2010.02.26
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期待を裏切られると、人は動揺する

滋賀学園中学高等学校 校長・学校法人滋賀学園 理事・法人本部事務局 総合企画部長 安居 長敏

先日(20日)の朝日新聞『be』。紙面に連載中の「勝間和代の人生を変えるコトバ」のタイトルがこれだった。

我々は人と付き合う上で、少しでも相手の気を惹こうと、どこか「期待を持たせる」ような態度を取ってしまいがちだ。でも、それが返って相手の不満や失望を誘ってしまうこともよくある話で、同僚同士、あるいは保護者や生徒との関係において、毎日のように見られる。

新学期、まだ相手のことをよく知らない時期には、これが顕著に表れる。別に過度な期待を持っているわけではないが、保護者や生徒から「当然、・・・だと思ってました。違うんですか?」なんていう、お叱りにも似た疑問を投げかけられる。「いや、そんなこと言ってないですし・・・」と言おうもんなら、「期待してこの学校に入ったんですから、やってもらわないと困ります」。

どこか話がすり替わっているような気もするが、実に痛いところを突いてくる。

この時、できる・できないは別にして、いかに誠実な対応をするかがその後を大きく左右する。相手に「ナンボ言ってもアカンわ~」と失望感を抱かせてしまったらおしまい。根底から関係性が崩れ、以後冷たい空気が両者の間に漂うことになる。

でも、だからといって「できない」ものを「できる」ようにはならないわけで、「あなただけ特別よ~」なんてことは無理な話。相手に「もしかして自分勝手な、過度な期待だったのかなぁ」と、自分の問題として、自分がそう「思ってしまった」と、納得してもらわなければならない。

相手の怒りを静めようと、さらにできないことを並べ立て、期待に期待を重ねていくような言い逃れだけは絶対に避けなければならない。この先まだまだ付き合っていかなければならない相手に対して、それは自滅行為に等しい。

とはいえ、これってよくある話じゃないかと一方で思う。仕事というより例えば恋愛とか、プライベートな部分で・・・。

新しい出会いの相手、まだよく知らない間柄の人に対して我々が求めるのは、今までの人になかったものを持っている、今までの人がやってくれなかったことをしてくれるという「期待感」だ。それは自分本位の、相手の都合も考えない(まだ相手のことをよく知らないのだから当たり前だが)きわめて「身勝手な期待感」だ。

ところが、自分もその期待感に応えることで、新しい展開を「期待」してしまっているから困ったことになる。できないことが「もしかしたらできるかも」って、できない自分を忘れて「コイツと一緒ならやれるかも・・・」って思ってしまっているのだ。期待感はどっちもどっち。お互い、相手のことを知らないもんだから、知らず知らずのうちに両方が「相手に期待しあっている」。

常に新たな発見、新鮮な感動がなければ維持できない両者の期待感。それが「お互いに無理しちゃって・・・」と、いい形で収束していくのなら理想的だが、どちらか一方がボタンを掛け違えると、それまでの期待が大きな失望となって跳ね返ってきて、一気に関係性が壊れていく。

紙面で勝間氏は、「自分が、相手から新しいことを期待される立場になったときには、過度に期待されないように、正直なコミュニケーションを心がけて」と言っている。「できないことはできないとキッパリ伝えることが、結局は相手との関係を長期的にうまく保つ」と。

ここで大事なのは、自分がいま「何ができ、何ができないのか」をはっきりさせることだ。実はこの部分が、我々が一番弱い部分なのだろう。小さな頃から「できないことは恥ずかしいこと」「できないって言うな」みたいなことを言われて育ってきたからだ。この点、多くの欧米人ははっきりしている。できないということより、正直に伝えないことが相手の裏切りになると教えられてきているからだ。

できないことは、できないでいい。今できないことでも、この先できるようになるかもしれないし、それに向かって自分は頑張っているんだから、それでいいじゃないか。できないのは、お互いさま・・・。

今できることを、お互いに精一杯やること。相手に一方的に求めるのではなく、常に立場はfifty-fifty。過度な期待を持たず、かといって軽蔑せず、相手を尊重した上でバランスよく期待し合うことが、人間関係においては一番大事なのではないかと思う。

安居 長敏(やすい ながとし)

滋賀学園中学高等学校 校長・学校法人滋賀学園 理事・法人本部事務局 総合企画部長
私立高校で20年間教員を務めた後、コミュニティFMを2局設立、同時にパソコンサポート事業を起業。再び学校現場に戻り、21世紀型教育のモデルとなる実践をダイナミックに推進中。

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