2021.11.22
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子どもたちが主体的に学級経営に取り組む「学級力向上プロジェクト」(前編) 自分たちのクラスを題材とした課題解決型学習

兵庫県尼崎市立武庫東小学校1年1組では、早稲田大学教職大学院の田中博之教授が考案した「学級力向上プロジェクト」を学級活動にとり入れている。「学級力向上プロジェクト」による学級経営とは一体どのようなものなのか。今回は同校で実施された学級活動「アンケート結果から、1組の良いところとがんばるポイント(課題)を見つけよう!」の様子を取材した。

●授業概要

学年・教科:小学校1年生・特別活動
議題:アンケート結果から、1組の良いところとがんばるポイント(議題)を見つけよう(第13時)
授業者:宇都亨 教諭

~「学級力向上プロジェクト」とは~
学級力とは、「支え合う仲間である学級をよりよくするために、子どもたちが共に目標にチャレンジし、豊かな対話を創造して、規律を守り、安心できる環境のもとで協調的な関係を創りだそうとする力」である。学級力の6つの力:「目標をやりとげる力」「自律する力」「話をつなげる力」「友だちを支える力」「安心を生む力」「きまりを守る力」(低学年は「自律する力」が無く、5つ。)についてアンケートを実施して、その結果をレーダーチャートにする。子どもたちがこの学級力レーダーチャートを見ながら、自分たちのクラスの学級力の現状を診断して成果と課題を整理し、さらに学級力を高めるための取り組みを計画したり、その成果を評価したりするための話し合い活動を行う授業を「スマイルタイム」と呼ぶ。アンケートとスマイルタイムを各学期に実施し、子どもたちが日常的に抱いている、学級に対する不満や満足感を出発点としながら、R-PDCA サイクルのプロセスに沿って、学級力向上プロジェクトを子どもたちが計画的に進めていく。

①アンケート結果をチェック

子どもたち全員に2回目のアンケート結果が配られた。「学級力向上プロジェクト」に基づいておこなわれた「わたしパワーアンケート」の結果から、6月に実施した第1回から、10月に実施した第2回の数値の変化をまとめたものだ。黒板には大きく「スマイルタイム」と書かれ、学級力レーダーチャートが貼り出された。アンケート結果をレーダーチャートにすることで、一目で変化がわかるようになっている。

「赤い線が前のアンケートの結果で、緑色が今回の結果です!」

レーダーチャートを子どもたちに見せながら、宇都先生が話を切り出す。

アンケート結果は次の10項目に分かれている。

がんばりパワー:めあて・かかり
おはなしパワー:きくしせい・かんがえ
おたすけパワー:ささえあい・ありがとう
なかよしパワー:あんしん・なかよし
やくそくパワー:おしゃべり・きまり

「アンケート結果を見てください!今回の『めあて』の数字は?」という宇都先生の問いかけに、「87!」と元気に答える子どもたち。問いかけを続けながら、第1回と第2回のアンケートで出た全ての数字を宇都先生がレーダーチャートに書き込んでいった。

「良いところの1位から3位まで、赤鉛筆で丸をしてください!」

宇都先生の指示通り、子どもたちが一斉にアンケート結果のプリントに顔を向けた。「かかり」「おしゃべり」「あんしん」の3つに丸がついていく。

「給食当番や掃除当番、係の仕事をがんばっているよ。授業中に勉強と関係のない話はしていないよ、悪口も言っていないよ、この3つが良いところですね!」
「じゃあ次に、点数の低いところは黒鉛筆で丸をしてください!」

「きまり」「なかよし」「かんがえ」の3つに黒い丸がついた。

「考えを発表する、決まりを守る(廊下、時間)、仲良くする、この3つになるね」

②点数が高かった項目について考える

「給食当番を頑張っている人、手を挙げて!」

宇都先生の質問に、一斉に子どもたちの手が挙がる。

「じゃあ掃除当番を頑張っている人、手を挙げて!」「はい!」

「みんないろんな仕事をがんばっているんだね。授業中に勉強と関係のない話はしないようにしているところ、友だちの悪口は言わないようにしているところも、みんなのがんばっているところなんだね。それってすごいなと先生は思います。みんなは来年で2年生になるけど、次の1年生に授業中に無駄なおしゃべりをすることや、友達に悪口を言うことはなぜダメか聞かれたら、何て答える?」と問いかける宇都先生。

「無駄なおしゃべりと悪口、どちらかを選んだら、ダメな理由をプリントに書いてください!」

スラスラと理由を書ける子どももいれば、手が止まってしまう子どもも。宇都先生が順番に机を見回り始めた。よく書けている子どもには赤ペンで丸を、うまく書けなくて困っている子どもにはアドバイスをしていく。

無駄なおしゃべりがダメな理由は?

