2023.06.12
  • twitter
  • facebook
  • はてなブックマーク
  • 印刷

意外と知らない"生徒指導"(第2回) 拡充された生徒指導提要

第1回では、生徒指導の定義や、社会と子どもたち、教師の変化を振り返りました。第2回では、『生徒指導提要(改訂版)』の内容を見てみましょう。改訂前の8章・237ページから、13章・298ページに増えました。学校が果たすべき役割の範囲が3Rs(読み書き計算。Reading,wRiting,aRithmetic)から3Cs(ケア、関心、結びつき。Care, Concern, Connection)へと拡大する中で、どのような項目が増えたのでしょうか。

章立て

改訂前は、「第6章 生徒指導の進め方 Ⅱ 個別の課題を抱える児童生徒への指導」の1節として扱われていた、いじめや不登校、児童虐待などがそれぞれ独立した章になり、内容が拡充されています。各課題について、①関連する法令や基本指針等、②学校の組織体制と計画、③関連する生徒指導の重層的支援構造、④関係機関等(保護者を含む)との連携体制の節が設けられ、ここからは学校だけでは対応しきれないということも示されています。

ケアが必要な児童生徒が増えている実態を踏まえ、どの教員も集団指導だけでなく、教育相談を受けて、個別対応したり、外部機関につなげたりできるようにすることが求められています。

改訂版の目次

第Ⅰ部 生徒指導の基本的な進め方
 第1章 生徒指導の基礎
 第2章 生徒指導と教育課程
 第3章 チーム学校による生徒指導体制

第Ⅱ部 個別の課題に対する生徒指導
 第4章 いじめ
 第5章 暴力行為
 第6章 少年非行
 第7章 児童虐待
 第8章 自殺
 第9章 中途退学
 第10章 不登校
 第11章 インターネット・携帯電話に関わる問題
 第12章 性に関する課題
 第13章 多様な背景を持つ児童生徒への生徒指導

生徒指導の4層構造(1.2)

従来の『生徒指導提要』(2010年)では、3層構造でしたが、今回、未然防止教育が明記され、対象となる児童生徒と課題性の高さから、4層構造になっています。

改訂前
対象 ねらい
1 成長を促す指導 全ての児童生徒 個性を伸ばすことや、自身の成長に対する意欲を高める。
2 予防的な指導 一部の児童生徒 深刻な問題に発展しないように、初期段階で諸課題を解決する。
3 課題解決的な指導 深刻な課題を抱えている特定の児童生徒 深刻な問題行動や悩みを抱え、なおかつその悩みに対するストレスに適切に対処できないような特別に支援を必要とする児童生徒の課題を解決する。
改訂後
対象 指導内容
1 発達支持的生徒指導 全ての児童生徒 自己理解力や自己効力感、コミュニケーション力、他者理解力、思いやり、共感性、人間関係形成力、協働性、目標達成力、課題解決力などを含む社会的資質・能力の育成や、自己の将来をデザインするキャリア教育の推進など。
国語の授業で他人を傷つけない言語表現を学習する。あるいは、ネットでの誹謗中傷的書き込みの他者への影響や法的理解を、特別の教科 道徳や特別活動で題材にして学習するなど、学習指導と関連づけて、意図的に教科、特別の教科 道徳、総合的な学習(探究)、特別活動の時間に溶け込ませて行う場合もある。
2 課題未然防止教育 全ての児童生徒 いじめ防止教育、SOSの出し方教育を含む自殺予防教育、薬物乱用防止教育、情報モラル教育、非行防止教室など。
生徒指導部を中心に、年間指導計画 に位置付けられて、実践される。
3 課題早期発見対応 課題の前兆行動がみられる一部の児童生徒 ある時期に成績が急落する、遅刻・早退・欠席が増える、身だしなみに変化が生じたりする児童生徒に対して、いじめや不登校、自殺などの深刻な事態に至らないように、早期に教育相談や家庭訪問などを行う。
4 困難課題対応的生徒指導 深刻な課題を抱えている特定の児童生徒 いじめ、不登校、少年非行、児童虐待など特別な指導・援助を必要とする特定の児童生徒を対象とする。学級・HR担任による個別の支援チームや学校単独では対応が困難な場合が多く、生徒指導主事や教育相談コーディネーター(教育相談担当主任等)を中心にした校内連携型支援チームと、校外の教育委員会、警察、病院、児童相談所、NPO等の関係機関と連携・協働したネットワーク型のチーム支援で対応する。

