2013.01.29
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高校生が考える スマートフォンの「これまで」と「これから」 「高校生熟議2012サミット」密着レポート

高校生が携帯電話やインターネットなどの問題について考え、協議し、発表する場として、2011年度より開催されている「高校生熟議」(主催・共催:大阪私学教育情報化研究会、安心ネットづくり促進協議会、一般社団法人モバイルコンテンツ審査・運用監視機構)。2012年度は東京・大阪の2拠点で熟議が行われ、12月15日、その集大成となる「高校生熟議2012サミット~高校生が考えるスマートフォン時代の情報モラルと利活用~」が内田洋行の東京 ユビキタス協創広場 CANVASにて開催された。高校生が考えるスマートフォン利用における課題や解決策、次世代に向けた提言とは? 白熱したサミットの模様をレポートする。

第一部 熟議

スマートフォン時代の情報モラルと利活用とは?

スマートフォンをめぐる課題と問題を再確認

今回、熟議のテーブルについたのは、2012年度の高校生熟議に参加した17 校 79 人を代表する6名。教育関係者や通信事業者など大勢のギャラリーが見つめる中、ファシリテーターを務める米田謙三教諭(羽衣学園高等学校)の進行により、熟議がスタートした。熟議は、話し合うテーマごとに色の異なる付せん紙に高校生たちが意見を書き出し、協議しながら内容別に分類して模造紙に貼り付ける、という流れで行われた。
第一部の冒頭で高校生たちが行ったのは、これまでの東京・大阪での熟議を振り返り、スマートフォンに関する課題や問題点をとりまとめること。大きな模造紙に、みんなで意見を分類していく。「リアルでのコミュニケーションが低下する」「依存度が高い」などの問題を取り上げた生徒も多かったが、「個人情報が漏れる」という点については、全員がこの場で改めて認識した。「個人情報を抜き取るような不正なアプリを見分けるには、利用規約をよく見ればいいというけれど、文章が長すぎて読まない人も多いと思う。もう少し簡潔にまとめたものがあればいいのに」「スマホは小さなパソコンだと言われながら、パソコン並みのウイルス対策をしている人ってそんなにいないと思う」「そういう意識の低さは、友だち同士の会話からもわかる。『このセキュリティ対策アプリいいよ』って話は出ないから」など活発な意見交換が交わされた。これに応えて、情報モラルに携わる団体の参加者が不正アプリの簡単な見分け方を高校生たちに教示するなど、ギャラリーの大人も加わって会場全体が熟議の場と化す場面もあった。

事業者に求めるのは「技術の進歩」と「幅広い情報提供」

「目が疲れにくい画面にしてほしい」「セキュリティアプリをあらかじめ本体に入れておいてほしい」……次に話し合われたのは、通信事業者や保護者など、大人への提言。最初にまとめた課題や問題点をもとに、改善策や要望がまとめられた。上記のようなスマートフォンのハード・ソフトの改善を求める意見のほか、「スマホに詳しくない親が多いので、購入の際は保護者にも説明してほしい」「良い面ばかりでなく悪い面も伝えてほしい」など、もっと必要な情報がほしいという声もあがった。また、近年注目されているスマートフォンと連動した家電を例に挙げ、「リアルの世界でスマホを使ってできることがもっと増えて、より生活に密着したものになれば時間を有効に使えるから、スマホへの依存が問題にならなくなるのでは?」という高校生ならではのユニークな意見も飛び出し、サミットに参加した事業者の関心を集めていた。

情報モラルに関する常識、行政の力を借りて広めるとしたら?

続いて協議されたのは、行政や教育関係者への提言。「情報モラルに関する常識を広く定着させるにはどうすればいいか」という点に意見が集中した。「常識というのはモヤモヤした曖昧なものだから、最低限のモラルを文章にまとめるなどして、具体化すればいいと思う」「やってはいけないことを細かく法律で禁止すれば、常識として認識されていくのでは?」など、法の整備まで視野に入れた解決案が提示された。ここで議論を呼んだのは、「国が管理サイトを設けて、そこにログインしないと、どのサイトにもアクセスできないようにすればいい。そうしてユーザー一人ひとりの行動を監視すれば問題もなくなると思う」という意見。提案者のスタンスは「やましいことをしていなければ問題ない」というものだが、メンバーからは「プライバシーの問題があるのでは?」と危惧する声が挙っていた。

次世代のために、自分たち高校生にできること

「スマホ時代に自分たちがやっていけることは何か」———第一部の最後には、高校生による次世代のための主張が協議された。彼らにとっても重要な問題であるスマートフォンへの依存の改善策としては、「基準を設けたり、法律で制限したりするように国に呼びかける」という提案や、「病院で(依存症の)診断を受けることもありうる」と考えることで自らの危機意識を高めるという意見、「使用時間を記録したり、使用明細に記載されているパケット料金をチェックしたりする」といった自己規制の方法など、さまざまな意見が飛び交った。また、情報モラルを次世代に植え付けていくためには、先生より身近な存在である「自分たち高校生が小中学生に情報モラルについて呼びかける」ことで、より理解を深めてもらえるのではないか、という次世代を思いやる意見も見られた。

