2008.02.19
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「安さ」の裏側  食品の選択と好奇心

東京都 栄養教諭 宮鍋 和子

 最近、産地表示、製造元確認をしてから、買い物をするようになった方も多いのではないでしょうか。改めて、わたしたちの周りをみると、海外からの輸入品が多いことがわかります。日本は、食糧ベースの60%以上を海外からの輸入でまかなっています。つまり、自給率が4割を切ってしまったということです。

さて、ここで、問題です。日本は、そんなに食糧を“つくれない”国なのでしょうか?

 日本が自給率を下げた理由のひとつに、「海外からの輸入のほうが安い」という考えがあります。消費者にとっては、「安い」ことはうれしいことですが、果たして、「安ければよい」ということになるのでしょうか?

「食育基本法」の制定理由のひとつに、食糧自給率のアップもあります。フードマイレージによる地球温暖化への影響、世界的な水不足に対する取り組みからも、日本の「自給率40%以下」というのは、世界から非難をあびる大きな要因となることに政府もやっと気づいたのでしょうか(違う思惑もあるようですが・・・)。

 さて、多くの学校給食の現場では、その日使う食材は、その日の朝納品され、その場で調理します。給食調理業務を受託する業者からすると、「もっと衛生設備の整った施設で、大量仕入れ、大量調理して、真空冷却等をし、各学校現場に運んで最終加工したほうが、衛生面でも、人件費等コスト面でも合理的だ。」といいます。
 現在、学校給食は、調理業務を委託しようと、食材の選定、発注は学校が行っています。そのため、業者は、学校の用意した食材を使って調理を行うのですが、これではほとんど儲けがでません。利益を上げるためには、安く仕入れ高く売る。これは商売の基本です。
 ところが学校給食では、食材費はそっくり食材費として使います。そこに利益は求めません。余裕ができれば、より質の高いものを求めるようにします。これに、高熱水費が加わるわけですから、同じものを外で食べようと思ったら、1食900円以上はとらないと商売はなりたたないでしょう。
 給食費の算定にあたり、「父親が1食500円以下の立ち食いそばや、コンビニ弁当で昼食を済ませているのに、子どもにそんな高価な食材を使う(選定する)必要はない!」といった発言をする議員がいました。
 栄養士は「給食で良い食材を使うのは、もちろんそれを直接食べる子どものためでもあるが、それが、農業や酪農の発展、環境保全につながるものだと考えているからだ。」と反発しました。最近になって、学校給食の地産地消の取り組みが地域産業の発展に大きく貢献することがクローズアップされてきましたが、そのずっと以前より、学校給食はそういった成果を望んできました。

 では、話を戻しましょう。学校給食の現場への民間の参入は明らかに増え続けています。民間で出来ることは民間で。公務員の大幅人員削減が目的です。人件費を安く抑えるために、その仕事を切り離します。ちょうど、「日本で作るより、海外で作ったほうが安いから、海外で生産して輸入しよう」としてきた日本という国と一緒です。やがて、国内では生産技術を持った人がいなくなり、輸入がストップしたとき、初めて、事の重大さに気づくのです。
 現在は、食材の選定、発注は各学校が行っていますが、これは、法律上は「偽装請負」を容認するものであり、本来「委託・請負」の契約を結んだ以上、献立の作成、食材の選定、発注も受託業者の担当となります。労働局の指摘が入れば当然、行政側はこれらを手放さなくてはなりません。
 学校給食は、保護者からの食材費を預かり、お金による利益を得るのではなく、農林水産業を守り育てる人材を得るための支出をしてきました。

 物には相場があります。いいものには高い値段がつき、悪いものには安い値段が付く。「高いからいいもの」ではなく、それ相応の値段を払うということ。そのことを通して、消費者も見る目を養ってきたはずです。ブランドや流行に流されるのではなく、“自ら選ぶ”力をつける。利益を求めない職場だからこそ純粋に求めることができるのかもしれません。

「安い」ことを一番に求めてきた結果、食糧を海外に求め続けてきた日本。お金の換わりに支払い続けてきたものがあることを消費者がどのように考えるのか。
 CO-OPは安いものを求めて中国からの輸入品を増やしています。生産拠点が海外に移ると言うことは、国内での生産者の仕事はなくなると言うこと。仕事がなくなれば、収入が減る。収入が減れば、消費は抑えたい。消費を抑えたいから安い物を選ぶ。安い物を求める消費者が増えるから組合ではさらに安いものを探す。完全な悪循環を生み出していく。CO-OPだけではなく、日本全体が同じ道を歩んでいる・・・。

「安さ」の裏側にはなにがあるのか?「高い」理由はなんなのか?“ただの値段”に隠されている出来事を読み取ることができる。そんな大人になってくれるよう、子どもたちには“なんでだろう?”“どうしてだろう?”という好奇心をもつ習慣を身につけてほしいと願っています。

宮鍋 和子(みやなべ かずこ)

東京都 栄養教諭
定時制高校、聾学校(高・専)、中学校と勤務し、2007年春より小学校に勤務することになりました。学校給食を通して、子どもたちと一緒に、成長できたらと思います。

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