2017.12.20
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意外と知らない"外国につながる子ども"(vol.2) 日本語指導が必要なのは外国籍の児童生徒だけじゃない!

第1回では、「外国につながる子ども」とはどのような子どもを指すのか、また彼らの悩みについてエピソードでご紹介しました。第2回では日本語指導・支援に焦点をあてます。

まず、日本語指導を必要とする子どもについての統計データから、日本語指導を必要とする児童生徒が増加していることを紹介します。その後、公立学校ではどのような日本語指導や授業中の支援がなされているのかについて触れ、日本語の能力に応じて必要な指導が異なることを説明します。そして最後に、学校内にとどまらない支援体制の広がりについて考えていきます。

日本語指導を必要とする子どもの数はどれくらいいるか?

第1回記事で、「外国につながる子ども」とは、海外に自分自身のルーツがあり、多様な言語、文化、価値観、慣習などの中で育ってきた子どもを指す言葉だと紹介しました。彼らの中には、日本語能力が不足し、授業がわからないという困難を抱え、日本語指導を必要としている子どもがいます。日本語能力は、以下のようなこれまで育ってきた環境に影響を受けます。

  • 何歳の時に来日し、何年間日本で暮らしているか
  • 母語は何語か、その能力はどれくらい発達しているか
  • 来日前に、どのような教育をどのくらいの期間受けたか
  • 家庭では何語で会話しているか

日本語指導が必要な児童生徒が増加

平成28年度「日本語指導が必要な児童生徒の受入状況等に関する調査」によると、全国の公立学校に通う日本語指導が必要な児童生徒数は、平成28年度に43,947人(そのうち外国籍児童生徒34,335人、日本国籍児童生徒9,612人)であり、図1からその数が年々増加してきたことがわかります。外国籍の児童生徒に注目すると、外国籍児童生徒80,119人のうち、日本語指導を必要とする児童生徒34,335人は全体の約43%にあたります(図2)。日本で働く外国人や、国際結婚が今後増加していけば、国籍に限らず日本語指導を必要とする児童生徒の数はこれからも増えていくでしょう。

※文部科学省「日本語指導が必要な児童生徒の受入状況等に関する調査」(平成28年度)を基に作成 ※図1の「日本語指導が必要な児童生徒数」は、小学校、中学校、高等学校、義務教育学校、中等教育学校、特別支援学校に在籍する、外国籍児童生徒と、日本国籍児童生徒の合計値を算出

※文部科学省「日本語指導が必要な児童生徒の受入状況等に関する調査」(平成28年度)を基に作成 ※図1の「日本語指導が必要な児童生徒数」は、小学校、中学校、高等学校、義務教育学校、中等教育学校、特別支援学校に在籍する、外国籍児童生徒と、日本国籍児童生徒の合計値を算出

多言語にわたる児童生徒の母語

※文部科学省「日本語指導が必要な児童生徒の受入状況等に関する調査」(平成28年度)を基に作成

※文部科学省「日本語指導が必要な児童生徒の受入状況等に関する調査」(平成28年度)を基に作成

次に、日本語指導が必要な外国籍の児童生徒の母語について見ておきましょう。図3をみると、平成28年度に最も多いのはポルトガル語(26%)、それに続いて中国語(24%)、フィリピノ語(18%)となっています。その他にも、様々な母語をもつ児童生徒達が日本で学んでいることがグラフからわかります。ポルトガル語を母語とする児童生徒が多いのは、多くの日系ブラジル人が日本で暮らしているからだと考えられます。

日本語指導が必要な児童生徒が各地域に点在

最後に、日本語指導が必要な児童生徒は、各市町村にどれくらいの人数がいるのか見てみましょう。平成28年度に日本語指導が必要な外国籍児童生徒が在籍するのは、全市町村の5割弱にあたる825市町村です。図4を見ると、そのうち約47%にあたる387市町村で、日本語指導が必要な在籍生徒数は5人未満と答えています。また図5では、日本語指導が必要な日本国籍の児童生徒が在籍する654市町村のうち、半数以上(約53%)にあたる348の市町村が在籍生徒数5人未満と答えています。

ここから、日本語指導が必要な児童生徒が全国に散在していることがわかります。指導対象の子どもが少ないため指導にあたる教員が確保できないなど、必要な指導体制を整えることが難しい地域もあると考えられます。

※文部科学省「日本語指導が必要な児童生徒の受入状況等に関する調査」(平成28年度)を基に作成

※文部科学省「日本語指導が必要な児童生徒の受入状況等に関する調査」(平成28年度)を基に作成

日本語指導はどのように行われるか?

