2016.07.27
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JSL児童が学ぶ日本語学級の授業(vol.1) 日本語指導に込められた工夫と願いとは? ―豊島区立池袋小学校― 前編

日本語を母語としない子どもの数が増え続けている。文部科学省の調査によると、この10年間でその数は1.6倍に増え、約3万7000人にものぼる。日本語指導が必要な児童生徒が在籍している学校は、全体の2割に達する。今後もその数は増え続けるだろう。そこで、日本語能力が十分でない子ども達に、学校教育はどう対応すべきか。どんな教育を行えばいいのか。今回は、その一例をリポートする。

授業を拝見!

言語教育の視点と、一人ひとりに合わせた指導法を駆使した授業

学年・教科:日本語学級 国語4年(児童2人)
単元:『一つの花』(全6時間中第1時間目)
ねらい:あらすじを読み取り、書く
授業者:逢坂隆 教諭
使用教材・教具:国語教科書のリライト教材、自作のデジタル教材(画像、動画)、大型テレビ、ワークシート

大都会・池袋に立つ豊島区立池袋小学校

新宿や渋谷と並ぶ、東京の大繁華街・池袋。その中心街から少し離れた所に、豊島区立池袋小学校はある。日本語を母語としない児童の数は多く、全校児童264人のうち、実に約3割を占めているとか。その日本語レベルも様々で、日本語がまだわからない子もいれば、日常会話に支障はないが日本語で授業を受けるのはまだ厳しいという子もいるそうだ。

そんな子ども達を対象に、池袋小では「日本語学級」を開き、少人数指導を行っている。一日中ずっと日本語学級で学ぶのではなく、基本的には国語の時間に、校内通級指導を受けるという。

まずは、その日本語学級での授業の様子をお伝えしたいが、筆者はJSL(Japanese as a second language:第2言語としての日本語)児童を対象とした日本語の授業を見学するのは、実は初めて。一体、どんな授業が行われるのか。中国語と日本語の両方が飛び交い、通訳がT2として入るような、見たことのないような授業が繰り広げられているのだろうか……?

外国語活動に似ている?

動詞カードで学習。教師が「これは、電話を……?」と助け舟を出しながら児童に尋ねる

動詞カードで学習。教師が「これは、電話を……?」と助け舟を出しながら児童に尋ねる

「日本語教室(4)」とプレートが掲げられたドアをくぐると、4人の児童が「動きを表す言葉」を学習していた。黒板には、「サッカーボールを蹴る子ども」「洗濯しているお母さん」など、様々な動作の様子を表したイラストカードが貼られている。そのカードを指さしながら、教師が
「これは何をしている所?」
 と“日本語で”尋ねると、子ども達は
「サッカーしている」
「じゃんけん」
 と、“日本語”でハキハキと答えていった。

教師「これは何をしている? 電話を……?」
児童「かける」
教師「そうだね。じゃこれは? バスから……?」
児童「降りる」
 という風に、教師が助け舟を出して、子ども達から上手に日本語を引き出していくのが印象的だった。
教師が読み上げた状況の絵カードを素早く探す

教師が読み上げた状況の絵カードを素早く探す

続いて、シチュエーションカードを使ったカルタゲームが行われた。「テレビを見ている子ども」「お月見をしている家族」など、様々なイラストが描かれたカードを机の上に並べ、教師が
「冷蔵庫の中にケーキが二つあります」
 などと読み上げると、該当するカードを素早く探して取るのだ。

ワイワイと楽しそうにカードを取り合う子ども達を見ながら、(予想していた授業とはかなり違う……)と、私は内心驚いていた。通訳などいないし、中国語等の母語も一切使われない。そう、この授業の内容、使う教材、そして子ども達の表情は、何かの授業に似ている……。そこで私は、傍らでにこやかに授業を眺めていた北條覚校長に、こう尋ねてみた。
「外国語活動の授業に似ていますよね?」
 すると北條校長は軽くうなずきながら、
「この子達は日本語が苦手な初期指導の段階ですので、そういう印象を持たれたのかもしれませんね。でも他の教室は違いますよ」
 と、次の日本語学級へ誘ってくれた。

