2020.12.14
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コロナ禍でリモート授業を続けています

日本語補習校は日本と同じく4月から新年度で、今年度はその新年度初日から急遽誰もやったことのないリモート授業を実施することになりました。小学部はそこに教科書改訂も重なっててんてこまい。あっという間の1学期でした。

そして2学期も終えようとしている今、気がつくとすでに半年程リモート授業をしてきたことになります。全く予測していなかった体験から学んだことや再確認したことをふり返っていこうと思います。

ユタ日本語補習校 小学部担任 笠井 縁

リモート授業で出来ること

リモート授業を始めるにあたり、知識や技能を教える事はどの先生でもなんとなく想像がつきました。問題は生徒同士の対話も含め、横のつながりやクラス作りをどうしたらいいのだろうということです。

補習校の良い点は、特に当校のような小規模校だと各学年は1クラス。進級時にクラス替えがないので年度が替わっても生徒達はお互いの事を知っています。一部の新入生を除き、教員も兄弟つながりなどでなんとなく家庭状況などを把握している場合が多いです。

一方で補習校の難しい点は、州内に1つしかない学校なので生徒同士が離れて住んでいる事。毎週土曜日の通常授業でも30分以上かけて通っている生徒も多く、学校で仲が良くても近所に住んでいるとは限らないのです。保護者が車を出して送り迎えをしないと遊ぶこともできません。日本で言えば、一県に一つの学校でみんなが違う市から通ってくるという感じです。こういった状況(しかもコロナ禍)でも、学びを止めずにつないで来れたのはICTのおかげです。

バーチャル休み時間

そんな中で1学期中は、オンライン授業用のURLを平日にも利用してバーチャル休み時間を開こうと試みました。自由参加で、勉強ではなくお互いの顔を見ておしゃべりしたり、ビデオ会議システムの中でできる遊びを試してみたり。この頃はまだビデオ会議(Zoom)の安全性が疑問視されていたので様子を見ながらの取り組みでしたが、新型コロナへの不安から社会自体が閉ざされていた中で、ある程度の気晴らしにはなったと思います。保護者からの理解と協力にも助けられました。

夏休みの後は、現地校が対面授業を再開しました。とは言えほとんどの学校で、登校するか家庭でオンライン授業を受けるか選べるようになっており、州内の都市部では総じて1割程の家庭がオンライン授業を選んだようです。補習校の生徒も現地校での授業形態は様々ですが、現地校で対面授業を再開した生徒も一定数いて、また with コロナにも多少は慣れたのか春ほどの閉塞感や不安は感じられなくなったように思います。

私が担当する6年生では、土曜日の授業の合間や自習時間もオンライン教室は開きっぱなしで、生徒同士がおしゃべりをしたり、「あそこの答え何?」なんて教え合っているのも聞いていないふりをしています。オンライン上でも教室内の風景、会話にこんなに近づけるものだなぁなんて微笑ましく生徒同士の会話を聞いています。

2学期に入ってからのバーチャル休み時間に関しては、新しい生活や授業が落ち着くまで様子を見ようと考えていました。現地校で小学校から中学校へ進級し学校生活が大きく変わる生徒がほとんどだという事も理由の一つです。そんな折の9月半ば、ある生徒が「先生、バーチャル休み時間はもうしないの?」と訊いてきて、私は「君たちがやりたいのなら、やったらいいよ」と答えました。するとほとんどの生徒が「やった~!」と嬉しそうな声を上げたり興味を示しました。

6年生という年齢もあると思います。自分たちだけで会話を紡いでいく事が出来ます。また人間関係でも横のつながりを欲する時期ではないでしょうか。その後、保護者の了承を経てあくまで自由参加で週2回。今でも続いています。我が家は息子もこのクラスにいますので、時々こっそり部屋の外から様子を伺うと、すごく盛り上がる時もあれば、ログインしているけど話すことがなくて、繋がったままそれぞれが別の事や宿題をやり始めたりする時もあるようです。

それでも何となくログインしてみる。先生や親のいない所で、同年代の他の子と目的意識なしで、言ってみればダラダラと同じ時間を過ごす。バーチャル休み時間を始めた時の私の中のイメージは、町内の空き地に何となく集まる子どもたちの姿でした。放課後、家にいてもつまらないから誰かいないかなと思って空き地に行ってみる。そこにいた子と気が合えば話したり遊んでみる。そういう空間が必要なのではないかと思うのです。習い事で忙しかったり、一人で遊ぶことが好きな子もいるでしょう。このクラスでも全員が集まるわけではありません。ですが、なかなかログインできない子も「いつも忘れちゃうんだよな~」なんて言って、そういう空間があるという事は知っています。

そんな「休み時間」の横のつながりが、授業内でもいい影響を与えていると感じます。ブレイクアウトルームで子どもたちだけで話し合いをする時も、大きく脱線することなく、かと言って堅苦しくなく、意見の食い違いはあっても子ども同士でうまく収めてそれなりに話し合いができているようです。

まとめ:バーチャルでもつながっていられるのは、バーチャルの外で過ごす時間のおかげ

これからリモート教育やオンライン授業はますます盛んになってくるでしょう。私はどちらかというと古い人間で対面授業を好みます。こういう状況でなければ教室で授業をする方がいいと思っています。それでも今年度の経験を通して教育分野でのICTの可能性を実感しました。しかしこれはあくまでも今の私たちにオンライン授業以前の経験やつながりがあるから成り立っているのだとも考えます。今年度の私たちの補習校でのリモート授業は今の状況下でのベストですが、本来あるべきベストの教育環境ではないとも思います。

コロナ禍でも6年生の子どもたちがなんとか横のつながりを保てているのは、彼らがもともと持っていた気質や家庭環境、コロナ以前の人間関係のおかげです。そしてそれを育んできたのはICTの外側にある日々の生活ではないかと思うのです。

笠井 縁(かさい ゆかり)

ユタ日本語補習校 小学部担任


アメリカの小さな補習校で多文化の中で成長する子どもたちと一緒に学んでいます。アメリカの現地小学校でも非常勤で子どもたちと接し、日本との違いに驚くこともありますが、子どもたちの学びの過程には共通する部分も多いのではないかと思っています。

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