2007.12.29
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情報教育とは何だろう?

株式会社オーグメント 代表取締役 渡辺 俊雄

先日、某大学の先生が主催する「情報教育」をテーマとした勉強会に、ご招待を受けて参加してきました。面白い話を伺うとともに、非常に有意義な議論を得ることができました。それに刺激を受けたというわけではありませんが、今回からしばらくは情報教育について考えてみたいと思います。

まず、“情報”とは何でしょうか。岩波書店の広辞苑第五版を見ると、「あることがらについてのしらせ」と「判断を下したり行動を起したりするために必要な、種々の媒体を介しての知識」と書いてあります。また、岩波国語辞典では、「ある物事の事情についての知らせ」と「それを通して何らかの知識が得られるようなもの」と書いてあります。

でも、私はこれに「人が理解できる形になった情報」という定義を明確に付け加えたいと思っています。これは、人にとって理解不能であるものは、たとえば広辞苑に書かれているような“判断を下したり行動を起したりする”ための知識にはなり得ないからです。

なぜこんなことを思ったかというと、いまは“他人の視点”というものに対して無頓着ではないかと思えることが増えてきたからという背景があるからなんですね。

情報に限らず、コミュニケーションするということを考えたとき、そこには必ず“伝え手側”と“受け手側”が存在することになります。それなのに、伝え手側は自分が言いたいことだけを言って、相手にどう伝わったのかとか、相手がどこまで理解したのかということを考えません。相手との齟齬が生じたとき、状況を聞くと「ちゃんと伝えました」とか「あれほど言ったのに」という言葉が出てきたときにはその傾向が強いと感じます。

たとえば、現在多くの子供がやっているプロフ。あれは、自分という人間を理解してほしいという意思表示だと思うのです。他人とコミュニケーションを取るとき、自分が相手を理解するよりも、まず相手に自分という人間は“こうなんだ”と感じて欲しいから不要と思えるほどの情報を開示してしまうのではないだろうか、と。プライベートな情報が第三者から丸見えになるリスクよりも、自分という存在の主張のほうが優先するのですね。

さて、本筋に戻りましょう。

先に述べたように、情報というのは“伝え手側が作り”、“受け手側が読む(見る)”という構図があります。いわばこれは情報の両輪であり、どちらか一方だけでは意味がありません。しかし、現在の授業では、この両輪に関する説明がほとんどされていないような気がします。多くの場合は、インターネットを検索して目的とする情報を見つけるとか、文書やポスターのようなものをパソコンで作るといったことばかりが目につきます。

今回は図を書いてみたのですが、ちょっと小さくて分かりにくいですね……。^^; 本文で説明すると、下側の“ベース”側からテーマに従って「情報素材を探す、作る」、「相手の理解しやすい形に整理・編集する」、「見やすいよう、読みやすいように配置する」という順で“テクニック”側に振れていきます。

実は、この順序は、基礎となる“知識を作る力”に始まり、応用力として“読み手のことを考える力”を鍛え、最後に“見栄えを良くする力”を育てるという流れでもあります。そして、難易度から言えば、読み手のことを考えることが一番難しく、次に知識を作ることが難しい。それに対して、見栄えを良くするというのは比較的容易で、ある程度の基本と経験をさせればそれなりのものが作れるようになります。

インターネットが普及したことにより、素人と玄人の情報格差が過去に無いほどに縮まったという話があります。検索をすれば、欲しい情報がいくらでも手に入ります。というか、入るような錯覚が生まれるほどにインターネット上には情報が溢れています。

それに伴い、「コピペ族」と呼ばれる人々も増加してきました。コピペ族とは、インターネットから仕入れた情報をコピーし、自分のレポートにペースト(貼り付け)して済ませてしまう人々のことです。誰かがまとめたそれらしい内容を使えば、あっという間にレポートが完成しますが、レポート作成の過程で本当に必要な“考える力”は使われていません。言い方は悪いですが、“思考停止”した状態で見かけだけは高度なものが出来上がるわけです。しかも悪いことに、彼らは、インターネットから得た情報の精度はおろか、真偽すら確認せずに使うこともあります。そうやって作られた二次情報が出回ると……、怖いことですよね。^^;

情報教育を行う上で重要なのは、“作る”ということと“利用する”ということをセットで考える必要があることだと考えています。情報を作るということは難しいですが、そこを避けていては子供の思考停止につながるだけのような気がします。世の中では情報を使いこなすことが重要だと言われているようですが、本当に必要なのは検索技術を身に付けることではなくて、情報というものが何であるかを知ることこそが大切なのだと思えてなりません。しばらくは、この問題について考えてみたいと思います。

もう今年もあとわずか。皆様、よいお年をお迎えください。
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渡辺 俊雄(わたなべ としお)

株式会社オーグメント 代表取締役
1958年、東京生まれ。メーカー系システムエンジニア、大手コンピュータ出版社の書籍編集者、インターネット関連組織の広報などを経て2006年に独立。大学生と高校生の二人の子どもを持つ。

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