2019.12.11
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将来役に立つ本物の英語を教える 4技能を伸ばす教え方・学び方 ~知識伝達型授業から活動型授業へ~

大学受験予備校の東進ハイスクール講師として現場に立ち、文部科学省の有識者会議の委員も務め、英語学習に関する著書も多数執筆されている安河内 哲也氏。高等学校学習指導要領に明記されている言語活動の要素「聞く、読む、話す、書く」をどのように授業で取り入れるべきか。安河内氏が実践する「活動型授業」の秘訣について、現場での最新の実例と実績も交えお話しいただいた。

セミナー講師:安河内 哲也(やすこうち・てつや)

1967年 福岡県北九州市生まれ、遠賀郡岡垣町育ち。上智大学外国語学部英語学科卒。東進ハイスクール・東進ビジネスクールのネットワーク、各種教育関連機関での講演活動を通じて実用英語教育の普及活動をしている。また、文部科学省の審議会において委員を務めた。言語活動型英語授業を促進するために、各所へのスピーキングテスト、4技能試験の導入にむけて活動中。話せる英語、使える英語を教えることを重視している。子供から大人まで、誰にでもわかるよう難しい用語を使わずに、英語を楽しく教えることで定評がある。予備校や中学・高校での講演の他、大学での特別講義や、大手メーカーや金融機関でのグローバル化研修、教育委員会主催の教員研修事業の講師も務めている。近著に『勉強法 The BEST ~プロが厳選! 最強ノウハウ100~』(あさ出版)など、著書多数。一般財団法人実用英語推進機構 代表理事。学校法人麹町学園女子 英語科特別顧問。福岡県遠賀郡岡垣町 英語教育アドバイザー ふるさと大使。

我々のやるべきことは「バランスのとれた将来にも役に立つ本物の英語を教える」こと

一般財団法人実用英語推進機構 代表理事 安河内 哲也 氏

まずは安河内氏の考える理想的な英語学習のロードマップをご紹介したい。従来の大学入試対策、2技能共通テスト対策、4技能検定試験対策など、「どの対策でいくか迷う方もいると思う」と前置きしたうえで、「我々のやるべきことはバランスのとれた将来にも役に立つ本物の英語を教える、ということに尽きる」と語った。同氏の描くロードマップの軸には4技能の習得がある。4技能を軸に学習をすれば、2技能共通テストの対策も4技能検定試験の対策もできるからだ。まず4技能英語コースと受験英語コースに分ける。基本的には4技能英語で勉強をし、高校入試や大学入試など、その試験特有の勉強に合わせないといけないときだけ、少し時間を割いて受験対策をして、また4技能に戻る。「最初から従来の受験英語に合わせてしまうと、バランスのよい英語を身につけることが難しくなってしまいます」と同氏は強調した。「どうしても日本人はテストに合わせた道に進んでしまいますが、あまり早い時期からテストに合わせすぎず、4技能を勉強するのがよいと思います。わたしもたくさんの受験生を指導しますが、高校3年生の夏まで4技能の活動をベースに教えます。高校3年生の夏が終わると、そこから4技能試験利用型入試と個別の1~3技能入試に分かれます。4技能試験の受験生はそのまま学習を進めます。そうでない受験生で和訳や難解な英文の練習などに対応しないといけない場合もありますので、3ヶ月から4ヶ月くらいは個別の勉強法に切り替えます。わたしの場合は、高校3年生の2学期から合わせにいく、という方法をとっていて結果も出ていますので問題無いのかなと思います。」と自身の経験と実践してきた成果について言及した。

