2007.09.30
  • twitter
  • facebook
  • はてなブックマーク
  • 印刷

Kiwi-BEST(2)

文京学院大学女子中学高等学校 英語科(英語クラス検討委員) 佐藤 泰正

前回からのつづき

 2年生になってからの英語コースの生活は、Kiwi-BESTという英語研修が中心に据えられています。ホームルームでは、全行程の説明、滞在中の諸注意、ホームステイについての確認…と他の事がらに優先して時間が費やされていきます。

 2年生ともなると部活動では中心的存在ともなりますし、予備校に通っている生徒や、英会話を中心とした習い事を継続している生徒も多数いるので、皆が時間を調整するのは大変な作業となります。それでも、それぞれ自由になる時間を都合し合って現地での日本文化紹介の準備をしていきます。グループによっては皇居や繁華街へ出かけて画像を取り込んだり、インターネットで基礎資料を整理したり、それらをパワーポイント内にまとめたり…。みんなで少しずつ相手に合わせることで、協調性も知らぬ間に培われていくものなのです。

 1年生の1月からクラスに加わっているOtago女子高等学校からの留学生はこの時期から質問攻めにされてしまいます。教室に入った当初はまだ馴染めないような留学生でも、これを契機として自分から母校について、New Zealandの文化や学校周辺の地域の特色などについて積極的に伝えようとしてくれます。

 ニュージーランドからの留学生との交流が深まった例として、こんなことがありました。これは以前に私が引率者としてKiwi-BESTに赴いた時のことです。生徒の一人が自由時間に現地のスーパーマーケットで買い物をしている時に、見知らぬ人が何か考えるように自分のことを見つめているのに気がつきました。種を明かせば、その見知らぬ人というのは、日本に留学中のニュージーランド留学生のお父様だったのです。その留学生は日本での様子を伝えるものとして家族に写真を何枚か送っていて、その中には本校でその生徒と一緒に写っているものが含まれていたのです。留学生のお父様はその写真を何度も見ていて、知らぬ間に娘と一緒に写っているその生徒の顔を覚えてしまっていたという訳です。思いがけない偶然の出来事でしたが、やがて話しかけられて事情が分かった後は、その方が自ら現地の案内を買ってでて、色々と面倒を見てくださいました。こんな土産話もあって、その後その生徒と留学生とは家族ぐるみの親密なお付き合いをするようになったそうです。

 さて、以下が今年度のKiwi-BESTの日程です。

7/19
空路にてニュージーランドへ
 ↓
7/20
北島オークランド経由で南島ダニーデンへ
学校到着後、ホストファミリーと対面ホームステイ開始
 ↓
7/21~ 8/ 2
学校にて午前中にはグループ別に授業開始
午後にもグループ別に課外活動
週末はホームステイ先のホストファミリーと行動
 ↓
8/ 3
ダニーデンを出発し、オークランドへ
昼食後、オークランド市内観光
 ↓
8/ 4
終日自由行動
 ↓
8/ 5
空路にて日本へ帰国

 授業以外の課外活動では、毎年内容を充実させようと工夫を凝らしています。今年度は、以下のような内容を実施しました。

・Dunedin(実習を行っているOtago女子高等学校のある街)の散策
…まず最初に、現地の先生方の案内で、2週間過ごすことになる場所を見て回りました。ニュージーランド第5の都市ながら、歩いて回れる小さな街です。その途中で、Early Settlers Museumという入植後間もない頃のNew Zealandの様子を伝える博物館に立ち寄りました。

・Maori文化の紹介
…New Zealandという国は先住民であるMaoriと西洋の文化がうまく融合している国です。そういった文化的な側面は学校教育の中でも伝えられています。本校生徒も歓迎セレモニーや授業の一環としてMaori文化を教えてもらいます。

・体育授業参加
…午後の体育の授業に飛び入りして、現地の生徒とバドミントンの試合を行いました。語学の授業とは一味違った経験を通して、交友関係を深めていきます。

・野生のPenguin/Albatrossの生息地の見学
 …New Zealandという国は自然環境を非常に大切にしています。観光ツアーとは異なり、自然環境に人間の方が合わせていかなければなりません。自然への考え方の違いを実感できます。

