2007.11.17
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メールが届かない!?

株式会社オーグメント 代表取締役 渡辺 俊雄

「届いているはずのメールが見つからない。」
こんな経験をしたことはありませんか?

もし、見落としているのであれば、落ち着いて探せばたいていは見つかります。でも、どんなに探してみても見つからないとしたら……。もしかすると、本当に届いていないのかもしれません。

ここ数年、「出したはずのメールが相手に届かない」という話をよく聞くようになりました。どういうことかというと、メールを出したけどいっこうに返事が来ない、電話で確認したら、相手から「そんなメール、受け取ってない」と言われたというような事例が増えてきているということです。

メールというのは、確実に相手に届くもの。そう考えている利用者の方も多いと思います。しかし、実際には、さまざまな理由によってメールが相手に届かないという状況が生まれてきています。その中のひとつ、スパム(迷惑メール)対策がメールの不達を生み出しているという事例について説明していきましょう。


あるデータによれば、世界中でやりとりされるメールの8割以上がスパムであると言われています。メールの5通に対して4通がスパムだというのはかなり異常な事態だと言わざるを得ません。そのため、世界的に「スパムにはうんざりだ」という雰囲気が強くなっています。もちろん、日本も例外ではありません。

メールの大半がスパムだということの裏を返すと、インターネットプロバイダーや企業は不要なメール(スパム)のために余計な設備投資をしなければいけないということでもあります。たとえば、本来なら日に1千万通のメールを処理できれば十分なのに、スパムのために1億通のメールを処理できる設備を用意しないといけないとしたらどうでしょう。普通の経営者なら、きっと「なんとかならんのか」と言うのではないでしょうか。

スパムに対する一般ユーザーの嫌悪感に加えて、メールをサービスとして提供する側にしてみれば苦情処理や設備の負担増などが重荷になります。そのため、こうしたことが動機となって、海外では「相手によってはメールを受け取らない」という処理をする企業やプロバイダーが増えています。また、日本でも、一部の企業で同様の措置を採るところが出てきています。

ここで、「送信者の同意が無いのにメールを勝手に破棄できるの?」という疑問を持たれる方もいらっしゃるでしょう。確かに、日本の電気通信に関する法律では、検閲の禁止と相手への配送を保証しなくてはいけないことになっています。しかし、それはあくまで“電気通信事業”に対してかけられる法律であって、たとえば企業自体のメールに対しては効力を持ちません。

さらに言えば、日本ではメールは電気通信事業に含まれますが、たとえば米国では情報サービス事業に分類されますから電気通信事業の範囲外となります。ですから、極端な話で言えば、遠慮無く切り捨てることができます。このため、特に米国で「メールが届かない」という現象が顕著に表れているんですね(この部分は、10/6の記事「迷惑か否か、そこが問題なのではない(2)」でも少し書きました。覚えていただけていますか?)。

では、どのようにしてメールの受け取り拒否が判断されるのでしょうか。

実は、この方法として使われているのは主として「ブラックリスト方式」なのですが、このブラックリストの運用と管理は実にさまざまな方法で行われています。

ブラックリストを作成し、外部に提供する団体は世界中にいくつもあります。その中には、すごく真面目に運営されている団体もあれば、かなりいい加減な運用をしている団体もあるということをまず理解してください。

いい加減な団体が作るブラックリストというのは、たとえば次のような感じでしょうか。

まず、例として“プロバイダ内田洋行”というインターネットプロバイダがあったとします。そのお客として、Aさん、Bさん、Cさんという3人のユーザーが居ると仮定しましょう。

このとき、Bさんは営業目的で他のプロバイダのユーザーに向けて短時間に大量のメールを発行します。そのメールの多さに閉口した他のプロバイダの管理者やユーザーは、「プロバイダ内田洋行のユーザーBからスパムが送られた」という通報をブラックリストを作っている団体に対して行います。

このときの通報は冷静なものばかりではなく、感情的なものであったり、特定の相手に対する妨害を意図したものであったりと実に様々です。したがって、通報を受けた側は冷静に状況を確認して評価をしなければいけないのですが、いい加減な団体は、その評価をきちんとせずに通報をブラックリストに載せてしまうということをしてしまいます(この、事実の確認と評価というのは大変な作業です)。

一度ブラックリストに載ってしまうと、プロバイダ内田洋行のユーザーBさんは、以降、ブラックリストから除外されるまで、そのブラックリストを使用する相手にはメールを受け取ってもらえなくなります。

それだけでも大変なことですが、もっと極端になると、本来なら“プロバイダ内田洋行のユーザーBさん”だけを対象にすべきなのですが、管理上の面倒さから、「プロバイダ内田洋行全体を止めてしまえ」ということが起こりえます。そうすると、プロバイダ内田洋行のユーザーAさん、Cさんのメールまで影響が及んでしまうことになります。それって、とても怖いですよね。

もちろん、そうしたいい加減なブラックリストを作っている団体のブラックリストは実際にはあまり使われず、きちんと管理・運用されているブラックリストが使われるということにはなるわけですが、実際に相手側がどのブラックリストを使っているかということを知る機会はほとんどありません。

いまのところ、日本国内では電気通信事業法の関係もありますのでメールの不達はあまり起こりませんが、海外、特に米国とやりとりをする場合には注意が必要です。

以上は、メールを使う人たちに共通の問題として認識されるべきことかもしれません。先生方には、生徒に次の言葉を添えて説明をしていただけるといいのかなと考えています。

スパム(迷惑メール)が減らないのは、そのメールに反応してアクセスするユーザーが多いからです。結果として、味を占めたスパマーがさらにスパムをまき散らし、メールというサービスをどんどん不安定なものにしていきます。これに対抗するためには、スパムに対して無視を決め込むのが一番重要です。スパムに対する反応が無くなれば、スパマーは他の方法を考えざるを得なくなるからです。

この件について、もっと詳しく知りたいという方がいらっしゃいましたら、以下の記事を推薦しますのでご一読ください。ちょっと専門知識が必要になりますが、きちんとかみ砕かれていると思います。

▼ 出したメールが相手に届かない!? メールの不達問題とスパム対策の関係
http://internet.watch.impress.co.jp/cda/special/2006/11/09/13880.html

渡辺 俊雄(わたなべ としお)

株式会社オーグメント 代表取締役
1958年、東京生まれ。メーカー系システムエンジニア、大手コンピュータ出版社の書籍編集者、インターネット関連組織の広報などを経て2006年に独立。大学生と高校生の二人の子どもを持つ。

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