では次に、公立学校で行われている日本語指導について見ていきましょう。児童生徒の日本語能力などに応じて、表1のように大きく二つの指導方法があります。

表1 取り出し指導と入り込み指導

指導方法
時間/場所
内容
メリット
1.取り出し指導
在籍学級の通常授業中
/別室
  • 通常授業の教室以外の場所で、基礎的な日本語学習や教科学習を、日本語担当教員らが指導する
  • 対象児童生徒の日本語能力に応じた指導ができる
  • 所属学年より下の学年で習う内容を指導できる
  • 母語による児童生徒同士の教え合いができる
2.入り込み指導
在籍学級の通常授業中
/通常授業の行われている教室
  • クラスメイトと共に授業を受け、日本語担当教員や母語支援者らが対象児童生徒のそばに付き添い、以下のような支援をする
  1. 漢字の読み方の説明
  2. 日本語の意味の説明
  3. 授業の課題内容の説明
  • 通常授業の流れの中で、学習内容を理解することができる
  • 教科担当教員と日本語担当教員の連携が取れる
  • 母語で会話している様子を周囲のクラスメイトが目の当たりにすることで、対象児童生徒に配慮する空気が生まれる

在籍学級の通常授業に入れるまでは取り出し指導を中心に行い、基礎的な日本語や教科学習をする。取り出し指導が終了した後も、入り込み指導などで学習をサポートするというのが一つの流れとして考えられます。それぞれの児童生徒の事情に応じて必要な時間数や期間を検討すること、指導方法を組み合わせて、継続的に指導や支援することがポイントとなるでしょう。

図6 小学校低学年で、日本語が全くわからない状態で来日した場合の、小学校における取り出し指導の例

文部科学省の「日本語指導が必要な児童生徒を対象とした指導の在り方に関する検討会議(平成24年)」の資料を参考にして、日本語指導を必要とする児童への、取り出し指導の授業時間数と期間の一例を図6に示します。これはあくまでも例ですが、在籍学級の授業をすべて受けられるようになるまでには、一定期間、取り出しによるきめ細かな指導が必要だと考えられます。

さらに、取り出し指導や入り込み指導が必要ないと判断された後も、授業中の配慮等が必要だとされています。なぜなら、生活言語は1~2年で身につくのに対し、学習言語を習得するには5~7年かかると言われており、教科書や授業の内容が理解できるようになるまでには周囲のサポートと本人の頑張りが求められるからです。

通常授業における、授業担当者の支援にはどのようなものがあるか、京都市の中学2年生社会(歴史)の授業における事例を紹介します。この事例では、表2のように、入り込み指導もほとんど必要なくなった生徒が授業中に陥ってしまうつまずきを予測し、それに対する支援を行っています。

表2 予想されるつまずきと支援

対象生徒に予想されるつまずき
つまずきに対する支援
毎時間の学習課題に対する自分の考えを表しにくい 学習課題の理解・把握を支援
  • 電子黒板に資料を拡大提示し、キーワードが口頭説明と同時に表示されるようにした
  • 資料の文章にルビを振った
グループでの話合いで自分の考えを伝えにくい 意見を発表するための支援
  • 自分の考えをノート等に書き終わったら読む練習をするように指導した
  • 付箋紙やホワイトボードを活用した
1時間の学習でわかったことをまとめる際に、 自分の言葉でまとめることが難しい 考えの言語化を支援
  • 参考にするモデル文例を提示した

これらは学習言語を獲得していないために起こるつまずきへの支援ですが、学習につまずいている他の生徒に対しても有効な支援だと考えられます。授業での支援は、対象生徒の特別扱いではなく、誰にでも理解しやすい授業づくりにつながると言えるのではないでしょうか。

日本語指導担当者が配置され必要な指導が行きわたれば、児童生徒の日本語能力や学力が向上し、進路にも良い影響を及ぼすと考えられます。例えば、教育再生実行会議資料によると、愛知県豊橋市では、小・中学校において、加配教員を活用した別室指導等を継続して行ったことにより、外国籍生徒の高校等進学率が、約7割(平成20年度)から約9割(平成26年度)に増加しました。

