2021.11.22
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子どもたちが主体的に学級経営に取り組む「学級力向上プロジェクト」(後編) 教師は一人ひとりがしっかり動けるようにサポート

兵庫県尼崎市立武庫東小学校1年1組では、「学級力向上プロジェクト」をもとに、子どもたち自身による自己評価や話し合い、問題解決方法の決定と実践に取り組んでいる。前編での授業リポートに続き、後編では「学級力向上プロジェクト」による学級経営や取組の詳細について、宇都亨教諭にインタビューした。

教師主体から子ども主体へ

―「学級力向上プロジェクト」を知ったきっかけを教えてください。

「学級力向上プロジェクト」開発者の早稲田大学教職大学院の田中博之教授と一緒にプロジェクトに取り組まれていた大阪大谷大学の今宮信吾教授から、関西で学級力向上研究会を立ち上げる際にお声がけいただいたのがきっかけです。当時は教師になって12年目。ちょうど自分を変えたいと思っていたタイミングでした。

尼崎市立武庫東小学校 宇都亨教諭

―プロジェクトを実践してどれくらい経ちましたか。

プロジェクトを知ったのは5年前です。知ってすぐに新学年が始まり、実践し始めました。4年生から6年生と中高学年が続きましたが、今年は1年生の担任として初めて低学年にプロジェクトを実践しています。

―このプロジェクトによる変化を教えてください。

教師主体から子ども主体へと変化したことです。以前は教師主導の学級経営で、こちらが感じたことを伝えて子どもたちを動かそうとしていました。このプロジェクトでは、子どもたちが自分自身や自分たちのクラスの良さや課題、様々な活動の重要性に気づく形になります。

教師が主体だと見落としや継続性といった問題点がありますが、このプロジェクトでは教師自身も1年間の見通しをもって学級経営ができます。

みんなで取り組むことの重要性

―実践して改良や工夫をした点はありますか。

決まったことはみんなでやるという働きかけですね。やりたい子に任せると見ているだけの子も出てきてしまい、みんなで変えていこうという意識にはなりません。決まったことはみんなで一緒にするよう、教師が一人ひとりに役割を与えたりすると、子どもたちはしっかり動けるようになります。基本は子ども主体ですが、そのために教師がある程度丁寧に手を入れる必要があると気づきました。

例えば、「廊下を走らない」というカード。以前は立候補した子ども数名に描いてもらっていましたが、それでは活動に対する意識が偏ってしまいます。今年は1枚の紙を切り、一人ひとりに紙を渡して色を塗ってもらい、みんなの紙をつなぎ合わせるようにしました。「わたしもここに参加したんだ」と思えるようにしてあげることが大事ですね。

―学年によって子どもたちの反応に違いはありますか。

1年生はクラスという意識があまりありません。自分が主体で周りのことはなかなか見えていないので、「自分はどうか」が重要になります。高学年になると俯瞰し、自分と周囲を冷静に見られるようになります。低学年での「あなたはどうですか?」という問いかけに対し、高学年では「クラスとして、どうですか?」という問いかけができるようになります。また、「その結果にあなたは納得できますか?」のような、さらに一歩進んだ問いかけも可能になります。

楽しみながら学級力を高める

―1学期の【R:診断】【P:計画】【D:実施】の取り組みについて教えてください。

1回目のアンケートをし、その結果を見て、「普段頑張っていることを教えて」と質問しました。自分たちの頑張りを話し合った後、話題が課題に移った時に、新しい友達ができていないという話や、廊下を走っている子がいるという話が出たので、この二つを解決する取組について話し合いました。その結果、宝探しゲームとお店屋さんごっこをすることに決まり、廊下については「自分にできることは何だろう?」と問いかけ、みんなで啓発ポスターを作ることになりました。このような活動をスマイルアクションと呼んでいます。

―生活科や体育科とはどのように連携していますか。

生活科に「がっこうだいすき」という学習単元があったのでポスター作りやお店屋さんごっこを生活科の時間で扱い、宝探しゲームは体育の時間に行いました。違う教科の目的と合致するものがあれば、結び付けていくようにしています。カリキュラムマネジメントや教科横断型の取組としても大切なことだと思います。

―1年生の話し合いにおける工夫を教えてください。

活動時間が長くなると子どもたちの集中力がもたないので、「今は話すとき」「今は紙に意見を書くとき」と活動を細かく分けて次々と変えるようにしています。また、教師が話の流れをまとめたり整理したりするようにもしています。

複数の子どもたちが同じことを話してしまうときがあるのですが、できるだけ意見を潰さず、あなたの意見も先生はわかったよと伝えています。自分も話し合いに参加した、聞いてもらえたと子どもたちが思えることが、1年生では特に大事なのではないでしょうか。

子どもたちの本音を引き出す授業づくり

―今日の授業のねらいは何でしょうか。

大きなねらいは自分たちの頑張っていることに気づくこと、それから、課題に気づくことでした。学校は楽しいことばかりじゃないので、学校に毎日来るというのは大変なことです。新しく小学校に入って今までいろいろ頑張ってきた、ということに気づけたらいいなと。

教師側としては、今日の授業で出た「発表するのが恥ずかしい」「緊張する」のような、子どもたちの本音を引き出せたらというねらいがありました。

―今日の授業で工夫した点はありますか。

わかりやすいように観点を絞りました。絞って話すこと以外には、書く時間、話す時間、聞く時間という区切りをつけるように工夫しました。

絞ったことによる結果については、まだまだ反省の余地があると思っています。一つずつ質問していけばもっといろんな意見が出たと思いますが、そうすると置いてきぼりの子も出てしまいます。そうならないよう、紙に書いて意見を表現する時間を作りました。普段は発表するのが苦手な子も発表できた点は良かったと思います。

―今後の予定について教えてください。

子どもたちの本音をもっと聞きたいし、そのための時間を作りたいですね。友達がほしい、さみしいと思っているなら、そういう本音を引き出して、話の土俵にのせてあげたい。友達がそう思っているとわかったら、みんなも動けるようになるはずです。間違えるのがこわいから発表しない子がいるなら、間違えたときにみんなはどんなことができるか、友達が安心して発表できるためにみんなはどうしたらいいのか、そういうことを話し合えるといいなと思います。楽しみながら仲良くなる活動や、安心して発表できるようになる取組を、子どもたちと一緒に考えていきたいです。

記者の目

同じ意見の子は着席するように伝えても、言い回しが違うと「違う意見だ」と思い込む子どもは多い。気づかずに同じ意見を発表してしまう子どもがたくさんいても、一人ひとりの発言に優しく丁寧に耳を傾ける宇都先生の姿が印象的だった。ちゃんと聞いてもらえるという経験が子どもの自信につながっていくように思う。主体的に考え行動することの大切さを学んだ子どもたちの、これからの成長が楽しみだ。

取材・文・写真:学びの場.com編集部

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