2024.06.03
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「生徒指導提要」改訂で変わる子どもの支援 「スクールカウンセリングのこれから、スクールカウンセラーのこれから」セミナーリポート

不登校、いじめ、発達障害による困難など、子どもが抱える課題は深刻化している。これを受け、文部科学省は生徒指導の基本書である「生徒指導提要」を202212月に改訂し、多様なすべての子どもをチーム学校による生徒指導体制で支援する方針を示した。これからのスクールカウンセリングに求められるものとは? スクールカウンセラーが果たすべき役割とは? 『スクールカウンセリングのこれから』の共著でも知られる東京成徳大学特任教授の石隈利紀氏、東京福祉大学教授の家近早苗氏による創元社オンラインセミナー「スクールカウンセリングのこれから、スクールカウンセラーのこれから ~『生徒指導提要』の改訂が示す子どもの支援」の模様をリポートする。

多様な子どもと多様な大人の共生を支援

スクールカウンセリングの今とこれから

東京成徳大学特任教授 石隈利紀氏

前半は、文部科学省の協力者会議委員として作成に携わった「生徒指導提要」改訂版のポイントと、それを踏まえたスクールカウンセリングについて、主に東京成徳大学特任教授の石隈利紀氏が説明した。

石隈氏は生徒指導提要の改訂の柱として、次の3点を挙げた。1つ目は、「個性や教育ニーズ、背景の異なる多様なすべての子どもの発達支援を目指す方針が示された」こと。スクールカウンセラー(SC)には「学校にいるすべての子どもを援助しながら、課題を経験している子どもへプラスアルファの援助をタイムリーに届ける」ことが求められる。また、石隈氏は2022年6月成立の「こども基本法」に子どもの権利擁護や意見を表明する機会の確保が明記されたことにも触れ、「SC は子どもの権利のアドボカシー(代弁者)であり、子どもの言動を通訳する役割も担っている」として、その職務の重要性を強調した。

2つ目は、「学校教育におけるすべての場面を生徒指導の場とする」こと。生徒指導は教科内容のようにカリキュラムで設定されていないため、授業、道徳教育、特別活動、特別支援教育など、あらゆる場面で意識的に行うことが求められる。そのため、「SCは学習指導要領を理解することも必要」であると石隈氏は指摘した。

3つ目は、「チーム学校が生徒指導の主体となり、その責任を負う」こと。ご存知のように、チーム学校とは2015年に文部科学省が打ち出したチームとしての学校のあり方で、SCを含めた教職員間の連携と、学校・家庭・地域の援助資源の連携を強化し、子どもの教育を共に担っていくというものだ。

注目すべきは子どもの位置付けで、生徒指導提要に掲載されている「チーム学校における組織イメージ図」では、学校、家庭、地域のうち、あえて学校の中に児童生徒を置いている。これは校則の見直しを含め、「大人と子どもが一緒に学校というコミュニティをつくっていく」という方向性の表れである。

なお、これまでは学校生活における支援のモデルとして、学校心理学における3段階の援助サービスが用いられてきたが、改訂版ではその発展版が提唱されている。3段階の援助サービスは、すべての子どもに向けた1次的援助サービス、苦戦している一部の子どもへの2次的援助サービス、特別な教育ニーズのある特定の子どもへの3次的援助サービスからなる。改訂版では、この1次的援助サービスを「発達支持的生徒指導」と「課題予防的生徒指導(課題未然防止教育)」の2層に分け、成長を促す指導の充実が図られている。また、2次的援助サービスとして課題の早期発見・対応を目指す「課題予防的生徒指導(課題早期発見対応)」を、3次的援助サービスとして課題にチームで対応する「困難課題対応的生徒指導」を、それぞれ提示している。

こららに加えて今回の改訂で着目すべき点は、「1人ひとりの子どもの個性を発見し、よさや可能性を伸ばす『生徒支援』を目指している」ことだ。子どもの支援において、特定の課題を想定しない場合には「支える・支持する」、特定の課題を経験している場合には「指導・援助」、双方を包括的に示す場合は「支援する」と表記されるようになったことから、生徒指導と生徒支援はイコールであるとも言える。また、生徒指導の目的にあった「個性の伸長」という表現が「個性の発見とよさや可能性の伸長」へと変わったことで、「個性の定義が広がった」と石隈氏は指摘。スクールカウンセリングでは、「子どもの特性や発達の状況などの個性をどうアセスメントし、援助につなげていくかが大事」であるとした。

教師と保護者を子どもの応援団に

スクールカウンセラーの今とこれから

東京福祉大学教授 家近早苗氏

後半は、チーム学校の一員としてのスクールカウンセラー(SC)の役割と課題について、東京福祉大学教授の家近早苗氏が中心となって説明した。SC が学校という子どもと同じ環境の中にいることで、相談室での面接以外でも子どもの行動を観察し、直接的に援助できることは大きな利点である。

