2008.01.26
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情報を作り出すことを経験させるということについて

株式会社オーグメント 代表取締役 渡辺 俊雄

私はかつて、大手コンピュータ出版社で書籍編集者をしていた経験があります。担当分野は、主としてコンピュータサイエンスとインターネットでした。このときの経験はとても大きなもので、それまでろくに文章を書いたことの無い私でも経験を積むうちに筆者が務まるようになったことは大きな驚きでした。とはいえ、難しいことをしたわけではありません。当たり前の手順を何度も繰り返し、そして自分自身の頭で考えて、実際に“書く”ということを積み重ねた結果です。今回は、そのときの経験から「情報を作り出すこと」のメリットについて話を進めたいと思います。

さて、当たり前の話から始まりますが、「情報を作り出す」ということは、自分自身の知識を形にすることです。伝えたいことがある場合、単純に知識を提供する場合などで出し方は異なりますが、想定する読者を決め、何を伝えるのかということをまずははっきりさせなければなりません。この部分が明確になっているか否かは仕上がりに大きな影響を与え、その情報の価値すらも決めてしまう可能性もありますが、このときに、ちゃんとした読者視点を持てるかどうかはとても重要です(商業出版では、この読者視点を編集者が担当したりします)。

昔は情報発信をしようとしたときには何らかのメディアに採り上げてもらう必要があり、その際には内容をかなり吟味されましたが、インターネットが普及したことにより、そういう過程を経なくても自由に言いたいことが広範囲に伝えられる時代になりました。しかし、そうした背景も手伝ってか、雑な情報がずいぶんと増えてきたと感じます。他人の文章をぱくったブログや、情報の裏を取らない書き込みなどはその一例でしょう。

雑な情報が増えてきた原因はいろいろ考えられますが、大きな理由としては、情報制作者側の思考停止ではないでしょうか。安易に情報発信ができるために、とりあえず“出す”ことが目的化してしまい、その内容については深く考えていないという感じです。

情報の質は結果だとしても、この、“思考停止”の増加には早急な対処が必要です。そのためには、まずは自分の頭で考えるという習慣を付けさせなければいけません。

情報を作り出すという作業は、きちんとやれば様々な視点や工夫を必要としますから、どうしても“考える”という作業が増えてきます。頭の中にある漠然とした知識を洗い出し、整理し、ストーリーラインを考え、足りない部分を補完し、相手が理解しやすいように表現などを工夫する。こうした工程を踏むことで、相手のことを考えるということや、情報とは何かということが自然に身に付くと考えています。もちろん、子供が様々な視点を持てるとは思えませんので、グループによる作業が好ましいと思います。

また同時に、情報を作るということは、その内容に責任を持つことが必要だということも教えたいことのひとつです。そのためには、単なるコピーや伝え聞くで済ませるのではなく、きちんと調べるということをしなければいけなくなります。わかったような気になって進むところでも確認を取るようになる。そういったことの積み重ねが大事なのではないでしょうか。

子供に与えるテーマは自由意志に任せた(興味のあることをやらせる)方がいいと思いますが、思いつかなければ、学校の周辺にある草木や商店街といったインターネット上に情報が少ない話題を選ぶといいと思います。結果、自分自身で調べないと中身が集まりませんから、いろいろな手段を使って情報を集めてくるようになります。

少し余談めきますが、最初のほうで「伝えたいことがある場合、単純に知識を提供する場合などで出し方は異なる」と述べましたが、その違いは次のようなものです。

伝えたいことがある場合は、相手の興味を引いたうえで“読ませる”必要があります。そのために大事なのは、話題とストーリーです。相手が分かりやすい、納得しやすい話題を使い、ストーリーを作って全体を構成するとよいと思います。上達してきたら、今度は相手が興味を持つようなエッセンスをどのように入れればいいかを考えさせるといいかもしれません。

一方、単純に知識を提供する場合には、情報の整理・分類と検索性が重要になります。内容については、網羅性を高めるのも難しいでしょうから、個々で説明が完結する形で情報を作り(そのほうが初心者向けとして適切だということもあります)、そこにどのように利用者を誘導するかを考えさせるのがよいかと思います。

それと、これは提案なのですが、情報教育というとどうしてもコンピュータ関係の話題に目が行きがちですが、むしろ、雑誌や書籍の編集者を学校に招待して授業をしてもらうのはとてもいいような気がします。子供も、出版というものは具体的にイメージできると思いますし、メディアに対する興味もあるでしょうから、退屈な授業にはならないと思いますし、情報発信との関係性を見いだして積極的にやる子が出てくるかもしれません。なんといっても、情報というのは人間が扱うもので、コンピュータなどは単なる手段なのです。それを忘れてはいけません。

そうそう。いま、Internet Watchというインターネット関係のニュースサイトで興味深い記事が短期集中で連載されています。ここでその紹介を行い、今回の最後としたいと思います。

さて、その連載ですが、テーマは「10代のネット利用を追う」だそうです。ちょうど、中高生を挟んだ前後の年齢の子供のインターネット利用に関して、子供が使っているサービスなどをトリガとして、その提供事業者にインタビューし、動向などについて解説しています。個人的に、いくつか興味を引く部分がありました。:)

第1回 「モバゲー」のルールは学校の校則みたいなもの~DeNA
http://internet.watch.impress.co.jp/cda/teens/2008/01/21/18163.html

第2回 「ふみコミュニティ」に見る10代少女のネット利用
http://internet.watch.impress.co.jp/cda/teens/2008/01/22/18190.html

第3回 インターネットってオープンだったの? ~前略プロフィール
http://internet.watch.impress.co.jp/cda/teens/2008/01/23/18203.html

第4回 10代はメールの止めどきが悩み~NTTドコモモバイル社会研究所
http://internet.watch.impress.co.jp/cda/teens/2008/01/24/18216.html

渡辺 俊雄(わたなべ としお)

株式会社オーグメント 代表取締役
1958年、東京生まれ。メーカー系システムエンジニア、大手コンピュータ出版社の書籍編集者、インターネット関連組織の広報などを経て2006年に独立。大学生と高校生の二人の子どもを持つ。

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