別の教室の扉をくぐると、さっきとは異なる授業風景が目に飛び込んできた。
教科書やドリルは通常学級と同じものを使う

教科書やドリルは通常学級と同じものを使う

教師も児童も、教科書を開いて学習していたのだ。JSL児童用の、特別な教科書ではない。ごく普通の、光村図書出版の4年生用国語の教科書である。ちなみに、この児童は4年生。日本語が苦手だから低学年用の教科書を使うのかと思いきや、自分が所属する学年の教科書で学んでいるのだ。

そして教科書に載っている「いろいろな意味の言葉」を、皆で音読していた。わずかにたどたどしい所もあるが、上手なものである。さらに漢字ドリルを使って漢字の練習も行っていた。このドリルも見慣れた市販教材だった。

通常の国語の授業で使う教材と全く同じであり、「外国語活動に似ているかも?」という先程の印象は消し飛んだ。

しかし、なぜ通常の授業と同じ教材を使うのだろうか。すると北條校長は
「同じなのは教材だけじゃないですよ」
 と微笑み、次の教室へと案内してくれた。

同じ教科書、同じ単元を、同じように学ぶ

一見、普通の国語授業

一見、普通の国語授業

最後に案内された教室では、日本語学級担任の逢坂隆教諭が、教壇に立ち、2名の児童を指導していた。その様子を見て、私はまたもや驚愕した。もはやどう見ても、普通の国語の授業にしか見えなかったのだ。

■教材も同じ――4年生国語の教科書とワークシートを使う
■単元も同じ――『一つの花』を学習
■授業の流れや展開も同じ――教科書を音読し、各場面のあらすじをまとめる
■授業スタイルも同じ――少人数ではあるが、教師が授業を進めていく一斉指導方式

しかし、よくよく授業を観察してみると、わかりやすく教えるための工夫が随所に凝らされているのがわかってきた。例えば、本文に出てくる難しい言葉は、ICTを使って画像や動画を見せて、わかりやすく解説していた。

「プラットフォームのはしっこ」という表現を解説する際には、
「プラットフォームってわかる? 池袋駅にもあるよね」
 と問い掛けながら、駅のプラットフォームの画像を大型テレビに表示。そして、
「『はしっこ』とは、この辺りのことだよ」
 と指し示していた。また、「ミシン」の解説では、昔の足踏みミシンの動画を見せて、
「今のミシンと違うでしょ? どこが違う?」
 と発問していた。

難しい言葉は映像を見せながら説明

難しい言葉は映像を見せながら説明

「映像を見ながら説明を聞くと、子どもは言葉の意味をイメージしやすい。目と耳の両方を使って、覚えられるのです」
 と、逢坂教諭は言う。

また、各場面のあらすじを読解させる際には、
「駅に行く途中に、何か起きましたか?」
 と細かく発問して、子どもの意見を引き出していた。

逢坂教諭の授業を見て、私は思った。
「これは、授業のユニバーサルデザインではないか?」
 逢坂教諭の指導は、外国人児童だけでなく、誰にとってもわかりやすいと感じたからだ。

授業のユニバーサルデザイン化を突き詰めれば、JSL児童にもわかりやすい学びを実現できる、ということなのだろうか。

普通の授業とは実は違う! 数々の工夫を凝らしている

授業見学を終えて、私の胸には数々の疑問が渦巻いていた。その疑問を、先生方に率直にぶつけてみた。

――なぜ通常学級と同じ教材を使い、同じ単元を学習するのでしょうか?

