2007.05.13
  • twitter
  • facebook
  • はてなブックマーク
  • 印刷

生徒の「やる気」はどこに…

文京学院大学女子中学高等学校 英語科(英語クラス検討委員) 佐藤 泰正

 英語の表現に、
“The anxiety that comes from doing nothing”
『何もしないことから来る不安』

 何もしないことから来る不安の方が、実際に直面する危険の方よりもずっと大きいものであるとして、とにかく行動を起こすべしとして引用されるものです。私も、時々教室などで使っています。要は、本人のやる気が大切だとして紹介しているのですが、この「やる気」というのが曲者です。

 生徒を取り巻く環境について考えてみます。今時の中学生は大半が塾に通っているものとお思いではありませんか。何となく、「勉強に追い立てられている」高等学校受験生の姿が思い浮かべられるのではないでしょうか。では実態はどうなっているのか…。
 正確な数字が公表されている訳ではありませんし、地域によって通塾の状況は大きく異なるので、あくまでも一例としてお読みください。

 中学時代は一切塾には行かないという生徒もいるにはいるようですが、やはり現在ではこれは少数派となります。大多数の生徒が塾通いをしているという認識は間違ってはいないようです。しかし、公立中学校では1年次から塾に通う生徒たちというのは全体のせいぜい三分の一程度で、大半の生徒が塾に通うのは2年生の後半からだと言われています。中には3年生からという生徒もいて、それら生徒は短期集中型で所謂「受験対応」の勉強内容に絞って学習するのだそうです。乱暴な言い方をすると、付け焼刃です。

 また、現在の塾の形態は、教室内に一人用のスペースを区分したブースを設け、塾の先生方はそれぞれのブースを巡回して各生徒の疑問点に対応する個別指導体制が流行っているようです。かつての学校の教室をそのまま塾に移したような一斉授業形式では、応対する生徒の数そのものはずいぶんと少なくなっているのではないでしょうか。

 あくまでも参考としての話でしたが、現在の中学生を取り巻く環境は、現在このコラムをお読みになっている大人の方々の多くが体験したような学習形態は、部分的には様変わりをしてしまっているという実態を認識しておくべきでしょう。

 このような環境で育ってきた生徒たちが高等学校に入学します。それぞれの生徒は、今までの学習環境から新しいそれへと自分自身を対応させなければならないということです。

 くれぐれも勘違いをしないでいただきたいのが、生徒の「やる気」についてです。「今時の高校生にはやる気が足りない」とか「真剣味に欠ける」といった声は耳に入ってきます。しかし、これまでに幾度となく新入生を迎えてきた経験上、いつ入学してきた生徒も、その目の輝きは変わらないということには確信を持っています。どの生徒たちも等しく授業に熱意を持って取り組もうとしていることは、間違いありません。彼らが無気力なんて、とんでもないのです。それぞれの授業から新しい知識を引き出そうとする姿勢は、本当にやる気に満ちています。それでもやっぱり最近の生徒の様子を見ると、対応しきれないほどの多くの変化を一気に受け止め、身動きが取れなくなっているのではないかという危惧を持っています。

 前回も触れましたが、今時の高校生は忙しい。やること山積、やりたいこと山積の状態です。そんな中で、学習に関しては、幾つかの行事(概ね定期試験)を契機に、生徒たちは自力で第一歩を踏み出していきます。行きつ戻りつして、自分なりのやり方を見つけて歩みだします。このような状況の中で、学校が、教師が取り組むべきことは何でしょう。「中学までの学力が定着していないじゃないか!」と大量の課題を与える―春休みの課題/大型連休の課題/夏休みの課題…。現状を鑑みれば、非常に効率が悪く、対応できる生徒も中にはいるでしょうが、課題を出す側にとっても、出される側にとっても成果を手にするよりも苦痛を感じることの方が多くなってくるはずです。現状を踏まえて、できる限り実りを多くするような対応を、私たちは考えていかなければならないはずです…。

 このような状況の中で本校が取り組んでいる実践例については、次回提示させていただきたいと思います。

佐藤 泰正(さとう やすまさ)

文京学院大学女子中学高等学校 英語科(英語クラス検討委員)
こんにちは佐藤です。都内の私立女子校で教壇に立って、もう20年以上になりました。学校生活のこと、英語学習のこと、その他、思うところを発信していきます。

ご意見・ご要望、お待ちしています!

この記事に対する皆様のご意見、ご要望をお寄せください。今後の記事制作の参考にさせていただきます。(なお個別・個人的なご質問・ご相談等に関してはお受けいたしかねます。)

pagetop