようになったのです。もしかしたら産卵したのでは?わたしたちはもうどきどきしてしまいました。それから数日して、お母さんのお腹の下から小さな鳴き声が聞こえてくるようになりました。無事に孵化したのですね。私たちは、母親に語りかけました。「よく頑張ったね。大事に大きく育てるんだよ」父親は別の電灯の上にりりしく起立し、どことなく胸を張っているような気がしました。「僕の子供たちだよ。しっかり見てね」まるでそう言っているかのように。

 ツバメの成長は驚くほど速いものです。雛がかえってから数週間の内に、体の大きさは親鳥とほとんど変わらなくなってしまいました。そして、巣を離れて飛び回ろうとするのです。これは「巣立ち」が近いことを物語っていたのでしょう。外には大敵のカラスがいるのに、こんなに早く巣立ってしまって大丈夫なのでしょうか。それでも、自然の摂理には動物たちは逆らうことを許されないのですね。4羽のツバメの雛は全て旅立ちました。そして、親たちも一緒に旅立ち、残されたのは電灯の上の土の巣です。私たちは、寂しい気持ちを押さえることが出来ませんでした。あんなに一生懸命子育てをしてきて、最後は子供たちに巣立たれてしまう親鳥たち。自分一人で育ったような顔をして、親のことを振り返らなかった自分の姿と重なります。

 我が家では愛犬の龍馬を飼っていますが、彼にしても母親と一緒にいることが出来た時間はごくわずかだったに違いありません。ときどき思うのです。「自分のお母さんに会いたいとは思わないのかなあ」恐らく彼らにはそう言う感情は許されないし、実際に母親と顔を合わせても親子である認識は得られないでしょう。厳しいですね。私たちの周りの動物たちは、そういう厳しい自然のルールの中で生を全うしようとしています。そこから私たちが学べることはたくさんあるはずです。ツバメの夫婦が、雛たちが、そして愛犬の龍馬がいろいろなことを教えてくれるように。

 マンションの管理人さんは、まだ雛の落下防止の箱を取り去ってはいません。もしかしたら、まだ親鳥たちが戻ってくることを期待しているのでしょうか。ツバメは2度も産卵して子育てすることはあるのでしょうか。いずれにしても、空っぽになったツバメの夫婦の巣を見ながら、自分たちも甘えた生き方をしていてはいけないなと、つくづく思い知らされるのでした。

 今朝、妻が大声で私を呼ぶのです。どうしたのかと思って妻が指さす外をみると、電線に雛らしいツバメが4羽と親鳥が2羽いるようです。もしかしたら、うちのマンションの巣から旅立った親子なのでしょうか。だとしたらどうして電線に?「きっと私たちに子供たちを見せに来てくれたのよ」妻が私にほほえみかけました。何だか心が温まる出来事ですよね。
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石山 等(いしやま ひとし)

横浜市立中田中学校 英語科 教諭
52歳。4年半のブランクを経て、教育界に復帰しました。最初に担任したのが3年生の素晴らしい子どもたちで、昔の元気一杯だった自分を思い出させてくれて、心から感謝しています。

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