家近氏は学校での心理支援において重視すべき点を3つ挙げた。1つ目は「環境の中に子どもがいることを忘れない」こと。子どもの課題について考える時、どうしても子ども自身に焦点をあてがちだが、子どもは環境との相互作用によって発達していくものであるため、環境も含めて見ていく必要がある。

2つ目は「子ども自身を育てる」こと。例えばゲームばかりしている子どもは、それによって吐き出せないストレスを解消していたり、友達とつながっていたりすることも考えられる。このように子どもが自らを支える力を自助資源と呼ぶが、ゲームをやめられない原因を共有し、そうした子どもの力や個性を見つけていくと同時に、子どもへの効果的な関わり方や声のかけ方などを把握し、それによって子どもの行動を変えていくことが重要だという。

3つ目は「環境を育てる」こと。子どもをとりまく環境には、学級・学校のみならず、子どもの援助者である教員や保護者も含まれる。それらは問題要因にもなるが、問題解決のための援助資源にもなりうる。SCには子どもが生活する環境を改善すると共に、教員や保護者を支えながら、子どもの力強い援助者になってくれるよう働きかけることが求められる。

また、SCに期待される学校への援助としては、会議でのコンサルテーションと管理職へのコンサルテーションの2つが挙げられる。

まず会議でのコンサルテーションで大事なのは、情報の流れを意識をして動くこと。子どもの支援の状況が関係者の間できちんと共有できていないと、あちらこちらでズレが生じ、それが次の問題を生み出すことにもなりかねない。その学校ではどの会議に入ると効果的かを見極め、前向きな議論となるように新しい情報や視点を提供して、皆が1つずつ具体的な支援を負担するように調整するところまでもっていかなければならない。

管理職へのコンサルテーションで求められるのは、具体的で分かりやすい目標設定の提案。アンケートや継続的な評価により、結果や学校の状態を見える化することも必要であるという。

 続いて石隈氏が、チーム学校においてSCに期待する点を4つ挙げた。1つ目は「児童生徒や環境(学級・学校)のアセスメント」で、個性の発見と、環境の安全・安心の程度を把握すること。2つ目は「児童生徒へのカウンセリング」。子どもの意思の代弁者・通訳者であることを忘れず、子どものよさや可能性が伸びるような援助、環境が活かせる援助をすることが必要となる。3つ目は「保護者の援助」。先述のように保護者への援助は重要であり、その延長としてSCが学校、家庭、地域の連携のコーディネーションに関わることも多いという。4つ目は「教職員へのコンサルテーションと環境づくり」。3段階の援助サービスを提供する校内連携の仕組みには、個別の子どもへの援助チーム、コーディネーション委員会、マネジメント委員会があるが、SCはそれらの会議に参加してコンサルテーションを行うと共に、すべての子どもが安心して過ごせる環境づくりをすることが求められる。

一方で、SCの雇用や勤務の形態には課題もある。非常勤職員であるSCの多くは週1回という時間的制約の中で働いており、2020年度から任期1年の会計年度任用職員制度に移行したことも議論を呼んでいる。石隈氏は「SCがより動きやすくなり、雇用する側も活用しやすくなるように知恵を絞っていきたい」と語った。

質疑応答

最後に質疑応答の時間が設けられ、参加者から続々と質問や相談が寄せられた。

学びの場.comは「教員・保護者を元気づけることや、子どもの思いの通訳について具体的なエピソードを紹介してほしい」と要望したところ、家近氏に自身の経験を紹介いただいた。友達を殴った子どもに「人を傷つけてはいけない」と諭した家近氏は、翌週、学級担任からその子どもが「また殴った」との報告を受けた。ところが詳しく話を聞くと、今回、殴ったのは友達ではなく壁であることがわかり、それは行動を1つ変えたと褒めるべきだと伝えたそうである。

記者の目

SCがより効果的にチーム学校に関わることが期待される中、本セミナーには心理職を中心にリアルタイムで150名、見逃し配信を入れると200名以上が集まった。質疑応答では対教員や対保護者、会議でのコンサルテーションへの関心の高さがうかがえる一方で、時間的制約や雇用の継続性についての不安の声も聞かれ、SCがその専門性を存分に発揮できる環境の整備についても考えていかなくてはならないと感じた。

関連情報

『スクールカウンセリングのこれから』
著:石隈 利紀、家近 早苗
発行:創元社
定価:1,760円(税込)
判型・ページ数:四六判・256ページ

取材・文・スクリーンショット:学びの場.com編集部

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