しかし、先述の「日本語指導が必要な児童生徒の受入状況等に関する調査」によれば、日本語指導を必要とする児童生徒の約2割が、指導を受けられていません。その場合の理由として最も多いのが、「日本語指導を行う指導者(担当教員、日本語指導支援員等)がいないため(不足も含む)」(2491校が回答)でした。

また、不就学の子どもの存在も指摘されています。文部科学省が平成21年に29市で行った「外国人の子どもの就学・不就学状況等に関する調査」では、全体の約0.7%(84人)が不就学で、21.5%が転居・出国などにより連絡が取れなくなっていました。不就学の理由として最も多かったのは、「学校へ行くためのお金がないから」となっています。

「外国につながる子ども」の支援体制

最後に、外国につながる子どもを取り巻く環境について紹介します。図7のように、外国につながる子どもを支える人々は、学校と家庭だけではなく、教育委員会、地域などの中にもいます。

文科省(平成23年3月22日発行)『外国人児童生徒受入れの手引き』を参考に作成 ※日本語指導担当者には、専任の教員が配置されている場合、学級担任や他の教職員が兼任する場合、市町村などから派遣される支援員や指導協力者が引き受ける場合などがあります。

文科省(平成23年3月22日発行)『外国人児童生徒受入れの手引き』を参考に作成 ※日本語指導担当者には、専任の教員が配置されている場合、学級担任や他の教職員が兼任する場合、市町村などから派遣される支援員や指導協力者が引き受ける場合などがあります。

学校では、日本語学習や教科学習の指導、周囲の児童生徒との関係づくりのサポート、保護者への対応、進路指導など、やるべきことがたくさんあります。しかし教員の数は限られており、日本語教育や多文化教育を学ばずに教員になった人もいるため、対応に迷うことがあります。

例えば外国につながる子どもの名前をどう呼び、表記するのかということは、子どものアイデンティティに関わる大きな問題です。本人や親がどう呼んでほしいのかを聞き取り、名前を正しく表記しなければなりません。漢字の名前を日本語読みと母語読みのどちらで発音するか、アルファベットの名前をどのように発音すればよいのか、本名とは別に日本式の名前がある場合はどちらを使うのかなど、教員だけで判断せず、文化的背景や本人や親の意思を尊重した対応が求められます。

この他にも、学校の中だけではどうしても解決できないことや、手に入れられない情報があります。そのため、市町村・都道府県教育委員会は、以下のような学校をまたいだ取組によって学校や外国につながる子ども本人を支援しています。

  • 複数地域に住む外国につながる子どもに向けた、高校への進学説明会の開催
  • 外国につながる子どもの指導の関係者を集めた連絡協議会の開催
  • 日本語指導のための教員や母語通訳者・母語支援者の配置

また地域によっては、ボランティア団体やNPO法人などが、以下のような活動をしています。

  • 日本語教室の開催
  • 学校での日本語指導や教科指導のボランティア活動
  • 外国につながる子どもたちの交流会の開催

外国につながる子どものための日本語教室は、勉強するためだけではなく、学校以外に子どもの居場所をつくる役割もあります。同年代の子どもとの交流や、同じ出身地域の子どもと母語で思い切り話すことができるためです。日本語の語彙が少なく詰まりながら話す子どもは、学校での友人達のテンポの速い日本語の会話についていくことができません。自分の気持ちを教員にも友人にも言えずためこんでいる子どもにとって、じっくりと自分の話を聞いてくれるボランティアスタッフや、同じ境遇にある子どもの存在はとても大きいものでしょう。

このように、学校、行政、地域などにそれぞれの役割があります。様々な立場の人間が関わることで、外国につながる子どもの抱える悩みや課題に気づき、その解決に力を合わせていくことができます。また、関わる人間の多さは、時に存在さえも見落とされてしまう彼らの悩みや、彼らならではの魅力を外部に発信する力になるのではないでしょうか。

おわりに

今回は、外国につながる子どもの支援の広がりについて紹介してきました。学校が指導・支援の場となることは間違いありませんが、周囲の子どもや保護者との温かな関わりや、地域の理解や支援も欠かすことができません。私たち一人一人にできることは、まず学校や行政からの発信に目を向ける、新聞やテレビ番組の特集に注目するなど、現在の状況や取組を知ることではないでしょうか。そしてそれは、実際に外国につながる子どもやその保護者と出会った時でも同様です。普段の生活や日頃の思いについて知り、その社会的、文化的背景に思いを馳せることから、お互いの理解が深まっていくのだと思います。

構成・文:内田洋行教育総合研究所 研究員 伊藤志帆

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