2007.06.10
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生徒に行動を起こさせるために…その(2)

文京学院大学女子中学高等学校 英語科(英語クラス検討委員) 佐藤 泰正

 残念なことですが、一つの事柄にこつこつと地道に取り組むことができない生徒が増えたということをよく耳にします。ところで、それは本当なのでしょうか。もちろん、十年前、二十年前の高校生たちと現在の生徒たちとでは、物事に取り組む際の手順や発想は異なっている部分はあるでしょう。それでも、(今までに何度も述べさせていただいておりますが)だからといって現在の生徒たちに学ぶ意欲が欠けているということは絶対にありません。

 一つ言えるとしたら、かつての生徒と比較すると、学校内/学級内で、現場の教員が一人一人の生徒への働きかけそのものの回数はずい分と増えているということが挙げられます。これは、現在の高等学校生たちが受けてきた指導の内容そのものが、以前とは比べ物にならない位に、生徒各自の個性や適性を考慮に入れた細かなものとなっているからではないでしょうか。

 小学校/中学校で手をかけられてきたものが、高等学校に入学したからといっていきなり大人として扱うこと、そして彼らが大人として振舞うことはいささか無理があるのではないかと感じています。(生徒を大人として扱うべき年齢の問題、初等中等教育で生徒といかに接するべきかという問題はあまりにことが大きく、また別の話となると思われます。)つまり、初期の段階では非常に細やかな指導を行ってきたのに、一定の年齢に達したと思ったら、『何から何まで自分でやれ』と放り投げてしまうのでは、屋根に登らせておいて、梯子を取り上げるような行為に似ているのではないでしょうか。

 私は、高等学校でも、学習に対しての今まで以上にきめ細かい働きかけは欠かせないものなのだと考えます。まずは、第一歩を自主的に踏み出させることです。その実践例として、私の教鞭を取っている学校で行っている指導を紹介いたします。

 私の学校ではAA点と呼ばれる評価点が導入されています。AAとはAssessment of Activityの略で、授業中の発言やノート/レポート提出などの幅広い活動(Activity)を評価(Assessment)に組み入れていこうという試みです。平たく言ってしまうと『平常点』となりますが、この評価を充実させることで、生徒のやる気を大いに引き出していけるのです。AA点の算出方法は教科/科目によって異なりますが、私が普段用いている方法を例として見てみます。

 1.毎週1回ノート提出を課す

 「最終的に自学自習が出来るようになるには、自分のためのツールが必要になる。それが、授業の内容やそこに自分の考えをまとめたノートとなる」と、生徒には常々伝えています。そのため、授業中には板書事項の一言一句漏らさず記入すること、板書せずとも口頭で触れた内容についても自分が大切だと思った事がらについても書き加えておくことを指示しています。これを実際に実行するには…50分の授業に目一杯集中することが求められることになります。

 提出されたノートを点検すると、生徒がどの位のスペースを用いてそれぞれの事項を記入しているかで、字の丁寧さやノートの活用の仕方などからそれぞれの生徒も理解度もある程度把握できます。記入漏れを指摘したり、大事な箇所を注意したり、十分にまとめられているノートを他の生徒に紹介する。これが毎週のAA点1点分となります。導入して最初の頃は、ただ言われたままに取り組んでいるだけの生徒も、このようなやり取りを続けていくうちに、やがて授業のどこが大切なのか、教員の言っていることのどこが重要なのか、自問自答したり、積極的に質問したりするようになります。

 2.授業中の発言を書き留めておく

 私は、授業中には各クラスの生徒の名前を記入したカードを用いて、ランダムに生徒に質問をしていきます。事前に予習を指示しておいた箇所、発展的に考えてもらいたい部分、また前回の大事な事項など、単純なものからこれはちょっと答えが出てこないだとうというものまで、とにかく色々な質問をするように心がけています。生徒は、自分がどの場面で何を尋ねられるか分りませんから、絶えず頭を使っていくことがもとめられるのです。そして、答えられたら1点で答えられなかったら0点のAA点をその都度つけていくことにしています。生徒たちの中には、この方法に慣れるまでは、難しい問題が当たって不公平だなんて文句を言う者も出てくることがありますが、そう言ったそばから単純な質問を問われることもあって、やがてはそんなもんかと納得して、授業に集中するようになります。

 3.小テストを実施する

 本校の1年次の英語の授業では、中学英語の総復習として、毎週1回ずつ、英文法の初歩の初歩から体系的に知識を改めて積み重ねていく「B-Rabbit」と呼ばれる指導を行っております。毎回の小テストは20点満点で、このテストの点数を、20点はAA点3点、19~18点で2点、17~15点で1点、14点未満は0点という配分で加点していくことにしています。
 最初の段階ではbe動詞から導入されますので、ほぼ誰もが満点という状態となります。最初さえうまく波に乗れれば、誰しも「この次も!」という気持ちで取り組めるものです。


 上記のように加点したAA点を定期試験毎に集計し、10点~20点に収まるように圧縮します。定期試験そのものも100点満点の得点を90点~80点に圧縮し、AA点と合わせたものが各自の成績となります。成績を提示する際には、もちろんAA点分(項目別配点も)、定期試験分として提示してありますので、自分がどこで頑張ったか、どこでできていなかったかが自覚できるようになっています。

 このように細かく確認作業を続けていくのは、実際には教科担当者としては面倒でもあります。毎回のノート点検、得点集計、時には生徒に注意を喚起したり…。しかし、これは教師が担う生徒のやる気を引き出す当然の役割だと認識しています。

 ここに挙げた取り組みはあくまでも私個人の実践例で、他の教員はそれぞれ独自のやり方で工夫をしています。『これは良い!』という方法は積極的に取り入れ、現場では日々改良を重ねています。また、このように「手のかかる」指導は、実はいつまでも続く訳ではありません。学年が上がって行くに従って、生徒たちは大きく成長していきます。3年生になるまでには、それぞれが自分がすべき事がらを自覚して目標を設定し、その目標を実現するために必要となることを、一人一人が見つけ、取り組んでいきます。教員は、適宜それぞれの生徒たちに助言し、励ますことを中心に接していくことになるのです。このような3年間もしくは6年間の成長の過程を、私は大切にしていきたいと考えています。

佐藤 泰正(さとう やすまさ)

文京学院大学女子中学高等学校 英語科(英語クラス検討委員)
こんにちは佐藤です。都内の私立女子校で教壇に立って、もう20年以上になりました。学校生活のこと、英語学習のこと、その他、思うところを発信していきます。

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