・地元の小学校Arthur Street School訪問
…幼い児童たちは、何の違和感もなくあっという間に本校生徒たちを受け入れてくれました。本校の生徒たちは小一時間かけて折り紙を紹介していました。New Zealandでの生活にも慣れた時期、生徒たちも自然に振舞うことができ、ここまでの研修の成果を実感していたようです。

 また、ちょうど私たちが訪問する時期というのが、先方での新入生募集の時期と重なっているため、学校説明会が開催されるようになっています(New Zealandでは公立校でも生徒募集の広告が新聞に大きく掲載されています。また、学校説明会は平日の夜に、親子同伴で参加する形態が一般的なようです)。本校の生徒たちの何人かは、半ばゲスト、半ばスタッフとして参加していました。これも文化の違いですが、その場にいてこそ実感できる面白い体験となったと思います。

 生徒たちが4月から準備していた日本文化紹介。今年は、以下の内容となっていました。

・自分たちの通う学校について
・近隣(巣鴨地蔵通り)の様子…いわゆる『おばあちゃんの原宿』の様子を通して、自分たちと同じ年齢層だけでなくお年寄りなど、別の側面の日本を伝えようとしていました
・日本の現在の教育制度の紹介…東京大学の校舎を紹介しながら、日本の教育制度について説明していました
・首都圏の交通事情等について…悪名高い日本のラッシュアワーの実態、自分たちも毎日使用している交通機関の仕組みなどを、山手線を中心としてまとめました。
・歌(『世界に一つだけの花』)…日本のポップソングを紹介して、その歌詞を英訳することで、歌われる内容は世界共通ではないかと投げかけました。

 普段何気なく通っている学校を紹介するのも、最初は生徒にとって一苦労だったようです。学校の沿革/校訓/生徒数/授業の内容/学校の施設など、相手に説明するために自分自身を見直す契機ともなったようです。また、最近ではPCを最大限に活用して内容も充実させられるようになってきました。パワーポイントによる発表等、世界のどこでも同様のツールを使っているからこそなせる技なのでしょう。ここでも生徒たちは、「世界は一つにつながっている」ということが実感できたと思います。

 現在生徒たちは、10月に行われる学園祭での発表に向けて準備を始めているところです。自分たちの体験してきた内容を検証してまとめると同時に、英語クラスでの大きな目標となっていた事がらを成し遂げた今、これから何をするのかを熟考する機会ともなるのです。2年生はこれから高等学校卒業後の進路という大きな目標に取り組んでいこうとしているとことです。このKiwi-BESTの活動は自分たちが力を出し切った証、これからも頑張っていくための糧となってくれることでしょう。

 これまで、本校で実施している英語教育の実践内容を中心にお伝えしてきました。文章を作成しながら、自分たちの行っている教育内容というのか、もしかしたら一人よがりなものとなっていないかどうか、不安に感じていました。また、肖像権等の問題から、敢えて映像を添付することは控えてきましたので、紹介した内容の実像をイメージしづらくなっていたのではないかという点も、心配でした。もしも、ご不明の点などありましたら、何なりとお申し出ください。

 これからは他の方々からも「こんなことを実現させた」「こんなやり方だって可能だ」という例をお知らせいただいて、情報交換が出来れば素晴らしいと考えております。今までの駄文にお付き合いいただきましてありがとうございました。

佐藤 泰正(さとう やすまさ)

文京学院大学女子中学高等学校 英語科(英語クラス検討委員)
こんにちは佐藤です。都内の私立女子校で教壇に立って、もう20年以上になりました。学校生活のこと、英語学習のこと、その他、思うところを発信していきます。

ご意見・ご要望、お待ちしています!

この記事に対する皆様のご意見、ご要望をお寄せください。今後の記事制作の参考にさせていただきます。(なお個別・個人的なご質問・ご相談等に関してはお受けいたしかねます。)

pagetop