チーム学校による生徒指導体制(第3章)

チーム学校で生徒指導を行うことがさらに強調されました。学校がチームとして機能するためには、校長・副校長・教頭等をはじめとする管理職のリーダーシップの下で、学年主任や生徒指導主事、進路指導主事、保健主事、教育相談コーディネーター、特別支援コーディネーターなどのミドルリーダーによる横のつながり(校内連携体制)が形成され、さらに教職員とスクールカウンセラー、スクールソーシャルワーカーなどの専門スタッフ、家庭や地域のサポーターに対して下記の姿勢が必要と書かれています。

  1. 一人で抱え込まない
  2. どんなことでも問題を全体に投げかける
  3. 管理職を中心に、ミドルリーダーが機能するネットワークをつくる
  4. 同僚間での継続的な振り返り(リフレクション)を大切にする

校則の見直し(3.6.1)

校則についても、「児童生徒の実態にそぐわない厳しすぎる校則等には、児童生徒の成長・発達にマイナスに働くことがある」として、いつでも誰でも参照できるように学校のホームページ等に公開しておくことや、児童会・生徒会や保護者会などで校則について確認・議論する機会を設けるなど絶えず積極的に見直しを行っていくこと、校則を制定した背景や見直す手続きの過程も示すことが求められました。

静岡理工科大学の本多明生准教授らが2021年11~12月に行った調査では、静岡県内の公私立高校のうち、校則をホームページで公開していたのは3.3%だけだったそうです。多くの学校で公開されるようになれば、受験校選びの参考にされるようになるかもしれません。

校則の例
  • 通学に関するもの(登下校の時間、自転車・オートバイの使用等)
  • 校内生活に関するもの(授業時間、給食、環境美化、あいさつ等)
  • 服装、髪型に関するもの(制服や体操着の着用、パーマ・脱色、化粧等)
  • 所持品に関するもの(不要物、金銭等)
  • 欠席や早退等の手続き、欠席・欠課の扱い、考査に関するもの
  • 校外生活に関するもの(交通安全、校外での遊び、アルバイト等)
※改訂前の生徒指導提要P.205より転載

不適切な指導(3.6.2)

改訂前の「懲戒と体罰」の項目には、今回「不適切な指導」が加わりました。「不登校や自殺のきっかけになる場合もある」「たとえ身体的な侵害や、肉体的苦痛を与える行為でなくても、いたずらに注意や過度な叱責を繰り返すことは、児童生徒のストレスや不安感を高め、自信や意欲を喪失させるなど、児童生徒を精神的に追い詰めることにつながりかねません」と警告されています。

不適切な指導と考えられ得る例
  • 大声で怒鳴る、ものを叩く・投げる等の威圧的、感情的な言動で指導する。
  • 児童生徒の言い分を聞かず、事実確認が不十分なまま思い込みで指導する。
  • 組織的な対応を全く考慮せず、独断で指導する。
  • 殊更に児童生徒の面前で叱責するなど、児童生徒の尊厳やプライバシーを損なうような指導を行う。
  • 児童生徒が著しく不安感や圧迫感を感じる場所で指導する。
  • 他の児童生徒に連帯責任を負わせることで、本人に必要以上の負担感や罪悪感を与える指導を行う。
  • 指導後に教室に一人にする、一人で帰らせる、保護者に連絡しないなど、適切なフォローを行わない。
※生徒指導提要P.105より転載

児童虐待(第7章)

