2009.05.22
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どちらが教育的か?

滋賀学園中学高等学校 校長・学校法人滋賀学園 理事・法人本部事務局 総合企画部長 安居 長敏

本校(中高一貫・中学部)では、中2の夏に2か月間の New Zealand 短期海外研修を実施している。

最初の1か月は全員が共同生活をしながら、現地の語学学校に通う。食料品の買い出しから、食事の支度、後片付け、掃除、洗濯・・・と、生活のすべてを自分たちで担い、当番を決めてやっていく。一部屋で数人が寝起きし、まさに寝食を共にする生活の中で、「他者理解」=「自分を開く」ことを経験的に学ぶ。

後半の1か月は、一般家庭に1人ずつホームステイし、現地の学校に通う。それまでの共同生活で身につけた「自分で解決していく力」を発揮し、英語での会話が満足にできない中、コミュニケーションをとろうと悪戦苦闘。独りでいる寂しさを克服しつつ、改めて「家族とは何か」「自分とは何か」を考える。

これまで5年間、一期生から続いてきた経験則でいけば、2か月間の研修で子どもたちがどれだけ自立するかは、「周囲がいかに手を出さずに見守り続けられるか」にあるといってよい。

現地でトラブルに出会ったとしても、共同生活でいざこざが起こったとしても、引率教員や現地コーディネーターは、あくまでも距離を置き、極力手出しをせず、子どもたち自身が自ら解決していくのを待つ。それが基本スタンスだ。

しかし、保護者の立場になってみれば、どうもそれだけでは満足できないらしい。なんとか子どもに、この短期研修で自立して欲しいと熱望しているにもかかわらず、毎年・・・

「子どもは大丈夫かしら?」
「子どもから何の連絡もないんだけど」
「現地の様子は?」

・・・などなど、遙か New Zealand に行っている子どもの様子を、日本にいるときと同じように知ろうとする。

確かに、ここまで情報化が進んだ世の中だし、携帯電話やインターネットを利用すれば、日本にいるときと同じような感覚で、子どもたちと連絡が取れるだろうし、写真やビデオなど、それこそオンデマンドで現地の生活ぶりが手に取るようにわかる。

でも、それって、海外研修の意味を根底から覆すことじゃないの??

親元から離れ、非日常の環境に身を置くことによって、初めて見えてくる世界・・・。それが自分を見つめるきっかけであり、自立への第一歩であるはずだ。

なのに、親の方から必死で日常を取り戻そうとしてどうする。

少しでも情報が入らないと、「現地からの報告はないのか」「様子をこまめに伝えて欲しい」。果ては、「困ってるみたいだから、直接話させてほしい」など、保護者の要求がどんどんふくらんでいく。

これって、どうよ。

中学の短期研修だけでなく、高校での一年間の留学でも、状況はさして変わらない。とにかく何のための「海外研修」「留学」なのか・・・。《独りぼっち》体験をさせてこそナンボなのに、それを自らが覆してどうするのだろう。

子どもが親を求めるのは仕方がないとしても、親が子どもを求めちゃダメだ。子の親離れより、まず先に親の子離れをしないと・・・。子どもに「独りでもガンバるんやで」と言うのなら、親も孤独に耐えて当たり前だろう。

ということで、今年の短期研修では一切現地の様子を伝えないでおこうと思うのだが、これってアリ? それともダメ?

日本を出発したら、よほどのことがない限り、現地からの連絡はなし。何も連絡がないということ=無事に元気で頑張ってるってこと。それでいいじゃない。

で、現地ではしっかり記録を撮っておいて、2か月後、日本に帰ってきたときに、向こうではこうだったんだよ・・・って、その記録を振り返り、成長ぶりを確認しあう。そのほうが、よっぽどいいと思うんだけど。

        ◇          ◇          ◇

現在、7月16日の出発に向けて準備中だが、新型インフルエンザの影響で、実施できるかどうか微妙な状況になってきた。結論は今月中に出さなければならない。

関西では次々と感染が報告されていて、いずれ滋賀県にも・・・と心配している。皆さんの学校ではいかがだろう。

安居 長敏(やすい ながとし)

滋賀学園中学高等学校 校長・学校法人滋賀学園 理事・法人本部事務局 総合企画部長
私立高校で20年間教員を務めた後、コミュニティFMを2局設立、同時にパソコンサポート事業を起業。再び学校現場に戻り、21世紀型教育のモデルとなる実践をダイナミックに推進中。

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