大学入試共通テストの変更とその影響

大学入試センター試験では筆記200点、リスニング50点だったものが、リーディング100点、リスニング100点に変わる。「これは大きな変化ですよね。」と強調した。これまで出題されていた30問程度の知識系の出題はなくなり、冒頭からスキャニングが必要な問題に変わる。これは「勉強法を確立しないと点数が取りにくい試験に変わる」ということを意味している。今までと同じように文法や単語の知識を蓄えるだけの対策では点数がなかなか伸びない試験になってくる。「これは教える先生たちも責任重大だと思います。」と同氏は語気を強めた。共通テストの問題レベルはA1、A2、B1に分類されているが、リーディングの半分以上、リスニングの半分はB1レベル(英検2級程度)。基本的にはB1レベルのテスト、と考えて問題無いだろう。4技能検定に関しては大きな変更があった。これまでは、大学入試センターが4技能試験の受験を管理する、という方針だったところが延期となり、「当面はそれぞれの大学が独自に利用を決める」と変わった。しかしながら、いつまでも発表がないと受験生は困ってしまう。「12月13日ぐらいまでには大学から発表をするように文部科学省は要請していますよね。たぶん12月の中旬くらいにはほとんどの大学が発表することになり、そのあたりはまたハッキリしてくると思います。」と同氏なりの見解を述べ、会場の教員たちも安心した様子を見せた。

英語の勉強においてノートと鉛筆はもう古い

「これからはオーディオプレイヤーでしょ。オーディオを使って耳から学ぶ時代に入っている。そのためにICT機器を利用しなければならない。とにかく英語は目と手だけではなく、耳と口。そういう時代です。」と、同氏は英語学習の方法が時代とともに変わってきていることを指摘した。同氏は実績豊富な予備校講師、それもトップクラスの実績を持つカリスマ講師だ。「わたしは従来型の授業を自分自身何十年もやってきたんです。授業は全て日本語で、よくわからない構文をひたすら説明するような授業。特に高校3年生の夏期講習なんて、もうずっとわけのわからない説明を延々とやっていました。そうして、わたしは5年前にそういう授業を変えることに決めました。」と会場の教員に語りかけた。予備校で何年も受験英語を教えていた同氏からのこの言葉は衝撃だった。そして、この言葉のあとにひとつの動画を紹介した。その動画には、同氏が担当している難関大志望の受験生たちの授業が記録されていた。その様子は、とにかく喋る、喋る、喋る。聞いて、聞いて、書きまくる(あとでこれはディクテーションの練習だとわかった)。自習時間の様子は、口と手と耳と頭がすべて稼働している、その様子が伝わってくる。静かに英語の勉強をしている受験生はひとりもいない。「静かに英語を眺めていたって、できるようになるわけがないんです。エキサイトしてくると全員立ってスピーキングです。読解の授業のまとめもスピーキングです。ひとりで読んでいるとつまらなくなってきてしまうので、読解した内容をお互いに伝え合う、そこもスピーキングです。」と同氏が補足する。ときには、スピーチの練習も加え、人前で話す訓練をする。ペアワークも混ぜ、論理構成力の強化もスピーキングを軸に展開される。エッセイを書くことももちろんあるが、それをスピーキングで人に伝える練習で仕上げる。「わたしが言いたいことはひとつです。スピーキングの入っていない授業なんて楽しいですか?アウトプットがなくて、ひたすら構文をインプットするだけの授業なんて受けたいですか?楽しくないと続かない。だから活動型にもっていかなくちゃいけないんです。」と熱い想いを会場にいる教員たちに投げかけた。

英語は勉強する科目ではなく、練習する科目だ。

活動型授業の導入により英検2級取得者ゼロの状態から、取得率92%に。

安河内氏が顧問を務める麹町学園女子中学校・高等学校。この学校の2年半の取組で、驚異的な成果が出ているのでご紹介したい。ここまで英語学習における4技能化の本質的な価値や対策方法などについてふれてきた。では、4技能を伸ばすために授業が活動型になることで、実際の学習効果はどのように変わるのだろうか?同校の高大連携カリキュラム「東洋大学グローバルコース」1期生では、高校入学時の英検2級取得者はゼロだった。それが、活動型授業に切り替えて2年半経過の現時点で、英検2級取得率は93%、準2級は100%、準1級は3%だ(会場からは拍手が起こった)。「先生たち生徒たちが本当によくがんばってくれました。私は顧問なので、直接教えてはいないんです。活動型授業のシステムを考えているだけです。だから、予備校だからできるわけではないんです。学校でもできるんです。それを伝えたかった。」と同氏は語った。

