2009.12.02
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修学旅行の思い出

群馬県藤岡市立鬼石小学校 教諭 大谷 雅昭

 群馬県の多くの小学校では、鎌倉・東京方面への修学旅行が行われています。私の6年生になる息子は、新型インフルエンザが流行し、修学旅行自体も危ぶまれ、出発後も旅行中の発熱のため途中で帰らなければならない児童が何人も出る中、無事に帰ってきました。
 事前学習では、班別自由行動をする鎌倉市内のルートや名所旧跡を調べ、予定通りの行動ができたことを誇らしげに話してくれました。また、限られたお小遣いも、上手く使い切ったと自慢していました。
 子どもにとって、話とともに自分一人で選んで買ったお土産を家族に見せたり、渡したりするのは、大人になったような気分になり、格別のようです。家族一人一人に考えて買ってきたお土産には、本人なりの思いもあり、それを聞くのも楽しいものがありました。

 息子が買ってきたお土産の中に、「ぷるぷる江ノ電」(添付写真)というものがありました。かわいい江ノ電の形をしたぬいぐるみタイプのキーホルダーで、紐を引くと、全体がふるえて動く物です。たぶん、見本を見て気に入り、妹と自分にと2つを買ってきました。早速、妹に渡し、喜んでもらえたようでした。そして、自分の「ぷるぷる江ノ電」のひもを引くと・・ひもは伸びたまま戻りません。もちろん、ぬいぐるみの江ノ電も動きません。息子は、どうしたものかと困り、私の所へ持ってきましたが、どうにもなりません。
彼は仕方なく、本体の縫い目を開き、中の様子を調べたりしましたが、わかりません。そのあげくには・・泣き出す始末です。

 私は、6年生の男子ですから、「そんなことで泣くな!」と言いたかったところですが、せっかく兄妹でおそろいでと考えて買ってきた優しい気持ちを思うと、何も言えませんでした。楽しい修学旅行の思い出が、急激に色あせていくようで、かわいそうでなりませんでした。

 そこで、私は販売元である江ノ島電鉄株式会社に、「修学旅行に行った子ども達の楽しい思い出が、帰宅後に消えるようなことがないように、製品に対して一層の安全性と品質を上げるようにお願いしたい」という趣旨のメールを送りました。
 ホームページからのメールで、返信には時間がかかるとのことでしたので、期待をしないでいることにしました。
 ところが、翌日には、返信メールが届きました。そこには、次のような文面が綴られていました。

 担当者として、遠足や修学旅行でたくさんのお客様に江ノ電並びに江ノ電グッズをご利用頂いております中、製品の不良を出してしまったことはもとより、それぞれの一度しかない修学旅行の思い出を台無しにしてしまい、心からお詫び申し上げます。
 本製品の検品状況と致しましては、製造工程の中で動作確認を全品行っている状況を、製造元により確認をしておりますが、実際に製品の中から「紐が戻らなくなる」「紐が本体から抜けてしまう」といったケースを年間で数件確認しております。動作確認の方法など再検討し、不良製品が流入しないように徹底させて頂くと共に、皆様に喜んで頂ける製品作りを心掛けて参ります。
 また、代替品を本日発送させて頂きましたので、到着致しましたら、ご確認頂きます様お願い申し上げます。

 早速、息子に代替品が送られてくることを話しましたら、大喜びをしていました。その子どもの様子とお礼のメールをしたところ、再び、江ノ島電鉄株式会社の事業部観光課の担当者から、次のようなメールが送られてきました。

 先のメールでは触れませんでしたが、私は鉄道会社の社員としてこのようなグッズの企画をさせて頂くようになり4年が経過し、日々勉強中でございます。
 業界の中のことは、今までの仕事(鉄道業)とは違い戸惑うことも多いのですが、私は担当になって一貫して続けて行きたい事が「おもちゃは誰が何のために作るのか?」と考えたところ、「心の通った者が子供の笑顔のために作るのだ」と。
 各種イベントなどでは、親御さんから「また売ってるー!」っと、敬遠されがちですが、出来るだけ多くの見本のおもちゃで遊べる空間を作り、遊んでもらうことで子供たちの笑顔が見られることと、指先の操作で画面を見るバーチャル的な遊びでは無く、少しでも現実的な形ある物での遊びに移行してもらえればと願っております。
 私も小学生の子供が居りまして、大谷様より頂きましたメールで一番申し訳なく思うことが、江ノ電を好意に思って、江ノ電にも乗って頂いて、その思い出に買って頂いた商品で残念な結果になってしまったことが、私自身も残念でなりません。
 大谷様から頂きましたメールから学ばせて頂くことが大変多く、勉強になりました。

 後日、お礼として、江ノ電サブレ(添付写真)まで送られてきました。ここまでしていただき、かえって恐縮してしまいました。

 さて、私はこの事業担当者の方とのやりとりで学んだことがあります。一つは、哲学を持って仕事をすることの大切さです。もう一つは、営業であったとしても、将来ある子ども達に現実の中で喜びを感じてほしいという「子どもを育てる視点を持って仕事ができる」のだということです。日本の経済情勢は大変厳しいものがあります。しかし、大人が自分のためだけでなく、仕事を通して「未来を担う子ども達を育てていく」という意識を持ち、自分の立場なりに実践できたら、日本の将来は明るいのではないかと思いました。教育に直接たずさわる教師は、さらに「子ども達の将来を考えた教育」を展開しなければならないと強く思いました。

 息子にも担当者からのメールを読ませ、お礼の手紙を書かせました。彼にとって、特別な学びをした、忘れられない修学旅行の思い出になったことと思います。
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大谷 雅昭(おおたに まさあき)

群馬県藤岡市立鬼石小学校 教諭
子どもと子どもたち、つまり個と集団を相乗効果で育てる独自の「まるごと教育」を進化させると共に、「教育の高速化運動」を推進しています。子ども自身が成長を実感し、自ら伸びていく様子もつれづれに綴っていきます。

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