第二部 提言発表

これからのスマホの時代をつくるのは、ユーザー・企業・行政の連携

「依存」に集約されるスマートフォンの問題点

高校生たちが壇上に上がり、第一部終了後に自分たちがPCで作成したプレゼンテーションをモニターに移しながら、熟議による提言が発表された。

最初に提示されたのは、スマートフォンをめぐる問題のすべてが「依存」に端を発しているという認識。例えば、「バッテリーが持たない」「不正アプリの取得で個人情報が流出する」「リアルでのコミュニケーションがおろそかになる」「情報が多すぎて疲れる」などは、スマートフォンを過度に使用した結果によるものであり、さらには、自分たちの知識不足も大きく関わっているということが示された。

これを改善するために、高校生たちは、時間制限を設ける、連続使用しないなどの方法で「スマホの利用を自粛する」ことを考案。個々の意識づけで対処できるとした。

高校生に必要なのは「スマートフォンについて考える時間」

高校生が自分たちだけで改善できないことについては、通信事業者や行政への要望として出された。事業者に対しては、あらかじめセキュリティ対策アプリを入れておくなどの「セキュリティ対策の強化」、長持ちするバッテリーや壊れにくい画面の開発といった「技術面の改善」を依頼。行政には、知識不足を補うための「セミナー受講の義務づけ」や「メディアを使って偏りのない情報を広める」こと、スマートフォンや情報モラルに関する「教育」の強化などが提言された。教育については、実際にスマートフォンをウイルス感染させる体験をすることでセキュリティ対策の重要性を教えるといった具体案のほか、スマートフォンやインターネットの便利さだけでなく「自分で考えること」の大切さについても教えてほしいという要望が出された。

最後には、「スマートフォンについて考える時間」が自分たち高校生にとって重要であることを述べ、最終的には「自分たちユーザーと企業、行政が三角形になって、これからのスマホの時代をつくっていく」ことが重要だとする言葉で締めくくられた。

第三部 講評

次代を担う若者たちへ

「コミュニケーション能力」を身につけ「自立(自律)」した若者に

熊本県熊本市立錦ヶ丘中学校 教頭 桑崎 剛 先生

桑崎先生は、「これほどまでにスマートフォンやSNSが急速に普及するとは、つい2、3年前まで誰にも想定できませんでした。もはや時代は先の読めないものになっており、今回のサミットに参加されている通信事業者の方々のように、ここにいる6人の高校生たちが将来、子どもの頃には世の中に存在しなかった仕事に就く確率は高いでしょう」と述べた。そして、次代を担う高校生たちに求められるのは「コミュニケーション能力」と「自立(自律)」であると指摘。そうした能力や資質の育成には、今回の熟議のような機会は有意義なものであるとした。高校生たちの提言には「周りが何かしてくれる」という他力の姿勢が見受けられるとして、自力への意識転換を促したものの、熟議の目的の一つであるコミュニケーション能力の育成については「十分に達成できている」と評した。

生徒たちの生活を豊かにする「情報の授業」を実現したい

栃木県立馬頭高等学校 校長 全国高等学校校長協会 生徒指導研究委員会 副委員長 田代 和義 先生

「校長という役職に就いている人の中に若い人はまずいません。大多数がスマートフォンについて知らないままに(情報モラル教育の)話を進めています。今回、サミットに参加させていただき、『我々ももっと勉強しなければ』と心を新たにしました。若い先生たちに学びながら、ともに指導していきたい」と田代先生。熟議の中で、高校生たちから「情報の授業では実際に役に立つことが学べない」という意見が挙がっていたことについて、「本来は生活を豊かにするためのものとして設けられた情報の授業が、パソコン操作など技術の習得に終始してしまっていることは反省点。教科書にスマートフォンが取り上げられていなくても、学校で補助教材をつくるなどして対応を図っていきたいと思います」と述べた。また、高校生には自分で情報を取捨選択する力を植え付けていくことも重要だとし、「今度は自分の学校の生徒を連れてきたいと思います」という言葉で締めくくった。

若者が自由に、安心してインターネットを使える時代へ

(写真映像)青山学院大学 ヒューマン・イノベーション研究センター 客員研究員 齋藤 長行 先生

パリからオンラインで講評をくださった齋藤先生は、OECD(経済協力開発機構)本部で青少年のインターネットの適正利用に関する研究を行っている。OECDで日本の主導により進められているのは、今や世界的な問題となっているインターネットのリスクを排除するための国際的な基準づくり。「インターネットで世界とつながることは、みなさんのプラスになることです。ただし、そのためには適正に利用するための基準が必要。それにより、若者ができるだけ自由にインターネットを使える環境をつくりたいと思っています」と齋藤先生。先行するEU加盟国以外でも、近年は高校生熟議のようにユーザーの意見をインターネット政策に取り入れようとする動きが広がっているとして、「熟議で話し合われたみなさんの意見を反映させていきたいと思います」と結んだ。

今後の予定

「高校生熟議」では最終報告会として、2013年1月28日に内閣府の「青少年インターネット環境の整備等に関する検討会」にて、これまでの成果を提言として発表する。今回の参加高校生も代表2名が、高校生ならではの意見を中央に届ける予定だ。なお、2013年度の「高校生熟議」は東京・大阪の2拠点に留まらず、より広い地域で、より多くの高校生の参加を募って開催される予定となっている。

取材・文・写真:吉田秀道、吉田教子

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