「書いたことを教えてね。まだ書けていなくても、お話しできそうだったら教えてね。」

宇都先生の指示で、まずは授業中の無駄なおしゃべりはなぜダメかを選んだ子どもたち全員が起立した。

「お友達の発表を聞いて、もしも同じことを書いていたら席に座ってね」
「じゃあ誰か勇気を出して発表して!」「はい!」「はーい!」

一斉に子どもたちが手を挙げていく。

「先生の話が聞こえないから」と指名された子どもが答えた。

「同じことを書いた人は座ってね」と声をかける宇都先生。

「授業が進まないから」
「他の人の邪魔になるから」
「先生に怒られるから」

次々と答えていく子どもたち。

「まだ出ていないのはある?みんな、大体一緒かな?」

「将来困るよ」という思いがけない答えに、宇都先生の顔がほころんだ。

悪口がダメな理由は?

「じゃあ次、悪口なしの理由を書いた人、立って!」

まだ発表していない子どもたちが起立し、次々と口を開いていく。

「悪口を言うと友達にも言われるよ」
「友達を傷つけるから」
「嫌な気持ちになるから」
「心が暗くなるよ」
「悪口を言われた人の気持ちを考えよう」
「自分が嫌なことは人にしない」
「友達がいなくなるよ」
「友達が泣いちゃうよ」

一斉に手が挙がり、途切れることなく意見が出続けた。

③点数が低かった項目について考える

「かんがえ」と「きまり」ができない理由は?

「1年生になって半年だけど、こんなこと考えているってすごいよね」と子どもたちを褒める宇都先生。
「じゃあ次は、自分のことについて教えてください。自分ができてないなと思うことがあったら、理由を書いてください!」

プリントと向き合う子どもたち。しかし今回は思ったようにみんなの手が動かない。

「怒らないから正直に教えて」と心配した宇都先生が切り出し、考えを発表することができていないと思う理由を子どもたちに質問した。

「恥ずかしい」

「手を挙げて発表するのは恥ずかしいなと思っている人、手を挙げて!」と宇都先生が言うと、多くの子どもたちが手を挙げた。

「発表して間違えたら嫌」
「緊張する」

次は、廊下を走る理由について。

子どもたちに聞くと、「つられて走ってしまう」という答えが返ってきた。

「なかよし」の点数が下がった理由は?

「一番気になるのは『なかよし』なのだけど、どうして数字が下がったのかな?」
本題を切り出す宇都先生に、「前に一緒に遊んでいて嫌なことがあった」と返す子どもの声。

「せっかく学校に来たら、楽しかったねって帰ってほしい」と宇都先生が続けた。
「仲良くはしているけど、誰とでもっていう言葉に引っかかった人はいる?」

問いかけの仕方を変えることで、子どもたちの手が挙がり始めた。

「まだ仲良くなっていない人がいる」と返事する子どもも。

「じゃあ、全員としゃべったことがある人はいるかな?」
宇都先生の問いかけに、ちらほらと手が挙がった。

④学級力向上への次のアクションを考える

アンケート結果では「なかよし」の数字が下がったものの、仲良くしていないわけではない。すでに仲良くなった子とは仲良くしているけれど、全員と仲良くしているという状態までまだたどり着いていないという現状が、子どもたちの反応から見え始めた。

「そうか、じゃあまだお話したことのない人とも仲良くなれるような楽しいことをしよう!」と宇都先生が呼びかけた。

1学期には宝探しやお店屋さんを企画し、子どもたちが交流を深める時間をつくっている。

「楽しくて、みんなが仲良くなれることをみんなで考えようよ!」
具体的なアイデア出しは次時となる。

「45分間、よく頑張ったね!じゃあ最後にまとめます」
宇都先生が1組の良いところとがんばるポイントをまとめ、板書を始めた。

  • 1くみのよいところ
    おしごとがんばっているよ
    いっしょうけんめいべんきょうしているよ
    ともだちにやさしくしているよ
  • がんばるポイント
    はっぴょう
    きまり
    いろんな人となかよくなりたいな

「これががんばるポイントだね!」

宇都先生のほうを見つめる子どもたち。

「前に宝探しやお店をしたけど、今度はもっと楽しくて、みんなが安心して発表できたり、ろうかや時間を気にしたり、もっと仲良くできるようになることを考えよう!」

宇都先生の呼びかけに、マスク越しでもわかる笑顔で子どもたちが応えた。

リポート後編では、宇都先生が取り組んでいる「学級力向上プロジェクト」をベースにした学級活動について、取組のねらいや実践することで生まれた変化についてインタビューする。

取材・文・写真:学びの場.com編集部

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