北條校長(以下、 北條) 日本語学級は、日本語スクールではありません。日本の公立学校で、学校生活を送るための日本語力を身につける。級友達と一緒に、日本語で授業を受 けられるようになる。それが、日本語学級の使命であり、目的なのです。だから通常学級と同じ教材を使い、同じ単元を学んでいるのです。

例えば、日本語学級でJSL児童が『一つの花』を学んでいる同時刻、その子の在籍学級でも、『一つの花』を勉強しています。通常学級の授業内容を、少人数で、より丁寧に、日本語学級で指導しているのです。

そして日本語がある程度上達してきたら、国語の授業を皆と一緒に受けます。その場合は、道徳や学活、図書など国語以外の時間で、日本語学習を行い、さらなる上達を目指します。

――なるほど。日本語学級の目的は、そこにあるのですね。しかし、通常授業と同じ教材、同じ授業で、JSL児童は理解できるのでしょうか?

東京都豊島区立池袋小学校 日本語学級担任 逢坂隆 教諭

東京都豊島区立池袋小学校 日本語学級担任 逢坂隆 教諭

逢坂教諭(以下、 逢坂) 今日の私の授業を見て、「普通の国語の授業と同じ」と思われたようですが……国語を専門とする教師が見たら、「あれ?」と違和感を覚えたはずで す。一見同じに見えても、実は、授業の展開や指導方法に違いがあるのです。例えば、今日使った教材文『一つの花』も、元の文章をリライトして約8割に減ら したものにしています。

――そうなのですか!? 気づきませんでした……。

逢坂 この授業の 目的は、『一つの花』という作品を鑑賞することではなく、『一つの花』という作品を“通して”、読み取り方やあらすじのまとめ方を勉強することにありま す。だから、作品の文量を減らしてもいい。元のままでは文章量が多すぎて、この子達には負担が大きすぎるのです。

――他にはどんな差異があったのでしょう?

逢坂 細かい指導 方法も、実は違います。例えば、今日の授業では、各場面のあらすじをワークシートに書かせる前に、自分の考えを話させました。JSL児童にとっては、「書 く」よりも「話す」方が、意見を自由に出しやすく楽なのです。級友の意見を聞き、それを参考にして、発想を広げやすくします。いきなり「あらすじを書きな さい」では、JSL児童にとって負荷が高い。だから「書く」前に、「話す」活動を入れたのです。

また今日の授業では、まず、通しで音読して、おおまか なあらすじを押さえてから、場面ごとの細かい読解に入りました。これは「トップダウン」の読みです。一方、通常学級では、「ボトムアップ」の読みが主流。 最初から各場面を細かく読解して、最終的にあらすじ全体をつかむやり方ですが、JSL児童にはトップダウンの読みの方がわかりやすいのです。

言語能力は、「聞く→話す→読む→書く」の順序で伸びていくと言われています。日本語学級の授業は、国語の教材を使って、言語教育の視点、つまりこの4技能をつけさせるという目的で教えているのです。

――今、言語教育という言葉が出てきて驚いているのですが、逢坂先生は国語がご専門なのですよね?

逢坂 元々は国語 が専門なのですが、念願叶って赴任したチリの日本人学校で挫折を経験しまして(笑)。私のいた日本人学校に、日本語を全く話せない子が転入してきたので す。当時の私は国語の専門家としての自信があったので、「よし! 私の指導で日本語を話せるようにしてやるぞ!」と意気込んだのですが……全然ダメでし た。自分の指導に何が足りないのか、悩みました。意気消沈して帰国した私でしたが、たまたま参加したセミナーで言語教育の存在を知り、「これだ!」とひら めいたのです。それからは大学院に通い、言語教育の研究と実践を重ねました。その言語教育のノウハウを、この日本語学級でも活かしているのです。

――先程おっしゃった「トップダウンの読み」も、その一例なのですね。他にはどんな指導方法を?