児童虐待とは、保護者による①身体的虐待、②性的虐待、③ネグレクト、④心理的虐待の4つの行為を指します。1990年に児童虐待相談対応件数が公表されるようになってから年々増え続け、2020年には20万件を超えました。2020年度には77人(心中よる28人を含む)が死亡しています。2007年度に比べると半減しましたが、児童相談所に連携すれば安心、一度安定しても終わりではなく、注視し続ける必要があります。

改訂版では、児童虐待防止法による通告義務に加えて、子供や保護者への啓発の努力義務(2020年4月施行の児童虐待防止法の改正により、罰則はないものの親権者等による体罰禁止が法定化されたことを周知するなど)にも言及されています。

2019年1月に千葉県野田市で発生した小学校4年生の虐待死事件を受けて、2週間登校していない19万人弱の児童生徒に学校等の教職員や教育委員会の職員等が面会に行くという「虐待が疑われるケースに係る学校・教育委員会等における緊急点検」が行われ、その後、文部科学省から「学校・教育委員会等向け虐待対応の手引き」も発行されました。

性的マイノリティ(12.4)

性的少数者の理解と対応の項目も設けられました。「性的マイノリティ」とであることを隠しておきたい児童生徒もいることを踏まえつつ、「教職員自身が理解を深めるとともに、心ない言動を慎むことはもちろん、見た目の裏に潜む可能性を想像できる人権感覚を身に付けていくことが求められ」ると明記され、支援事例も示されました。

性同一性障害に係る児童生徒に対する学校における支援の事例
項目 学校における支援の事例
服装 自認する性別の制服・衣服や、体操着の着用を認める。
髪型 標準より長い髪形を一定の範囲で認める(戸籍上男性)。
更衣室 保健室・多目的トイレ等の利用を認める。
トイレ 職員トイレ・多目的トイレの利用を認める。
呼称の工夫 校内文書(通知表を含む。)を児童生徒が希望する呼称で記す。
自認する性別として名簿上扱う。
授業 体育又は保健体育において別メニューを設定する。
水泳 上半身が隠れる水着の着用を認める(戸籍上男性)。
補習として別日に実施、又はレポート提出で代替する。
運動部の活動 自認する性別に係る活動への参加を認める。
修学旅行等 1人部屋の使用を認める。入浴時間をずらす。
※生徒指導提要P.266より転載

多様な背景を持つ児童生徒への生徒指導(第13章)

発達障害に加えて、精神疾患などの健康課題、支援を要する家庭状況の項目が加わりました。

精神疾患については、例えば、120人に1人が罹患する統合失調症は、治療の開始が遅れて重症化すると、長期間闘病に専念することになります。同世代がしている経験をせずに社会に出ることになり、回復後も本人の負担が大きくなるため、早期発見が求められます。

家庭状況については、経済的困難、ヤングケアラーや、外国籍・国際結婚家庭の児童生徒などの項目が設けられました。親が離婚した未成年の子の割合は、2000年に1割を超えて以来横ばいで、2021年の統計で18万人以上います。ひとり親家庭にあっては、その約半数が相対的貧困(厚生労働省が2018年に公表した1か月あたりの手取り収入の基準は、親1人子供1人の場合14.5万円未満、親1人子供2人の場合17万円未満)と呼ばれる状況に該当します。

自己選択・自己責任が強調され、淘汰圧のかかる社会で、学校も家庭も内部リソース不足に陥る中、多様な背景を持つ、一人一人の子供の可能性を最大限伸ばす教育が求められています。情報化が進み、学校も「閉じた空間」ではなくなってきました。ICT、データを活用することで、学校が児童生徒の心身の状態の変化に気付きやすくなり、関係機関、地域などと協力して、社会全体で子供たちを包括的に支援していくことが期待されています。

構成・文:内田洋行教育総合研究所 主任研究員 江本真理子

※当記事のすべてのコンテンツ(文・画像等)の無断使用を禁じます。

ご意見・ご要望、お待ちしています!

この記事に対する皆様のご意見、ご要望をお寄せください。今後の記事制作の参考にさせていただきます。(なお個別・個人的なご質問・ご相談等に関してはお受けいたしかねます。)

pagetop