まず話すこと、そうしながら文法と発音を学ぶ。

授業を活動型にするうえで、これまでの英語学習の方法について、安河内氏が感じてきた課題意識の共有があった。「文法を理解したり、単語を暗記したりするのは単なる準備。そこだけがんばっても英語は使えるようにはならない。英語学習における教師の役割は、英語について語ることではない、生徒に『英語を使わせること』だ。」とこれまでの経験をもとに会場の聴講者に語りかけた。同氏が掲げる哲学は、”Fluency first、accuracy second.”(まずは話す、精度は二の次)。日本の受験勉強における英語学習の問題点のひとつに、ひとつひとつの解答に精緻なレベルでの正確さを求められることを指摘した。「スペルから文法まで細かい点まで100点満点じゃないとダメ、と指導される。ちょっとでも違ったらダメな英語と烙印を押される。気づくと英語を話したり書いたりするのが怖くなる、これでは英語を使うのが怖くなってしまいます。」と警鐘を鳴らす。安河内氏は中学の授業では「通じる英語」がまず書ければ褒める。そのうえで、「ちょっとここが惜しかったね」と指摘する程度だと言う。そう語りながら「今から私自身がどのように英語を学習してきたのか、それをみなさんに実演します」と言い、スピーチが始まった。そうして話し始めた英語の単語レベルは小学生や中学生でも使える難易度で、誰もが聞いたことのある単語ばかりだ。発音も正確ではなく、砕けてはいるが何を言っているのかは聞き取れる程度。話しながら、少し文章になってくる、単語も増える、形容詞や時制の表現も少しずつ正確になる。気がつけば発音も正確だ。まずはコミュニケーションがとれるレベル、そこから少しずつ正確な表現になっていく。 "I think this is the only way that anybody can master English. Learn from your mistakes. " 「英語を学習する方法はこれしかない、それは間違いながら学ぶことです」 「そう思いませんか?」と会場に投げかけた。

会場全体が活動型授業の教室に大変身

セミナー後半は参加者が活動をする、ペアワークのオンパレード。安河内氏の魔法が炸裂した。会場では英語が飛び交う、会話、会話、会話。さきほどまで静まり返っていたセミナーホールが、参加者たちによる英語の会話で埋め尽くされた。全員が活動型授業を体験したあと、さいごに授業用のテクニックのまとめをして授業終了のチャイムが鳴った。セミナー受講前は「活動型授業」と聞いてもピンとこない方も多かったのではないだろうか。しかしながら、実際に体験してみるとわかる。頭で理解するのではなく、カラダで感じる授業、まさに今回のセミナーのタイトル通り「活動型授業」そのものだったといえる。

安河内氏から紹介のあった「活動型授業」の秘訣。ぜひ参考に!

■リーディング

  • 教科書を先生やネイティブの音をまねて何度も音読する。
  • 理解した英語の音声をオーディオプレイヤーで何度も聞く。
  • 簡単な英語にたくさん触れてみる。(多読)

■リスニング

  • リーディングと合わせていっぺんに勉強する。
  • リスニング問題を毎日解いてみる。
  • ドラマ、映画、洋楽を活用して楽しく学ぶ。

■ライティング

  • AI添削を使ってみる。
  • 日本語でも面白いことをいつも考える。
  • キーボードが打てるようになる。

■スピーキング

  • 授業での活動にどんどん参加する。音読を積極的にする。
  • 先生に英語で話しかけてみる
  • オンライン英会話などを活用してたくさんしゃべる

■英単語

  • リストだけでなく、文例を聞いたり音読したりしながら習得する。
  • 定期的に繰り返しながら定着させる。

■英文法

  • 実際に使うルールを優先して学ぶ。
  • 英文を音読暗唱しながら学ぶ。
  • 自分の言いたいことを、文法のルールを使って書いたり言ってみたりしてみる。

取材・文・写真:学びの場.com編集部

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