2009.08.26
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渡りのロマン

群馬県藤岡市立鬼石小学校 教諭 大谷 雅昭

 皆さんは「渡り」と聞いて何を連想しますか。
 「渡り鳥」としては、夏鳥のツバメ、あるいは冬鳥としてマガモやオオハクチョウを思い出されるかもしれませんね。また、魚では回遊魚として、クジラやイルカ、マグロなどが浮かぶでしょうか。
 今日は、「渡りをする昆虫」を紹介します。

 「アサギマダラ」という名前を知っていますか。
 アサギマダラはタテハチョウ科マダラチョウ亜科に属し、前翅が4~6センチほどの大きさで、翅を広げると10センチ前後になります。黒と褐色の模様と、ステンドグラスを思わせる透けるような薄い浅葱(あさぎ)色(=緑がかった薄い藍色)のまだら紋様の翅(はね)を持っています。これが、名前の由来となっている蝶です。
 このアサギマダラという蝶を有名にしたのは、その渡りのすごさです。春から夏にかけては、本州等の標高1000メートルから2000メートルほどの涼しい高原地帯を繁殖地としています。秋になり、気温の低下と共に適温の生活地を求めて南方へ移動を開始し、遠く九州や沖縄、さらに八重山諸島や台湾にまで海を越えて飛んでいくそうです。海を渡って1000キロ以上の大移動にもなります。
 そして、冬の間は、暖かい南の島の洞穴で過ごしています。そこで、新たに繁殖した次の世代の蝶が春から初夏にかけて南から北上し、本州などの高原地帯に戻るという生活のサイクルをきちんと守っているのです。季節により長距離移動(=渡り)をする日本で唯一の蝶なのです。
 その移動状況を調べるために、成虫を捕獲し、翅の半透明部分に捕獲場所・年月日・連絡先などをマジックインキで記入(マーキング)し、放蝶するという方法で個体識別が行われています。そして、このマーキングされた個体が再び捕獲された場所・日時によって、何日で何km移動したかのデータをとっているのです。
 
 夏期休業中の日曜日に、このアサギマダラのマーキング観察会に参加してきました。私が行った場所は、群馬県と栃木県の県境の金精峠から脇に入った丸沼湖畔です。標高1400メートル余りで、気温は20度ほどでした。
 観察会の趣旨とマーキングの説明を受けてから、アサギマダラが好むヒヨドリバナを目当てに沢沿いの林道を上っていきました。あいにく、時々、小雨も降る天候でしたが、やや大型の蝶であるアサギマダラが優雅に飛んでいる姿を目にすることができました。感動している間もなく、網を振り、捕獲にかかりました。
 アサギマダラの翅に捕獲場所と捕獲者、捕獲番号をマーキングしながら、不思議と浅葱(あさぎ)色に惹かれるものがありました。その色は、神秘的にも思えました。そういえば、丸沼のある場所の湖の色にも似ているように感じました。
 同時に、まもなく何百キロあるいは千数百キロにも及ぶ渡りを開始する蝶だと思うと、思わず「がんばれよ」と声をかけたくなりました。
 また一方で、「こんなか弱い蝶のどこに、海を越えて飛んでいくパワーがあるのだろうか」「海上に出たら、どこで休んでいるんでいるのだろうか」「そもそも、なんで餌はあるのに、危険を冒して渡りをしなくてはならないのだろうか」など、様々な疑問も浮かんできました。

 生き物の、そして自然の不思議さを感じながらの、アサギマダラのマーキング観察会となりました。アサギマダラの渡りの時期や北限などの様子を調べることで、地球温暖化の進行の状況もわかるそうで、確実に北上しているとのことでした。
 私が体験・実感した感動や事実を、教師として子ども達に伝えていきたいと思いました。それは、生き物や自然のすばらしさであり、また一方では地球の一員としての人間の在り方についてです。

 3時間ほどで、47頭のアサギマダラのマーキングを行ってきました。終了後、近くの温泉旅館のオーナーの好意で、温泉につかりながら、アサギマダラの渡りのロマンに想いを寄せるのでした。

 この日は、久しぶりに心身のリフレッシュになり、生きる力を自然からもらったような気がして帰ってきました。
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大谷 雅昭(おおたに まさあき)

群馬県藤岡市立鬼石小学校 教諭
子どもと子どもたち、つまり個と集団を相乗効果で育てる独自の「まるごと教育」を進化させると共に、「教育の高速化運動」を推進しています。子ども自身が成長を実感し、自ら伸びていく様子もつれづれに綴っていきます。

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