2023.12.11
  • twitter
  • facebook
  • はてなブックマーク
  • 印刷

意外と知らない"専門職大学"(第1回) “高度な実践力と豊かな創造力”を備えた専門職業人を育成

「学校」といえば、小学校、中学校、高等学校、大学、短大、専門学校等、皆さんの頭の中でいくつか思いつくものがあると思います。この学校種の中で2019年に新しく「専門職大学」「専門職短期大学」というものが誕生したことをご存知でしょうか。短期大学制度が恒久化されて以来55年ぶりに新たに誕生した大学体系の学校種、今回はそんな専門職大学についてのお話です。

背景

産業構造が大きく転換してきました。半世紀前には考えられなかったほど第四次産業革命が進み、国際競争が激化してきました。2011年に、ニューヨーク市立大学のキャシー・デビットソン教授が「今年、アメリカの小学校を入学した子どもたちの65%は、大学卒業後に今は存在していない職業に就くだろう」と予測し、話題になりました。また、多くの仕事がAIに代替されるという話もあります。

少子高齢化によって、日本の生産年齢人口(15~64歳)は2023年現在は約7,900万人ですが、2060年には約4,400万人と半減すると推計されています。

高等教育機関をめぐる多様化というのも背景にあります。

1960年には15%程度であった大学への進学率ですが、2022年には56.6%が大学、3.7%が短大へ進学しています。

また、高等教育機関と実社会とのニーズ、育成能力のミスマッチも挙げられます。2009年に経済産業省が行った「大学生の『社会人観』の把握と 『社会人基礎力』の認知度向上実証に関する調査」では、企業が大学生に求める能力は「主体性」「コミュニケーション能力」「粘り強さ」といった内面的な基本能力なのに対して、大学生が不足していると感じている資質は「語学力」「業界に対する専門知識」「簿記」などの技術・スキル系の能力とギャップがありました。

こういった産業構造の変化、高等教育をめぐる状況の変化を受けて、文部科学省は、質の高い実践的な職業教育を行うことを制度的に義務付けられた新たな高等教育機関を創設することになりました。今後の成長分野を見据え、新たに養成すべき専門職業人材を「理論にも裏付けられた高度な実践力を強みとして、専門業務を牽引できる人材」かつ「変化に対応して、新たなモノやサービスを創り出すことができる人材」と定義しています。

専門職大学とは

2017(平成29)年5月31日に公布された「学校教育法の一部を改正する法律」の中で専門職大学、専門職短期大学が制度化されました。これによって、大学のうち、深く専門の学芸を教授研究し、専門性が求められる職業を担うための実践的かつ応用的な能力を展開させることを目的とするものは、専門職大学とすることが定められました。なお、専門的な課程であっても医学を履修する課程、歯学を履修する課程、薬学を履修する課程のうち臨床に係る実践的な能力を培うことを主な目的とするもの又は獣医学を履修する課程を置くことはできないものと定められています。

この法改正は2019(平成31)年4月1日より施行されることとなり、この時から各地で専門職大学を創立しようという動きが出始めてきました。

専門職大学は、普通の大学と比べて、目指す職業に必要な技術を身につけやすい、職業に直接必要なことが勉強できる、職業に必要な資格取得がしやすい、目指す職業への就職に有利などの特徴があります。

また、社会で通用する技術や知識を身につけるために、実習等の授業で40単位以上(2年制では20単位以上)の修得が卒業要件となっています。つまり全体の3割程度が実習で構成されています。専門学校でも資格取得を前提としたカリキュラムが作られていますが、専門職大学では企業インターンシップや学外実習など、より職業に近い学習を行うだけでなく、高度な実践力の裏付けとなる理論や、豊かな創造力の基盤となる関連他分野についても学ぶことができるという特徴があります。

授業も40名以下で構成される少人数制を取っているので、従来の大学より手厚いサポートを受けることが可能です。

どんな専門職を目指せるのか

多くの学校法人が、2019年から専門職大学を開校すべく準備を始めました。大学を持っていた法人が専門職大学を作るパターン、専門学校を持っている学校法人が専門職大学を作るパターンが出てきました。

特に情報系、理学療法系、ファッションなど、芸術系の専門職大学を作る構想が多く出ました。

しかし、2018年に文部科学省に設置認可申請を出した19校のうち、18校が不認可となりました。認可されたのは高知リハビリテーション専門職大学のみでした。その後国際ファッション専門職大学も認可されましたが、2019年4月に開校できた専門職大学は上記2校のみでした(専門職短期大学としてヤマザキ動物看護専門職短期大学も開校)。

文部科学省は審査結果について、専門職大学の特色である実習の内容、評価基準、実施体制が十分検討されていない、優れた実務上の業績がない者が実務家の教授等として申請されている、実践的かつ創造的な専門職業人材の専門性の支えとなるべき理論の教育が不足している、大学教育としての内容・体系性が不十分、教育課程連携協議会の構成員が不適切、理論と実践を架橋する教育を行う機関として専門職大学等に求められる「実践の理論」を重視した研究を行う施設・設備が整備されていないなどの課題を挙げており、学校法人の理解よりも厳しい基準だったようです。

2023年4月時点では全国で専門職大学が19校、専門職短期大学が3校、専門職学科が1校となっており、どんどん増えてきました。特に今までは専門学校にはあるけど大学になかった学問として、ファッションやアニメーションといったものが、専門職大学で4年間学ぶことができるようになっています。

将来の目標が既に決まっている、実際の職業に直結する勉強がしたい、という高校生の方々にとっては今後増えていく専門職大学というのも進路の一つとして良いのではないでしょうか。次回はカリキュラムの例や設置要件について紹介します。

構成・文:内田洋行 東日本第一営業部 係長 井土 真宏

※当記事のすべてのコンテンツ(文・画像等)の無断使用を禁じます。

ご意見・ご要望、お待ちしています!

この記事に対する皆様のご意見、ご要望をお寄せください。今後の記事制作の参考にさせていただきます。(なお個別・個人的なご質問・ご相談等に関してはお受けいたしかねます。)

pagetop