逢坂 「パラレルリーディング」があります。これは教師の音読を追いかけながら子どもが音読する方法で、教師の言葉を耳から入れるのと、口で言葉を発するのとを同時に行います。これは語学教育でも有名な方法で、発音や抑揚がネイティブに近づくことがわかっています。

それだけでなく、感情のこもった音読の練習にもなります。例えば、「悲しい場面を音読する」お手本を教師が読んで示してあげる。すると、子どもはそれを聞き、抑揚や声のトーンを真似しながら音読する。これを繰り返すと、読み方がどんどん豊かになっていきます。

――なるほど。細かい指導にも工夫があるのですね。

逢坂 授業時間も変えています。この『一つの花』は、通常学級なら10時間かけますが、日本語学級では6時間程度で終わらせます。そして、浮いた4時間を児童が苦手な学習内容を克服する時間に当てるのです。

ですので、単元のめあても、通常学級と全く同じ時もあれば、変える時もあります。例えば、通常学級では単元のめあてが四つある場合、日本語学級では二つに絞って、より丁寧に指導する。「指導の重点化」を行います。

北條 しかし、何と言っても一番心掛けているのは、一人ひとりに合わせた指導です。これが普通の授業と一番違う点でしょう。例えば、今日は日本語学級の授業をいくつも見てもらいましたが、それぞれ何年生の授業か、おわかりになりましたか?

――最初に見た動詞カードやカルタで学習していた子ども達は……3年生ぐらいですか?

北條 いえ、すべて4年生です。同じ4年生でも、あれだけ授業内容が違うのです。本校の日本語学級担任は4人いますが、JSL児童の日本語能力や課題に合わせてグループ分けして、一人ひとりに合った指導をしているのです。

日本語学級に通う頻度も、子ども一人ひとり違います。週4回通う子もいれば、週1回だけの子もいます。子どもの成長を見ながら、その子に合った指導を考えています。

――そうだったのですね……。まさに一人ひとりに合わせた、オーダーメイドの指導という感じでしょうか。

逢坂 授業の「難易度」設定には、特に気を配っています。誰にとっても、「難しすぎず、簡単すぎず」を心がけています。その子達の能力よりも少し上の難易度、というさじ加減にしています。

また、少人数指導とはいえ、その少人数の中でも日本語 能力は様々です。3人グループに指導するなら、ちょうど真ん中のレベルの子に合わせて授業を設計する。しかし、それだけでは、一番上のレベルの子には簡単 過ぎてつまらないので、その子には難易度の高い発問を授業中に投げ掛けるようにして、個別に難易度を調整します。

――なるほど! こういった様々な工夫が凝らされているからこそ、同じ教材・同じ単元を使っても、JSL児童はしっかり学べ、「日本語で授業を受けられる力」を身につけていくのですね。

ここまで話を聞いて、数々の工夫が凝らされた一人ひとりに合った指導のすごさに、ある種の感動を覚えた。日本のすべての学校のすべての学級で、こういう教育が行われればどんなに素晴らしいだろうと夢想した。

その一方で、(池袋小の先生方は大変だろうな……)と、心配になったのも事実だ。JSL児童を対象に、一人ひとりに合った授業計画や指導方法を作る時間や手間や困難を考えると、気が遠くなりそうになる。

しかし、北條校長はこう言う。
「本校に日本語学級があって、本当に良かったと喜んでいます。日本人の子どもにとっても、教師にとっても、良いことがたくさんあります」
 後編では、その「良いこと」に迫る。

記者の目

取材にのぞむ前、私は「日本語学級」のイメージを完全に誤解していた。来日して間もない、日本語が不自由な子ども達を対象に、「語学寄り」の授業が行われると想像していたのだ。だが、実際に授業を見て、先生方の話を聞いて、それが誤りだとよくわかった。公立学校の中に開設されている学級である以上、「日本語で授業を受けられる力を身につける」ことを目的にするのは、至極当然のことだと理解できた。
 そして特筆しておきたいのは、日本語学級で学ぶJSL児童達の姿だ。どの学級でも、皆熱心に、一生懸命に取り組んでいる姿が、とても印象に残った。幼い身で異国の地に来て、全く知らない外国語で授業を受ける不安や困難は、私の想像以上だろう。でも子ども達は皆、イキイキと学習に励んでいた。一人ひとりに合った指導、わかりやすい指導が効いていると、実感した。

取材・文:長井 寛/写真:言美 歩

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