2012.02.21
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小中一貫で独自に「在り方生き方」領域を設定(vol.2) 総合と特活を統合、教科等との関連も図る ―船橋市立若松小・中学校「小中一貫教育公開研究会」より― 後編

千葉県船橋市立若松小・中学校が実践する小中一貫教育。その中で独自に設置した領域「在り方生き方」の授業を前回リポートした。後編は、この「在り方生き方」が小中一貫教育の中で果たした役割、目的、課題等について、若松中学校の井川富美子教頭と、研究主任で1年副担任でもある生井敏昭教諭、拝見した授業を担当した加藤真美教諭にお話しいただく。

実践者に聞く

小・中がバトンをつなぎ「心」を育て、 社会の一員としての実践力を高める

地域との連携の中で

生井敏昭 教諭
若松中勤務は3年目。若松小でも第6学年の理科を担当する。

学びの場.com(以下、学びの場) 研究開発指定を受けた経緯を教えてください。

生井敏昭 教諭(以下、生井) 船橋市では2005年度から5校を小中連携実施校に指定して、研究を行ってきました。本校はその1校で、私の赴任前ですが当時の先生方の間で「新しいことにチャンレンジしよう」という話が盛り上がったようです。

学びの場 小・中学校が隣同士という以外にも、好条件があったのですか。

井川富美子 教頭
2011年度、千葉県総合教育センターから異動。

井川富美子 教頭(以下、井川) 2002年度にザウス(屋内スキー場)跡地に大型マンションができるまでは学年1クラスでした。(学校とJR南船橋駅の間に広がる)若松団地と(駅の向こう側にある)船橋競馬場の関係者の児童生徒で構成され、生まれた時からずっと一緒のせいか、中学生は3学年ともとても仲がよいです。地域の方々も学校への協力を惜しみなくして下さり、マンションの新住民も自然と地域になじんでいるようです。

生井 生徒が悪いことをすると、「悪い」と注意して下さいますからね。生徒も(悪いことを)できない(笑)。地域とはいい関係ができています。

「文化」の違う小・中の接点にも

学びの場.com あえて、独自の領域として「在り方生き方」を独立させたのはなぜでしょう。

生井 学ぶ意欲や社会規範意識の低下、人間関係の希薄化、ニートやフリーターの増加といった昨今の課題を解決するには、既存の各教科・領域の中で実施するだけでは不十分ではないか、という思いがありました。

井川 前の学習指導要領だと、「総合的な学習の時間」がどうしてもスキル中心になってしまいました。そこに「生き方」を入れて、子どもたちの気持ちを育てていきたいと考えたのです。

学びの場 実際にやってみて、どうですか。

生井 指導計画の立案は大変でしたが、教員としてはやりがいを感じられましたね。小学校と中学校では「学校文化」が違いますが、授業研究を中心にすることでお互いに理解が深まりました。とりわけ「在り方生き方」では、双方の接点をうまく作ることができました。

昨今、中1ギャップが問題になっていますが、実は小中の段差を“高すぎず低すぎず”適切に設定してあげることも子どもの発達には必要です。その点で4-3-2制の小中一貫は適切なハードルを設定しやすいですね。反抗期に入る小5から中1までを一緒にする意味もあります。

学びの場 他の教科・領域でも綿密な9年一貫カリキュラムを組んでいます。教科・領域間の関連も図っているそうですね。

生井 私の担当する理科ではキャリア教育に重点を置いています。小学生の授業でエジソンが電球を発明したエピソードを挟む等、勉強したことが生活に役立ち、世の中で使われていることを授業の中で見えるようにすることが必要だと考えています。

井川 研究開発は2011年度で終わりますが、今後も総合や学級活動、各教科の中で「在り方生き方」の趣旨を生かし、考える力や夢・希望を育めるという手応えがあります。

3・11で生徒が力を発揮

加藤真美 教諭
若松中勤務は4年目。担当教科は国語

学びの場 中学生に、地域に目を向けさせる意義はどこにあるのでしょう。

加藤真美 教諭 中学生は半分くらい大人になりかけています。地域の方から話を聞けば、「地域の期待に応えたい」「自分も参加していこう」「地域のために何かしたい」と思うようになります。実践力を高めるのが「在り方生き方」のねらいです。

生井 3月11日の大震災では若松地区は液状化等により被災し、多くの住民や帰宅困難者が体育館に避難してきました。生徒は、水や食糧の配給を手伝い、また、募金活動や液状化で噴出した土砂の片付けのボランティアを呼び掛けると、友達同士で声を掛け合ってすぐに全校生徒の半数くらいが集まってくれました。これには私たちも驚きました。ちょうどこの研究の3年目に入る時でしたので、実践力を培う「在り方生き方」の成果の表れだとしたら、非常にうれしいですね。

「在り方生き方」は「心」を育てる領域です。小学校と中学校がバトンをつないでいくことで心が育っていくことも、小中一貫の意義だと思います。
記者の目

改正学校教育法や新学習指導要領では「確かな学力」だけでなく「豊かな心」「健やかな体」との調和を重視している。しかし、これらを教育課程上や実際の学習活動でバランスよく計画・実施することは案外難しい。教科の中でのキャリア教育もそうだ。その点で、「在り方生き方」を独立した領域として授業時間数を確保するというアイデアは秀逸だと感じた。今回は触れられなかったが、小学校にも「心」の育成に迫る授業実践がたくさんあった。

取材・文:渡辺敦司/写真:言美歩

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