2007.06.24
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留学生が学ぶもの、留学生から学ぶもの

文京学院大学女子中学高等学校 英語科(英語クラス検討委員) 佐藤 泰正

 本校では毎年、何名かの留学生を迎え入れます。ニュージーランドにある姉妹校からやってくる生徒、アメリカコネチカット州にある本校との交流団体を通して受け入れる生徒、そして国際ロータリークラブなどの団体からの留学生などです。このような定期的に交流を結んでいる学校からの留学生以外にも、昨年は韓国から、今年は中国からの生徒たちの訪問がありました。

 この学びの場.comでも様々な国際交流の実践例が紹介されていて、大変興味深く拝見しております。
 毎年アメリカのコネチカット州からやって来る短期訪問の生徒を別にすると、本校での留学生との学校生活は、『ひかえめ』と映るかもしれません。しかし、これも一つの手法であり、本校では留学生が日本人の生徒と同等の学校生活を共にすることによってこそ、留学生と本校の生徒たちの双方が、互いに刺激し合うことになると確信しています。

 校内スピーチコンテストにおいて留学生が自己紹介や日本での生活の印象を語るゲストスピーカーとして指名されることを除いては、自分のホームルームクラスで他の生徒と全く同じ学校生活を送ります。授業は基本的にこのホームルームクラスで受けることになっています。留学生は本校の生徒の一員であり、特別扱いしたりせずに、他の生徒とともに教育活動に励んでもらいたいと考えているからです。

 古典や日本史など、理解するのが大変な科目では、別室で日本語の授業を受けるのが一般的ですが、中には日本史を受けてみたいといって出席する者もいますし、生徒によっては数学や理科など得意な科目があれば、学年を超えて参加することもあります。また、所属学年によって受講できない科目―芸術(音楽/美術/書道)は他学年のクラスに入って参加します。このように授業の選択については、各留学生はアドバイザーと相談しながら、ある程度各自の判断に任されています。

 最初はどの留学生も右も左も分らない状態から、教室で授業を受けて、時には教員の指示の内容を周りの生徒たちに教えてもらいながら一緒に授業に参加します。学校生活は一見平坦に過ぎていくようですが、彼らにとっては毎日が新しい発見の連続でしょう。朝や授業開始と終了時の挨拶、休み時間の友人同士の雑談、お昼休みのひと時、掃除当番や委員会活動…。ほとんどの場合、どの生徒もこのような『普通の生活』を通して目覚ましい成長を遂げていきます。

 いたって単純なことなのですが、特別扱いしないで接していけば、生徒は経験を通じて様々な事柄をおのずから吸収していくのです。まして、彼らは、『日本語や日本の文化を勉強したい』という気持ちを強く持っています。こうして、最終的に流暢な日本語と沢山の友人たちを得て母国へ戻っていくことになります。

 留学生たちと本校生徒との間に強い絆が結ばれていくのは、世話焼きで人懐っこい生徒がたくさんいるからという(これもきっと校風なのでしょう)のも理由の一つかもしれません。また、両者が、自分たちにないものを感じ取り、お互いに良い刺激を受けているからというのが、最も大きな理由となるでしょう。

 留学生はみな、自分たちに与えられたチャンスに感謝し、最大限の努力をします。そして、その気持ちが本校の生徒を惹きつけます。留学生と生活をともにすることで、学習への貪欲さだけでなく、感謝の気持ちの表現、ものを大切にする姿勢、年長者を敬う態度など、彼らの様子に、本校の生徒たちが居住まいを正すということもままあります。そして、どの留学生も、分け隔てなく接してくれる優しさ、全てを思いっきり楽しんでいる日々の生活、型に捉われない柔軟な発想などに、「日本人」という固定観念を破って友人関係を築いていきます。

 私自身は今までに3人の留学生のホームルームクラスを担当してきました。マレーシア、ドイツ、スイスからの留学生たちです。どの生徒たちと過ごしたことも楽しい思い出です。修学旅行(本校の渡航先はシンガポール/マレーシアとなっています)では案内をかってでてくれたマレーシアからの留学生、クラスの他の生徒と意気投合して、それぞれ高校を卒業後にドイツワールドカップで再会を果たしたドイツからの留学生、卒業してから数名の生徒が本国の家庭を訪れた際に、母国から私宛に日本語で手紙をくれたスイスからの留学生…どの子も個性的で魅力的な生徒ばかりでした。

 中でも印象に残っているシンガポールからの留学生との交流を紹介します。彼女は私のクラスに2年次に在籍していました。剣道部に所属し、最終的には初段も取得するほど打ち込んでいました。部活動で合宿をしていた時の様子を彼女は語ってくれました。

 「みんなで一緒にお風呂に入るというのは、最初とても恥ずかしく感じていました。でも、ある子が、『何を恥ずかしがっているの。あなたと私たちは何も変わらないのよ。』と言ってくれたのです。」このことから、自分は本校の生徒の一員なんだなと実感したそうです。

 そんな彼女も帰国することとなり、年の瀬にクラスでお別れ会を催しました。終業式の慌ただしい中でしたが、彼女はクラス一人一人にそれぞれの言葉で私との思い出を一言告げて欲しいと告げました。「忙しい人は帰ってください、私は本音でとことん話をしたいから。」という彼女の一言で、彼女とのお別れ会は、涙と笑いと入り混じった、かつてない心の通った素晴らしい会となりました。今だから白状しますが、もう遅いから帰りなさいとも言えず、結局終了したのは9:00過ぎでした。そんな遅い時間となったのに、殆どの生徒が最後まで残っていました。他に誰もいない寒々した中でみんなで校庭から星を眺めていたのを思い出します。彼女と他の生徒たちとのやりとりは今も続いているそうです。

 文科省による留学制度の概要という資料によると、留学生交流の意義として「人的ネットワークの形成」「相手国と我が国との架け橋としての役割を担う」といった言葉が散見されます。

 その実現のために各校では、留学生受け入れのシステム作りや、企画する学校側の体制作りに熱心に取り組んでいる訳ですが、誰もが多感な年頃を迎える高校時代という時期においては、「留学生」という名のお客様を受け入れるのではなく、もう一人自分たちとは違う価値観を持つ仲間を迎え入れるということは、行事という一過性のものでは済まされないものなのではないかと思います。

 いかに濃密な時間を共有できるのか、理解し合い、時には意見を衝突させることもしながら、感動し合うという体験なくしては、国際交流によって国と国との架け橋となる固い人間関係は結ばれはしない、私はそう実感しています。生徒の人生を左右する国際交流。そこには公式はありません。これからも、地味ではあっても、学校も生徒同士も、絶えず試行錯誤をしながら模索していきたいと考えています。

佐藤 泰正(さとう やすまさ)

文京学院大学女子中学高等学校 英語科(英語クラス検討委員)
こんにちは佐藤です。都内の私立女子校で教壇に立って、もう20年以上になりました。学校生活のこと、英語学習のこと、その他、思うところを発信していきます。

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