2009.11.04
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不易と流行 1

群馬県藤岡市立鬼石小学校 教諭 大谷 雅昭

 「不易と流行」という言葉を、教育現場では時々聞きますが、元々語源は何なのでしょうか。

 10月12日は松尾芭蕉の命日で、「時雨(しぐれ)忌(き)」と呼ばれているそうです。私の学級でも、「奥の細道」や芭蕉の俳句の暗唱を取り入れています(添付写真)が、親しみがありながら、芸術的な作品を残している作家と言うことができると思います。
 私自身が芭蕉にあこがれる一つに、生涯にわたって旅を続ける自由人であったことにあります。芭蕉が最期に、大阪で詠んだ句は
 「旅に病んで 夢は枯野を かけめぐる」
ですが、こんな一生であったらうらやましいな思います。

 さて、「不易と流行」という言葉は、芭蕉の残した言葉の中にあります。ただ、芭蕉自身が書き残したのではなく、弟子の去来などが書いたものの中に、芭蕉の言葉として残されているます。それが、以下の文です。
「蕉門に千歳(せんざい)不易の句、一時流行の句と云う有り。これを二つに分かって数え たまえども、その基は一つなり。不易を知らざれば基立ちがたく、流行をわきまえざれ ば風(ふう)新たならず」   (去来抄)

 「不易」とはずっと変わらないことであり、「流行」とはその時々に合わせ変えていくことです。これをさらに解釈すれば、「不変の真理を知らなければ基礎は確立せず、変化を知らなければ新たな進展がない」ということになります。ただし、「両者の根本は一つである」という考えに基づいています。
 こうした解釈・考えが、中教審(中央教育審議会)答申や臨教審(臨時教育審議会)答申の中で引用され、その後、教育関係者の間などで使われるようになったのだそうです。

 ところで、現在、教育現場では新学習指導要領の移行期となり、ますます慌ただしさを増しています。この学習指導要領は、ほぼ10年ごとに見直されていますが、そのたびに教育現場は大混乱してきました。
 特に、最近の指導要領の改訂では、上から押しつけられた「流行」により振り回されています。この点は多くの人がすでに指摘していますが、総合的な学習の時間が始まるときは、だれもが「総合、総合」と言い、学校は総合一色でした。今はどうでしょうか。学力低下論争が起きて、授業時間や授業内容の増加に伴い、「総合」はすっかり悪者扱いです。陰は薄くなり、今や消滅の危機に瀕していると言ってもいいくらいです。今は「英語」ブームです。小学校英語について、十分議論されたとは思えないまま、高学年では正規の授業となることが決まり、指導要録にもその記載が決まりました。
 総合も英語も悪いことではありません。ただ、基礎基本がないままに探求学習をしようとしたり、必要性や学校教育としての指導体系が不明確なまま外国語学習をしようしたりするのは、必ず歪みが出てくるものです。総合の時が、いい例だと思うのですが。

 さて、教育における「不易」とは、何でしょうか。考え方によりいくつもあると思いますが、一つは日本の伝統的教育のよさに求めることができるのではないでしょうか。たとえば、一斉学習の技術、素読、規範意識などではないでしょうか。それは、変わらぬよさであり、変えてはいけない日本人としての教育ではないでしょうか。

 ただ、現在の教育環境に不易がすべてそのまま有効とは思っていません。子ども達の現状や教師の力量に基づいて、流行的側面を取り入れた不易の教育が、これからの教育の一助となるような気がしています。

 前述の松尾芭蕉は、俳諧上達の秘訣を聞かれ、
「過去の自分に飽きることだ。」
と答えたそうです。その意味は、常に努力を重ねつつ、さらに新境地を切り開いていこうとするからこそ、そこに進歩があり、物事の根本・本質により近づけると考えての発言だったそうです。
 つまり、本質的なもの「不易」を追究するためには、常に変化「流行」をしていかねばならないのであり、変化する(流行を追う)場合も本質的なもの(不易)を踏まえていかねばならないと解釈することができます。

 この解釈は、今の教育の進むべき路をも示しているように感じています。
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大谷 雅昭(おおたに まさあき)

群馬県藤岡市立鬼石小学校 教諭
子どもと子どもたち、つまり個と集団を相乗効果で育てる独自の「まるごと教育」を進化させると共に、「教育の高速化運動」を推進しています。子ども自身が成長を実感し、自ら伸びていく様子もつれづれに綴っていきます。

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