2020.05.13
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人との出会いを豊かな学びの機会につなげるには?

私、アグネス・チャンがこれまで学んだ教育学の知識や子育ての経験をもとに、学校や家庭教育の悩みについて考える連載エッセイ。今回のテーマは「人との出会いを豊かな学びの機会につなげるには?」です。私が米スタンフォード大学に留学したときの話を交えながら、人との出会いと学びの機会のつながりについてお話したいと思います。

誰かとの出会いで、心から力がみなぎる。

「人生の中で一番大切にしないといけないことは、人との出会いを大切にすること」と子どもたちに話しています。自分にとって素晴らしいメンターになるような人との出会いは人生の中で何回もないと思いますが、私にとってスタンフォード大学留学を勧めてくださったマイラ・ストロバー先生の出会いがそうでした。当時世の中で話題となっていたアグネス論争に関心を抱き、声を掛けてくださったのです。初めてお会いしたときから、私に対する興味がひしひしと伝わってきましたね。「あなたの存在がとても大事よ」と自分の存在を認めてもらえた気がして、心の底から力が湧いてきました。

この記事を読んでいらっしゃる先生方は、皆さん素晴らしいを持っています。マイラ先生が私にしてくださったように、“人の底力”を上げて、そのエネルギーをその子の夢や目標に変えていく。それが先生の一番の役目だと思います。そのあとに学びのプロセスがついてきます。一生懸命素晴らしい講義をしても、本人にやる気がなければ吸収しません。まずは、児童・生徒一人ひとりに「あなたのことを大切に思っているよ」と感じ取ってもらう。それが人との出会いを、豊かな学びにつなげることになります。

一人ひとりに興味を持つことで、大事な出会いが巡ってくる。

では、人との出会いに恵まれるためにはどうしたら良いのでしょうか。それは一つひとつの出会いを大切にすることです。誰が自分にとって一番大事な人になるかはわかりません。長い人生ですから、私も誰かを大事にしすぎて騙されて傷ついてしまうこともありました。でもひとつの出会いも無駄にしないことで素敵な出会いが巡ってきます。

「この先の人生でこの人は大事そう、この人は大事にしなくていいや」と自分で選択をしていると、出会いのチャンスはなくなります。ささやかな出会いでも人に興味を持ち学ぼうとすればすべてが知識となりますが、その気持ちがなければすべて無駄な時間に感じることでしょう。地位がある、上司だから、偉い人だからと大事にして、後輩や地位が下だと判断した人には暇なときだけ時間をつくるのではなく、すべての人に興味を持つ姿勢が大事な出会いを連れてきます。

私は仕事柄SNSや講演会など、何百人、何千人以上の不特定多数の方へ向けて、相手の顔も見えない状態で言葉や歌を届けることがあります。それも出会いです。たったひと言、たった1曲しか歌えないとしても、どれだけそこに魂を込められるかが大切だと思っています。心を込めることで、いざというときに誰かが助けてくれるからです。私が一番迷っていたときに、遠くアメリカから声を掛けてくれたマイラ先生のように。

「出会った人には質問3つ」で、興味をもつ大切さに気がつく。

すべての人に興味を持つことの大切さ、それを自分自身で実感してもらうために、私は「誰かに出会ったら質問を3つ考えてみて」と子どもたちに言ってみました。すると、あるとき息子が「なんでおじさんは髪の毛がないの?」と子どもとして一番気になる無邪気な質問をぶつけたんです。相手の方は「うちの父も髪の毛がなかったよ」と言い、息子は目を見開いて「えっ、どうして?!」とさらに質問。その後は「遺伝って知っていますか?」と話がどんどん発展していきました(子どもが好きな方だったので、笑いながら答えてくださいました)。

もちろん相手に直接質問するチャンスがないこともあるので、後から私に質問することもありましたが、こうして質問を探すうちにその人に興味を持ちますし、相手が答えてくれることでさらに興味が膨らみます。また質問された方は、自分に興味を抱いてくれていると思うことで、自分の存在の大切さに気がつくこともあるでしょう。こうして出会いが豊かになって、どんどん広がっていきます。

すべての人に興味を抱くこと、相手を認めること、自分が認められていると実感すること、それが毎日毎日、一人ひとり積み重なってとっても大事な出会いが巡ってきます。そのためにまず、周りの大人は子どもたちを認めてあげましょう。たとえ学校のテストや試験で良い点数には結びつかないとしても、そこで撒いた種はその子の人生の中で必ず花開く時が来ます。そのときに、すべての出会いが自分の糧になっていると実感できると思います。

アグネス・チャン

1955年イギリス領香港生まれ。72年来日、「ひなげしの花」で歌手デビュー。上智大学国際学部を経て、78年カナダ・トロント大学(社会児童心理学科)を卒業。92年米国・スタンフォード大学教育学部博士課程修了、教育学博士号(Ph.D.)取得。目白大学客員教授を務め、子育て、教育に関する講演も多数。「教育の基本は家庭にある」という信念のもと、教育改革、親子の意識改革について積極的に言及している。エッセイスト、98年より日本ユニセフ協会大使、2016年よりユニセフ・アジア親善大使としても活躍。『みんな地球に生きるひと』(岩波ジュニア新書)、『アグネスのはじめての子育て』(佼成出版社)など著書多数。2009年4月1日、すべての人に開かれたインターネット動画番組「アグネス大学」開校。2015.6.3シングル『プロポーズ』release!!(Youtubeで公開中)

AGNES CHAN OFFICIAL SITE ~アグネス・チャン オフィシャルサイト

構成・文・写真・イラスト:学びの場.com編集部

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