意外と知らない"外国につながる子ども"(vol.1) 日本語指導が必要なのは外国籍の児童生徒だけじゃない!
皆さんのお住まいの地域には、外国から来た家族が住んでいるでしょうか。外国にルーツを持つ子どもは日本の公立学校でどのように教育を受けているのか、2回にわたって紹介します。第1回では、「外国につながる子ども」の抱える典型的な悩みやその背景について詳しく見ていきます。
「外国につながる子ども」とは
「外国につながる子ども」という表現は聞き慣れないという方や、「なぜ外国人/外国籍の子ども」と言わないのか、と不思議に思われる方もいるのではないでしょうか。
日本以外の社会で生まれ育った子どもが日本で暮らす時、言語や文化の違いから様々な困難に直面するということは、イメージしやすいでしょう。では、親の国際結婚により日本国籍を持つ子どもや、外国籍だけれども日本での生活が長い子どものように、海外か日本かという二択で捉えきれない子どもの場合はどうでしょうか。このような子ども達も多様な文化的・社会的背景の中で育っているため、日本での生活に戸惑いや困難を抱えているはずです。しかし、「日本人だから」「日本で育っているから」という理由で、周囲がその悩みに気づいたり理解したりできていないことが多いのです。
そこで、国籍に関わらず、海外に自分自身のルーツがあり、多様な言語、文化、価値観、慣習などの中で育ってきた子どもを指す言葉として「外国につながる子ども」、あるいは「外国にルーツを持つ子ども」があります。例えばこんなケースが考えられます。
子どもの場合は自分の意思で住む場所や来日時期を決められるわけではなく、親の都合に左右されてしまうところが大きなポイントです。家庭内で使う言語や、どの程度母語や日本語が話せるのかも、家庭の事情や来日前の教育環境によって大きく異なります。一人ひとりの多様な背景に目を向けることが、「外国につながる子ども」を知る第一歩になるでしょう。
すべての子どもが持つ「教育を受ける権利」
さて、日本に暮らすすべての子どもは、国籍や、出身国や、何語を母語とするかということに関わらず、「教育を受ける権利」を平等に持っています。そして日本も批准している「児童の権利に関する条約(子どもの権利条約)」第28条では、この権利を保障するために適当な措置を取ることが求められています。
言語・文化・価値観などが日本と異なる環境で育った子どもは、そうではない子ども以上に、学校生活で多くの困り事を経験するでしょう。彼らがその困難を乗り越え成長し、自分がどのように生きていくのか主体的に決定できるようになるためには、日本社会でのサポートが必要です。この記事の第2回では、特に日本の公立学校での日本語支援について見ていきます。
悩みをイメージしてみましょう
日本の公立学校で学ぶ「外国につながる子ども」達の持つ悩みや、学校の先生が感じる課題についてイメージしていただくため、いくつかのエピソードを見ていきましょう。
日本では当たり前でも…
【Case 1】1か月前に来日した外国籍のAさんの場合
何度も始業時間に遅刻して登校してきてしまう。ある時には、校外活動の集合時間にまで遅れてきてしまった。注意しても、いまひとつ怒られている理由がわからないようだ……。
【解説】社会による文化の違いは「時間」に対する考え方にも表れます。日本では時間厳守が当たり前とされていますが、集合時間には遅れるのが当たり前という文化もあります。そのような文化的背景を持つ生徒であれば、日本の慣習に慣れるのに時間がかかってしまうかもしれません。
【Case 2】半年前に来日した日本国籍のBさんの場合
週末に開催される運動会を、体調不良でもないのに欠席してしまった。いつも真面目に授業を受けていて遅刻も少ないのに、なぜだろう……?
