2008.01.12
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情報教育は情報発信を主体にしたい

株式会社オーグメント 代表取締役 渡辺 俊雄

新年あけましておめでとうございます。今年の冬は例年よりも暖かい気がしますが、皆様はどのようにお過ごしになりましたでしょうか。(^^)

さて、前回は「情報というものは、“作る”ということと“利用する”ということをセットで考えることが大切だ」ということを述べました。今回は、この話をもう少し進めてみたいと思います。

まず、「情報を利用する」ことを考えてみましょう。これは現代では比較的簡単で、インターネットを利用して検索をかければかなりの確率で利用者が欲する情報が見つかります。課題があるとすると、どのような言葉をキーワードにして検索をかけるか。そのあたりの見極めに“慣れ”が必要だということでしょう。でないと、検索結果が山のように表示されて目的とする情報を見つけるのに時間がかかってしまうからです。ただ、この“慣れ”については、柔軟性の高い子供にとっては苦痛にはならないようですね。

それに対して、「情報を作る」ということは非常に多くの労力を必要とします。情報を作るためには、自分が言いたい内容とか、誰に対して言いたいのかといったことを明確にしなければいけません。そして、そのためには“言葉”が重要になります。

少し話が逸れますが、言葉というのはそれを使うコミュニティによってまるで異なる意味を持ちます。よく知られた例として「デフォルト(default)」がありますが、これは、コンピュータ関連の仕事をしている人にとっては「省略値(利用者が特に指定をしない場合にコンピュータが前提とする値)」という意味になります。しかし、この「デフォルト」という言葉は、金融関係者にとっては「債務不履行」という大変な事態を指す言葉になってしまうのです。

笑い話ですが、金融関係者を前にコンピュータエンジニアが「(システムに与える)デフォルトはどうしましょう」ということを言ったら、金融関係者がうろたえたという話があります。これは、言葉を不用意に使う危険性の一例ですが、ここで重要なのは、できる限り共通の認識を期待できる言葉を使おうという姿勢の大切さです。この例でも、「デフォルト」という言葉を使わずに「省略値」と言っておけば笑い話にはならなかったはずですから……。見た目が格好いいからとか、流行だからといった理由で短絡的に言葉を使うと、それを読んだ人との間に齟齬が生まれかねないといういい例ですね。

自分自身にとって意味があるというだけの情報であれば、どのような形にまとめようと問題はないと思います。でも、たとえばブログの日記にしても、他人に読んでもらおうと思えば気を遣いますよね。情報を他人にとっても意味のあるものにしようと考えることは、こうしたことをきちんと考えるという行為でもあるのです。

話を元に戻すと、情報を作るという行為は、多様な視点を持つための訓練でもあり、他人とのコミュニケーションを取るということに対する訓練でもあります。と同時に、考えをまとめあげるという点で、自分自身の脳を積極的に使うことが求められますから脳の活性化にも役立ちます(文章で書くか、内容を図や表にするかということも含めていろいろと考えなくてはいけません)。個人的な考えですが、情報教育をするのであれば、消費することよりも生み出す側にまわることのほうが得られるものははるかに大きいのではないのでしょうか。

文部科学省の学習指導要領 http://www.mext.go.jp/b_menu/shuppan/sonota/990301.htm を見ても、中学校学習指導要領の「第8節 技術・家庭」にある「B 情報とコンピュータ」の項目(4)-イには、情報通信ネットワークについて「情報を収集,判断,処理し,発信ができること」と書いてありますし、高等学校学習指導要領の「第10節 情報」の情報Aでも、その(1)-イに情報伝達の工夫として「情報を的確に伝達するためには,伝達内容に適した提示方法の工夫とコンピュータや情報通信ネットワークなどの適切な活用が必要であることを理解させる」と書いてありますから、教える側としてもその正当性は主張できると考えます(情報Aの(2)-イでは、より具体的に「情報を効果的に発信したり,情報を共有したりするためには,情報の表し方に工夫や取決めが必要であることを理解させる」と書いてあります。ちょっと拡大解釈をしている面はありますが……)。

コンピュータに関連する仕事をしている立場の人間としては、実はもっと違うところに不満があったりする(情報という教科の位置付けとか)のですが、それを言い出すとキリがないのでここでは置いておいて(苦笑)、いまの形の中でできることとして、情報教育は「情報を作ること」を主体にすることを提案していければと考えています。

渡辺 俊雄(わたなべ としお)

株式会社オーグメント 代表取締役
1958年、東京生まれ。メーカー系システムエンジニア、大手コンピュータ出版社の書籍編集者、インターネット関連組織の広報などを経て2006年に独立。大学生と高校生の二人の子どもを持つ。

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