【解説】「週末は家族揃って自宅でくつろぐ」という慣習がある社会で育った児童生徒は、学校行事を休み、家族の時間を優先するかもしれません。また、厚い信仰心を持つ外国籍の親であれば「日曜日は教会に行く」等の理由で学校行事や部活動への欠席を促すことも考えられます。
上記2ケースのような場合、本人やその保護者からよく話を聞くと、疑問や違和感が解決できるかもしれません。日本語での会話が難しいようであれば、通訳を活用する手もあるでしょう。
学習言語は難しい
【解説】日常的な会話で使う「生活言語」よりも、学習場面で使う「学習言語」の方が高度な語彙や概念を含んでいます。例えば、「百分率」「絶対数」など、日常生活ではあまり使わない概念や語彙、「yをxの式で表しなさい」のように「てにをは」の表現など、学習で使う言語は理解が難しいものが多いのです。
授業についていけないことやテストの成績が良くないことについて、個人の努力や能力以外の、言語的な要因があります。生活言語は1~2年で身につくのに対し、学習言語の習得には少なくとも5~7年かかると言われています。日本語能力を把握するために開発された評価法を活用し、指導方針を検討することも重要になります。
文部科学省が作成した「外国人児童生徒のためのJSL(Japanese as a second language・第二言語としての日本語)対話型アセスメント:Dialogic Language Assessment (DLA)」は、日常会話はできるけれど、教科学習に困難を感じている児童生徒を対象とした評価法です。対象となる児童生徒の言語能力を把握し、教科学習指導方法を検討することを目的としています。対話を中心とした評価法で、「読む」「書く」「話す」「聴く」の4つの力を測るように構成されています。
例えば、DLA<話す>では、図1のような実践ガイドの流れに沿って、図2のような絵のカードを提示しながら実施し、図3のような「診断シート」を使用して採点・評価します。東京外国語大学の多言語・多文化教育研究センターでは、DLAの使い方を説明する映像マニュアルや、DLA<聴く>の実施に必要な映像を公開しています。
高校進学の悩み
【Case 4】外国籍の母親と2人暮らしのDさんの場合
高校進学を目指して頑張って勉強している。しかし、外国出身でシングルマザーの母親はあまり受験の制度を理解しておらず、仕事が忙しいため家族の会話も少ない。進路についての悩みを家族に相談できず、困っているようだ……。
【解説】外国人の保護者にとって、高校入試制度を理解するのは難しいことです。生徒に通訳を頼もうとしても、日本の日常生活で使う頻度が少ない母語は忘れていってしまいます。母語を話す親と深い会話ができず、家族のコミュニケーションが成り立たなくなってしまうこともあります。
進路についての三者面談等では通訳や日本語指導担当教員も同席し、正確な情報を伝えることが大切です。また、日本語指導とともに母語への支援ができれば、家族間での会話を可能にすることはもちろん、生徒の将来の選択肢を広げることができるかもしれません。
さらに詳しく知りたい方には、公益財団法人かながわ国際交流財団が2014年に発行したガイドブック『あるあるマンガでよむ 外国につながる生徒の高校進学サポートガイド こまったときの10のヒント』をおすすめします。先生方の身近な疑問や悩みをマンガにし、課題の背景や関わり方のヒントが書かれており、参考になります。
第1回は、「外国につながる子ども」について、具体的なエピソードから彼らの抱える課題やその背景について紹介しました。第2回では、日本語指導・支援を必要とする子どもについて、「日本語指導が必要な児童生徒の受入状況等に関する調査」結果などを用いながら紹介します。
参考資料
- 日本ユニセフ協会「子どもの権利条約 全文」
- 文部科学省「外国人児童生徒のためのJSL対話型アセスメントDLA」
- 東京外国語大学多言語・多文化教育研究センター「DLA<聴く>の聴解用映像」、「『DLA』≪使い方映像マニュアル≫」
- 公益財団法人かながわ国際交流財団
- 「外国につながる子どもたちの物語」編集委員会 編、みなみななみ まんが『まんが クラスメイトは外国人 多文化共生20の物語』明石書店、2009年
構成・文:内田洋行教育総合研究所 研究員 伊藤志帆
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